9話:姫琉と取引
「お願いだぁ……?」そう言われ怪訝な顔をするカルサイト。
そんな彼の顔を見てもニッコリと笑ってみせた。
私は珍しく普段使わない頭で考えた。
何をって、それはもちろんセレナイト様を助けるためにエルフの国に行く方法だ。
その為には、スモモちゃんことカルサイトは大変都合がいい。
この世界、なんとも面倒な事に陸路で行き来できる国はこの土の国と風の国くらい。
それ以外は必ず他国に行くには船が必要になる。
そこでスモモちゃんだ!!
彼は主人公の行く先々に場所、国を問わずいた。
と言うことは、彼は国を渡る手段を持っているはず。
彼を一緒に旅に連れて行けば移動手段の問題は解決だ。
(これでセレナイト様を助けに行ける!!)
なのでこの交渉は絶対に失敗できない。
そして交渉を失敗しない為に、私は笑顔を絶やさない。
昔、瑠璃ちゃんから聞いたのだ。
『自分が不利な時ほど、余裕ぶって笑顔で笑っていなさい』って。
そのおかげか、微笑みを浮かべた瑠璃ちゃんが考えた企画や提案、お願い事は通らなかったことがなかった。まさに魔性の笑みである。
(瑠璃ちゃんみたいにとはいかないが、決して動揺は見せないぞ!!)
普段使わない頬の筋肉が僅かにピクピクとしている。ちょっとだけ大袈裟に口端をあげてにんまりと笑った。カルサイトは驚いたのか一瞬目を大きく見開いた。そして私は微笑みながら、話を続けた。
「お願いって言うよりは、取引です。私がただ口外しないって言っても信じないだろうから条件をつけようと思って」
カルサイトの目を真っ直ぐ見ながら相手の出方を窺うっていると、カルサイトが銃をしまい、代わりに腕を組んだ。
「条件……?」
「そう条件。その条件を守ってくれる間は私はこの話を口外しないと誓います」
「そんな口約束を信じろと? 馬鹿馬鹿しい……」鼻で笑い提案を一蹴する。
(んー……瑠璃ちゃんみたいにすんなりとはいかないなぁ……)
でも諦めずに笑顔を崩さずどんどん攻めていこうと、今度は少しだけ挑発的にいく。
「それじゃあ、守るハズがないとこの提案を断って、私をその銃で撃ちますか?
ただの無抵抗な少女を撃ったと知れたら、あなたの正体がバレなくても困るんじゃないんですかねぇ?」
ゲームの世界といってもここは無秩序な世界ではない。
人を意味なく殺せば当然罰せられる。
「精霊を連れた精霊術師を無抵抗の少女と言えるか……?」
アルカナを横目で見て言う。
確かに精霊術は強力だ。魔物を倒す様に、人にそれを向ければ十分凶器になる。
だが……。
「私、別に精霊術師じゃないですよ?」
「何言ってやがる……現にこうして精霊を連れて、精霊術だって使ってたじゃねぇか!」
カルサイトが言う精霊術師とは、精霊と契約をして魔力を送る代わりに精霊に魔法を使ってもらうことを精霊術師と言う。ところが私とアルカナは別に契約はしていない。
あくまでアルカナが自分の魔力で魔法を使っただけなのだ。そもそもこの世界の住人じゃない私に魔力ってあるのかわからない。
「そう! そうだよ! さっきから黙って聞いてたらヒメルに意地悪ばっかり言って!」
ずっと大人しくしていたアルカナだったが、カルサイトが私に意地悪していると思ったらしく、可愛らしい声で怒鳴った。怒ったアルカナは目を吊り上げてカルサイトの顔面に迫る。
「ヒメルは大事なお友達だから困ってたら助けるのは当然でしょ! 人間はすぐに契約したがるけどそんな目に見える約束しか信じられないの!?」
(捕捉・精霊と契約をすると体に刺青みたいた模様が刻まれるよ! byエレメンタルオブファンタジー攻略本)
カルサイトは、怒ってるアルカナにどうしていいかわからない様でたじたじだ。
今が勝機と思い、一気に攻める。
「そう言う訳で、私を万が一殺しても精霊術師である証は出ません。周りの人から見たらただの一般人です。それとも〜……あなたはただの一般市民を殺す気ですかぁ?
大体、商売って互いの信頼から成り立つ職業ではないんです? 相手提案を一蹴して力技でどうこうしようなんて、商人の風上にも置けないですよね。それで、旅商人の隊長とはヘソで茶が沸かせちゃいますよ!!!!」
もはやぐうの音もでない様子。
(よし! これは勝った!!)
勝利を確信しつつもまだ笑顔を絶やさない。
「……ったよ」
「はい? なんですって」
「ぁあ!! わかったよ! そっちの話を信じてやるよ!」
「と言うことは?」
「交渉成立ってことだ……」
差し出された手を握る。
でもまだ笑顔は崩さない。
(ここまではうまくいった……あと一息)
そうここで終わりではない!
「で、そっちの望みはなんだ? 文無しってところを見ると金か?」
はいっ! 第二ラウンド開始!
「確かに今お金持ってませんけど、お金なんて貰った後にとんずらしたら、約束が守られてるか確認できないじゃないですか?」
「じゃあ何が望みだ?」
ここで言ってしまってもいいが断られるのは目に見えている。
こういう時には、相手が逃げれない様に退路を経っていく必要がある。
「そうですね、じゃあ逆に聞きますけど“何ができないですか”?」
「なんだそれ?」
質問の意図がわからないようで、不思議そうに首を傾げた。
「できないことを頼んでもしょうがないので先に確認しようかと」
さらにすごく不思議そうな顔をしたが、しばらく考えてから口を開いた。
「そうだな……まず、人殺しは勘弁してほしい。さっきはあんな事言ったが、犯罪者になりたくはないしな。同じ理由で盗みもパスだ。あとは、城に戻れって言うのもなしだ。なんの為の取引かわからなくなる。他には、国に関するあれこれも同じ理由でなしだ。この国に不利になることはしない」
「それ以外なら大丈夫ですか?」
コレなら大丈夫!!
完封勝利を確信したその時だった。
「そうだな、あとはあの双子の二人……キンとギンに迷惑がかかることもなしだな。あくまでコレは俺とお前の取引なんだからな」
「!!!!」
嫌な汗がドバドバ出る。頭を抱えたくなる。
貼り付けていた笑顔が崩れそうになる。
(今、『それ以外なら大丈夫ですか』なんて聞かなければよかったっ!!)
覆水盆に帰らず……。今更後悔しても遅い。
いやでも……コレはグレーゾーンかな?
二人に迷惑がかからなければいいんだもんね!!
………………多分、迷惑じゃない……よね?
「それ以外なら、まぁどうにかしてやるよ」
半分諦めた、投げやりな感じで言うカルサイト。
(でもここで連れてってもらえないとエルフの国は遠いぞ!!)
セレナイト様を思い浮かべる。
そして、意を決して言うことにした。
「条件は一つ! 私をエルフの国に連れてってください!!」
「はいぃぃーーーー?」
記念すべき10話目です!
20.11.2加筆修正
21.1.9 加筆しました。




