83話:姫琉とカソッタ村の住人
洞窟の下見を終え、何もなかった事を確認するとカソッタ村へと戻ることにした。
帰り道の森もあまりに静かで穏やかで、本当にあと数日すると魔物が溢れるのかと、疑問に思ってしまうほど平和だった。
ふと、前にウッドマンさんが言っていた事を思い出す。
『魔力枯渇による魔物化が原因ではない以上、それが起こる別の明確な起因がどこかにあると考えるべきである』
あの時、ウッドマンさんが話してくれた“コップにヒビが入った原因”。つまり、魔物が大量に発生した原因。
歩きながらもない頭をフルに働かせる。
もし、ゲーム通り魔力が不足だったとしたら。今はノームの洞窟もこの森にも魔物の姿は見えない。つまり、鎮守祭までの残り数日で魔力がごっそりなくなるような事が起きなくてはならない。
すでに、魔力が徐々に減り始めている可能性もなくはないが
「アルカナ、さっきの洞窟って魔力が薄かったりした?」
「全然、全然♪ そんなことなかったよ? むしろいっぱいだったよ♪」
小さな腕を大きくしながらアルカナがどれくらい、いっぱいだったかを説明してくれた。その姿に思わず表情筋が緩んでしまう。
「そっかーそうだったんだねー。一生懸命教えてくれてありがとう」
肩に乗るアルカナの頭を軽く撫でた。
──はわー本当にアルカナの可愛さが天使。
「えへへ♪ あっ……でもね? 魔力はいっぱいだったんだけどね。なんかちょっとだけふしぎな感じがしてたよ?」
「ふしぎな感じ?」
その言葉に首を傾げると、アルカナが手で何かを表現しながら「ふわふわじゃなくて、もこもこ?」とか、説明してくれようと悪戦苦闘していた。しばらくすると手をポンと打ち、何かを閃いた様な顔をした。
「ちょっとだけヒメルっぽかった!」
「………………ん?」
アルカナが言った事が理解できずに思わず歩くことも忘れてフリーズしてしまう。
──ふしぎな感じが私っぽいとは一体?
「なんかね、なんかね。あそこね、ヒメルがあちこちにいる感じがしたの」
「………………うん! そうなんだね、よくわかったよ!!」
「ヒメルちゃんは今の説明でわかったのかの? 儂にはさっぱ……ッ痛いの! 後ろから蹴らんでも」
アルカナの説明にケチをつけようとした、ランショウの背中を思いっきり蹴飛ばした。
私も本当は全然わかんないけど、せっかくアルカナが一生懸命教えてくれたんだ。自分の理解力の無さを反省しつつ、次にウッドマンさんにあったら聞くとしよう。
「そろそろ村に着くから、鞄に一旦隠れててね」
アルカナは元気よく返事を返すと、いつもの鞄に隠れた。
「オイ、なんか村の入り口が騒がしいぞ」
一番先頭を歩くコランダムが、わずかばかりに見えてきた村を見ながら言った。
「確かに、誰かが怒鳴っとる様じゃの。何かあったのかもしれんの?」
「とにかく急いで戻ろう!」
──もしかして村に魔物が出たの!?
そんな不安を覚えつつ、急いで村に戻るとそこには数人の村人と睨み合う隊長の姿があった。
「この騒ぎは一体なんなのかのぉー」
ランショウのその言葉に、全員の視線が一気にこちらに向いた。
「……チッ、お前らか。これは村の人間の問題だ。口出しするんじゃねーよ」
そう吐き捨てた隊長とは打って変わり、ランショウに近づいてくる人がひとり。
麦わら帽子に土で汚れたオーバーオールを着たお爺さん。
「ラー坊!」
「ジルコン爺さん。どうしたんじゃ、何の騒ぎかのぉ?」
彼はこの村に入った時に、話しかけてきたおしゃべり好きのジルコン爺さんだ。
ちなみに話を途中で聞いていなかったので、ランショウの事を『ラー坊』と呼んでいたのは、初耳だった。そんな彼が、ランショウに事の経緯を説明し始めた。
余計な話も多かったので割愛すると、隊長ことカルサイトが、何の説明もなしに村から離れる準備をしろと、村中に言っているそうだ。
村人たちとしては、そんな説明もなしに「はい、そうですか」といく訳もなく、ここで隊長を問い詰めていたそうだ。
「理由を聞いても答えないから、こっちも困ってるんだよ」
ジルコン爺さんも含めて、他の人達も困惑していた。
それに対し、隊長は理由を説明せず、ただ黙っていた。
──魔物が、村を襲うかもしれないから避難して欲しい……なんて、私の話だけで、なんの確証もないのに言えないよね。
私としても、万が一何も起きなかった時に、責められたくないので口を挟まずに傍観している事にした。
「なんでも、とんでもない魔物がこの村を襲うって話らしいぞ?」
ランショウが喋りやがった。
その発言に、隊長の額の血管が浮き上がりピクリピクリと動いてる。今すぐにでも殴りかかりそうな雰囲気だ。
しかし、私としてはまだセーフだ。
その情報の発信源が私だと、知られなければ大丈夫。
「魔物がこの村を襲うって? どうしてそんな事わかるんだよ」
「あぁ、あそこにいるヒメルちゃんが言っとったからのー!」
ランショウが後ろにいた私を指さした。次の瞬間には、ジルコン爺さんを含めて村人たちの視線が一斉に私に向いた。
「ヒメルちゃんは占い師らしいぞ!」
──余計な事を、ランショウ……あとでブッ飛ばす!
私の姿を見た村人たちがざわざわと何かを言っている。はっきりとは聞こえないが、所々聞こえてくるのは「えっ……あんな小さい子が占い師?」とか「からかわれてるんじゃないの?」とかそんな事ばかりだった。
仕方ないけど、少し……嫌な気持ちになり、思わず鞄のショルダー部分をギュっと握った。その時だった。
「コラー! ヒメルを悪く言わないでっ!」
鞄から可愛らしい声が辺りに響く。
どこから聞こえたかわからない声に、私に視線を向けていた村人たちは辺りをキョロキョロと見渡した。次の瞬間、鞄からアルカナが飛び出した。
私と村人の間に浮かぶアルカナに、全員の視線は釘付けだった。
「ヒメルをいじめる人は許さないんだから!」
両腕を腰に当てたアルカナが怒りをあらわに、村人たちを睨みつけた。
いつも読んで頂いてありがとうございます。
突然ですが、次回の更新で第一章を完結とさせていただきます(予定)。
第二章から鎮守祭、ゲームがスタートしてからのストーリーになる(予定)。
第二章を始める前に、キャラ紹介とか作りたいな(願望)。
24.5.8修正




