81話:姫路とノームの洞窟と壁
翌朝。
村から一時間程、整備されていない森の中をひたすらに歩くとポッカリと空いた洞窟の入り口に辿り着く。
「やってきたよ! ノームの洞窟!!」
思わず両手を天高く上げて歓喜の声を上げた。
これはいわば聖地巡礼なのだ。
ゲームで自分が冒険したダンジョンを実際に見るのは、ウルズの泉の時もそうだがとてもテンションが上がる。実際には、木々の音と鳥の声しか聴こえていないが、私の脳内にはバッチリゲームで使われていたBGMが再生されている。感極まって思わず泣きそうだ。
「ここが迷ったら二度と帰れないと言う、大精霊が眠る洞窟かのー。こりゃ確かに迷いそうじゃのー」
洞窟の中をチラリとみたランショウがそんな感想を漏らした。
このノームの洞窟は全部で十階層になっており、途切れた道を岩を落として進めるようにしたり、塞がった道をつなげたりしながら魔物を倒し進んでいく仕様になっている。他にも、細かいイベントがあるが大まかにはこんな感じだ。
進んでは戻って道を繋ぎ、また進んで、戻って……をひたすら繰り返す。
気力と忍耐がいる。
が、私はそんなことはしない!
だって面倒だし!
今回は、ちゃんと秘策を用意しているのだが……。
チラリと後ろを見る。
「……何見てんだ。行くならさっさと行けよ」
浅黒い筋肉の男こと、コランダムが何故だか一緒についてきたのだ。
今日は下見だけのつもりなので、私とアルカナ、秘策の為のランショウだけで充分だと伝えたのに、付いてきた。私としては、昨日の一件があったのでいつ戦いを挑まれるか、隙を見せたら殺られるんじゃないかと気が気じゃない。
寒気を覚え両肩を必死にさすった。
「ほ、本当についてくるの? 魔物が出るかもわからないし……村で待っててくれていいんだけど」
「くでぇんだよ。付いてくって言ってんじゃねーか。それとも何か? 付いてこられたら何か不都合でもあんのかよ……ぁあ?」
「………………いえ、なんでもないです……」
諦めた。
ここで無理に返しても結局、後が恐い気がする。
ちなみに他の二人はカルサイト指揮の元、宿泊代という名の労働に勤しんでいる。
戻って畑仕事を手伝わされる位なら、魔物が出なくてもこっちの方がマシということだろう。
大きな岩の割れ目のような入り口を潜る。
この洞窟は下に、下にと続いている。
天井は高く、所々に橙色や黄色に近い色の石が光っている。
よく見れば足元にも、天井ほどではないが所々に同じような石が落ちていた。
──これが土の精霊石かぁ。天井にあるのは取るの大変そうだし、落ちてるの拾っていけばいいかな。
土の精霊石は、建物を建てる基礎に使ったり、ゴーレムを作ったり、弱った土を元気にしたりと日常生活でも使えるらしい。
昨日、ノームの洞窟に潜る話を隊長にしたらコレを拾ってくる様に言われたのだ。
この先、精霊石で稼げなくなる前に売れるだけ売りたいんだそうだ。
特に土の精霊石は火の国では高く売れるらしい。
借金まみれの私に拒否権などないので、あくせくと預かった皮袋に精霊石を詰めていった。
「ペル坊の言った通り、道が入り組んでいる様じゃのー。ヒメルちゃんはどっちに行けばいいか知っとるのかの?」
ランショウが辺りを見渡しながら尋ねてきた。
洞窟の中は広いのだか、最初の進める道は3本。
ゲームでは一番左の道は行き止まりで、真ん中の道には魔物が居て最初は主人公は不要な争いを避けるため通らない。一番右の道に進むと下へと進めるが道が途切れていて先に進めない。
真ん中の道に戻り、魔物を倒して岩になった魔物を右の道に落として道を作って先に進む。
基本十階層まで、こんな感じの繰り返しだ。
面倒臭いが仕方ない。だってゲームだもの!
でも、こんなことをしてたら何日かかるかわからない。しかも今は、岩になる魔物が居ない可能性の方が高い。なので──。
「一番左の道に進んでくれれば大丈夫」
あえて、行き止まりの道を選んで進んだ。
「んだよ。行き止まりじゃねーかよ!」
コランダムが声を荒げた。
ランショウも不安気に聞いてくる。
「ヒメルちゃん。道、わかってるのかの?」なんて溢した。
進んだ道の先には、天井まで壁が立ち塞がっている。正真正銘行き止まりなのだが。
「アルカナ、この壁壊せそう?」
いつもの肩掛け鞄に語りかけるとアルカナが鞄から出て、壁をまじまじと見ながら「うーん」と難しそうな声をあげた。
「ん〜……。いつものでヒメルがパンチとかキックしたら壊れるかな?」
「……やってみよう!」
無理な感じもするけど、やらずに無理だと決めつけるのは嫌なので挑戦することに。
──それにアルカナの私になら壊せるという信頼に応えたい。
いつもの様に風を体に纏うと、全力で壁に蹴りを入れた。
風のぶつかる音と、“ガンッ”と言う鈍い音がなるも壁はびくともしなかった。
「んーやっぱり壊すのは難しいかな……いっそう強い精霊術使う? 風の上級だとトルネードとか? タイフーンとかかな……」
「いやいやいや。ヒメルちゃん、使えたとしてもそんなの使ったら洞窟が崩れるからの!? 儂ら生き埋めになってしまうぞ!!?」
「それもそうか……じゃあどうしようかな。ランショウこの壁壊せる?」
「どうじゃろう? 試してみるかのー」
ランショウは、おもむろに袖からエレメンタル砲を取り出した。
魔力を流すと精霊石が光り、筒の入り口に風が渦を巻いた球体が作られていく。
──やっぱり、チャージが長いんだよな。
実際に見てもやっぱりチャージに時間がかかり過ぎてると思った。
「その筒で殴っちゃダメなんだろうか」と思わずにはいられない。
「派手にかますぞ! 風の弾丸!!」
風が渦を巻き、壁に撃ち放たれた。
爆発音とともに衝撃で思わず体が吹き飛びそうになり、アルカナを胸のところに抱きしめ足を踏みしめた。
「流石に壊れ……あれ?」
壁はびくともしていなかった。
「ダメじゃん!!」
「なかなかいい手応えじゃと思ったんじゃがのー」
頭をポリポリと掻くランショウ。
もはや、打つ手なし。
ゲームをプレイしたからこそ知っている。
実はここの壁。壊すとそのまま最下層に進める道になっている。
ゲームで、最下層のボスを倒すと通れるようになる道で、反対側。つまり最下層から上げってくる方に仕掛けがあり、解除すると通れる様になる。
「壊したら、すんなり最下層に行けると思ったんだけどなぁー」
愕然と地面に突っ伏していると、後ろにコランダムが立っていた。
──やばッ!? や、殺られる!?
油断しすぎたと、思わず身構えるもコランダムは、私をスルーしてそのまま壁に進んだ。
「この壁を壊せばいいのかよ」
「そ、そうだけど。どうするつも」
「ふんッ!!」
“ガンッ!!”と大きな音を立ててコランダムの回し蹴りが綺麗に壁に決まった。
蹴った所から“メキメキ……”と音を立てながら壁に亀裂が壁に走っていく。
次の瞬間には、ガラガラと音を立てながら壁は見事に崩れていった。
「オイッ! これでいいのかよ」
恐怖のあまり顔が引き攣った。
──絶対、コランダムに喧嘩は売らない! 絶対に!!
昨日の勝負をなかったことにしたいと切に願った。
「わー♪ すごいねヒメル! 壁、全部こわれたよー」
アルカナが私の手を離れて壊れた壁を見に飛んでいってしまった。
「この先下までグルグルと坂になっておるぞー。一番下までいけるんじゃないか?」
ランショウも瓦礫を飛び越えて、先に進もうとしている。
──コイツと二人にするのはやめてーー!!
「おっ、置いてかないでよ!!! アルカナ! ランショウーー!!」
大慌てで二人を追って、坂を降りた。
次回最下層です。
いつも読んでいただきありがとうございます。
エレメンタル砲の技名を考えていなかったので
すっごい考えました。
そしてふと気づく。
姫琉の風を纏うやつに名前がないことに……。
もう、アルカナには「いつもの」で通じてしまうので
技名「いつもの」になってしまった。
そんな行きつけの定食屋みたいのはあまりに可哀想なので何か考えます。
24.5.9 修正




