65話:姫琉と発明家
事故現場を少し離れた所から覗いてみた。
そこには、木に激突した乗り物が、見事に逆さまになっていた。
付いていたマストのようなものは、真ん中から見事に真っ二つに折れていた。
「うわぁ、こりゃ悲惨だわ」
いや、むしろアレだけのスピードが出ていてコレで済んだのは不幸中の幸いなのかもしれない、と考えていると乗り物から声が聞こえる。
「おぉ〜その声はさっきの見えた人かの? よかったらここから引っ張ってくれんかの〜?」
まるで老人のような喋り方をしているが若い男の声だった。乗り物の下から男の手だけがぶんぶんと振られている。
……意外に元気そう。助けなくても大丈夫な気もするけど。
その“聞き覚えのある喋り方”の男を放っておく訳にもいかず助けに行くことにした。
ここでうっかり死なれても、目覚めが悪いし。
事故現場に近づき大破した乗り物を思わず観察した。木材で出来たボートに車輪がつけられている。折れてしまったマストと帆を合わせると元は車輪のついたボートだろうか。近くで観察しても、なんとも訳のわからない乗り物である。
この生き埋めになってる男が私の想像通りの人物なら、こういう訳のわからないものを作るだろうな。
唯一出ていた男の腕を取り、力一杯引っ張った。何かにぶつかり「いてて」なんて声が聞こえた気がするが、気にせずに力まかせにズルズルと壊れた車体から男を引きずり出した。
「あぁー流石に死んだかと思ったわい」
冗談っぽく言いながら男は頭をさすっていた。軽い切り傷や擦り傷は見えるが本人はいたってケロっとしていた。
私の予想は見事に的中した。
青い長い髪をひとつに結び、目つきはまるで狐のよう。身に纏った黒い色の衣装は、日本の和服というよりは、中国の伝統的な民族衣装のようなだ。
そう、彼はエレメンタルオブファンタジーに登場するメインキャラクターだった。
名前は『ランショウ』。
風の国の出身。自称・発明家という変わったキャラだ。使う武器も変わっていて、自分で作ったエレメンタル砲という……精霊石を原動力にしたバズーカ砲みたいなやつで戦う。
ゲームでは、風の大精霊の眠る土地に近づけない主人公の為に“エアリエルフィッシュ”という空飛ぶ乗り物を発明してみせる。その後は、『面白そうじゃい!』という理由だけで一緒に冒険をするんだが……。
はっきり言おう。
このキャラめっちゃ苦手。
第一に胡散臭い。見た目も言動も何もかもだ。
そして、一番の理由。最愛のセレナイト様に向かって『あんたつまらん生き方しとるの〜』とかすげー失礼なこともいうんだもん!! セレナイト様の苦悩なんてわからないくせにぃいい!! しかも、戦闘はチャージが長くて使いにくいし! 雑魚キャラならチャージ貯めずにバズーカで殴った方が早いだろ!!
でも、ファンの間ではめちゃくちゃレートの高い人気キャラだった。
セレナイト様がグッズになることは珍しかったけど、このキャラ持ってたら必ず交換が決まるくらい女性人気は高かった。解せぬ……。
「いや〜、お嬢ちゃんがいなかったら危うく生き埋めになる所じゃったわ」
ケタケタと笑いながら握手をするためか手を差し出してきたが、ぷいっとそっぽを向きあえて無視した。
助けてはあげたが、コイツと仲良くする気はもうとうない。
「そんなに警戒しなくとも大丈夫じゃ、儂はグラマーな女子にしか興味ないからの!」
そういうと手で大きな胸を彷彿とさせるような動きをした。それに対して軽蔑の眼差しを向ける。
ーー完璧セクハラだ。
「ぶじでよかったですね、それじゃあわたしさきをいそぎますんでー」
そそくさとその場から立ち去ろうとした時だった。
“ぎゅるるぅぅううううう……”
盛大で悲しげな空腹を知らせる音がランショウから響いた。
「ハハ、試運転に夢中で碌に食べてなかったんじゃった……時にお嬢ちゃん? 助けてくれたついでに食べ物を恵んでくれんかの〜……?」
あぁーッ!! やっぱりさっきこの男を見捨てて先に進むべきだった!!
後悔してもう遅い。はあ〜……と深いため息をつき、切り株に置いてきたお弁当をランショウに差し出した。
読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。
新キャラのランショウの服のイメージは、『漢服』と呼ばれる中国の民族衣装がモデルです。漢服ってかっこいいですよね、なのに武器がバズーカ砲ってなんかミスマッチかな?
彼はそのうちイラストあげたいと思っています。




