64話:姫琉と森と……
霧の隙間から見える空がぼんやりと赤く染まって、もうすぐ朝が来る。
流石にあのまま、隊長達を追いかけるのは私にも無謀だと分かったので、朝が近づくこの時間まで待った。
「それじゃあ行ってくるね」
オパールと甲板にいた骸骨達にも挨拶をして、乗り慣れた幽霊船を降りる。
夜明けを待っていた間に準備はバッチリだ。いつものピンクの肩掛けと背中には大きなリュックを背負っていた。このリュックは、オパール曰く元・冒険者だと言う骸骨が一晩かけて準備してくれた即席冒険セットだ。中にはマッチや毛布、雨具、即席テントなどが入っている。あまりに荷物の量が多すぎてパッと見、修学旅行に行く中学生のようだと自分で思ってしまう。
こう考えると、やっぱり馬って必要だと思うわ。まあ、居ても乗れないけど……せめて自転車が欲しいな。自転車、作れないかな……? いや、構造がよくわかんないから無理か。
異世界に転生した時の為に、自転車の構造をしっかり覚えておけばよかったな、なんて馬鹿なことを考えた。
「お気をつけて、いってらっしゃいませ」
オパールは船から笑顔で手を振ってきた。
「そういえば、戻ってくるのはここでいいんだっけ? あ、でも船、ずっとこんなところに停めてたら危ないかな?」
多少は日の光は霧で遮れても、いつまでも船をここに停めていては、いくら人気のない少ないところとはいえ誰かに見つかってしまうかも。普通の人なら逃げるかもしれないが、冒険者なんかに見つかったらあわや戦闘になるかもしれない。
そう不安になって聞くとなんでもないかの様に返事が返ってきた。
「大丈夫ですわ。ヒメル達が戻るまで普段通り海底に沈みますから」
「…………はい?」
今、不思議なこと言いませんでした?
「最近はヒメルやお兄様がいらっしゃたので海上を走っていましたが、元々海底にいることの方が多い船なので。海底なら、日の光も届きませんし、わたくし達既に死んでいるので空気はあまり必要ないですからね。ヒメル達が戻ってくるまではこの辺りの海底におりますので、戻ってきたら海に向かって呼んでくださいな」
サラッとすごいことを言った気がするが、オパールはやはり、なんでもないように話した。
──……そりゃ、普段海底にいたらタンビュラのおっさんがいくら探しても見つからない訳だ。
幽霊船がおとぎ話程度、噂程度の認識な理由がわかった気がした。とりあえず、船は大丈夫らしいので安心して森へと進んだ。
◆◇◆◇◆◇
昨日は真っ暗だった森も、朝を迎えてみれば普通の森だった。
最初にいた幻惑の森やエルフの国の森に比べたら、大体どんな森も普通の森だろうが。
それに、獣道ではなく人が通るような道があった。この先はさっきの崖しかないが、意外にも人の行き来があるのかもしれない。
しばらく歩き続け、太陽がてっぺんに登るくらいの頃。
道を少し外れたところに、ちょうどいい切り株を見つけてそこでお昼を取る事にした。お重のお弁当は夜食にしてしまったので、このお弁当は別で準備してもらったものだ。普通のサイズになっている。
お弁当と共に地図を広げてみる。
この地図には詳しくは出ていないが、ゲームでの記憶を思い出す。確かこの森を抜けるとそのまま小さな山がある。そこを超えると平原があり、川を超えて、また平原を超えた先に森がある……はず。
こっちの世界に来てから色々なことがありすぎて、ゲームの記憶がだんだんと薄くなってきている。不安になりつつ、とりあえずお弁当を食べようとした時だった。
“バサバサバサッ……”
それほど遠くない場所で鳥が一斉に羽ばたいた音がして、思わず身構える。
──ど、動物? それとも魔物!?
鳥の羽ばたいて行く音に紛れて何かがぶつかる鈍い音とかすかに声が聞こえてくる。
「…ぅ……ら……いい」
「?」
一旦、道まで戻り目を凝らして先を見てみると、土煙を上げながら何かが猛スピードで向かってくるじゃないか!!
「なッなに!! アレッ!!!!?」
「止まらない止まらない止まらない止まれなぃぃいいいいぞぉおおお!!!」
ガラガラと言う音を出しながら土煙をあげるそれは、船のようなマストを付けた乗り物だった。そして、そこに乗っている人間がこちらに気づき大きな声を叫んでいる。
「ヒッ……人ッ!? そこぉおおどいてぇくれぇええええええッ!!」
その叫びに気付き、切り株の方に慌てて飛んだ。
乗り物は私が飛んだ方とは逆の方に突っ込んでいき、ズドォン、とすごい音を立てて止まった。
正確には木に突っ込んで倒れた、が正解だが。
新キャラ登場です!
24.5.2修正




