55話:占い師と名前
先程まで私に向けられていた水の槍は隊長に向けられたのに、隊長は恐怖するどころか胡散臭い笑みを浮かべた。
「よろしければ、わたくしめの話を聞いて頂けませんか? 決して、貴女様にとっても悪い話ではございません」
「この者と同じ様な妄言を吐いてみよ。即座に貴様を水の槍にて串刺しにしてやろう」
ゴクリと隊長の喉元が動いた。
ひとつ小さく息を吐くと「ありがたき幸せ」と一言添えて話し始めた。
「先に、そこにおります部下を紹介させて下さい」
そういうと隊長がこちらにゆっくりと手を向けた。
思わず姿勢を正して、セレナイト様に向き直る。彼女は横目でこちらをチラリと見たが、何も言わず隊長に視線を戻した。
「この者は私の部下でヒメルと申します。未来を見る事のできる“占い師”でございます」
「ふぁ!!!?」
突然の隊長からの紹介に思わず変な声が出てしまったが、隊長からの鋭い視線で口を閉じた。
──占い師ってなんですか!? 一体いつからそんなものになりましたっけ!?
言いたいことはたくさんあったが、ノープランの私に文句など言えるはずもなく話しを合わせることにした。
「占い師……だと?」
「はい。彼女が近いうちに、精霊が各地で一斉に魔物化し人々を襲うこと。それを鎮めるために光の神子が旅に出ること。そして人が精霊と決別するために貴女を倒し、この聖域を壊すことが見えたそうです」
以前私が話したゲームのストーリーをざっくりとセレナイト様に話した。
セレナイト様は僅かに顔を顰める。
「……それを妄言と言わず、なんだというのだ」
今にも水の槍が振り下ろされそうだと言うのに、隊長は怯まず続ける。
「しかし、貴女はそれを嘘とも言えないはずですよ」
自信に満ちた隊長の言葉にセレナイト様がわずかに言葉に詰まる。
「……そもそも、そこの人間が占い師だと言うこと自体が妄言だ」
「神子様、まだ気づいていらっしゃらないんですか? あの女は間違いなく占い師ですよ」
それでも揺るぎなく、自信満々に言ってのける隊長だった。ただ、一体何に気づいていないのかセレナイト様どころか私にもわからなかった。
「私が……何に気づいてないと言うんだ?」
少しばかり怒りがこもった声が返ってくる。
隊長が口の端を少しばかり上げて、セレナイト様をからかうような口調で答えた。
「神子様……アンタ一体いつアイツに名前を教えたんですかね?」
「!?」
その言葉にセレナイト様だけでなく私も思わず驚いた。
つい癖で、名乗られてもいないのに私はずっと彼女のことをセレナイト様と呼んでいた。
──だけど、『会った事もない人間の名前をなんで知ってるんだと思う? それは占い師だからだよ』ってちょっと詐欺くさくないですか?
そうは思いつつも、意外にもセレナイト様には有効打だったようだ。その証拠に、なんの反論も帰っては来なかった。
それはそうだ。セレナイト様の情報ってエルフ的には相当重要のようで、この場所もそうだが基本は表に出ない情報だ。
ちなみに、セレナイト様の情報は公式(ゲーム会社)が発表している情報は全部暗記している。家族構成から身長・体重・好みの食べ物まで全部だ。
少しの沈黙の後に、水の槍が再びただの水へと戻る。
「その話が本当だとして……一体私に何を望む」
吐き捨てるように言った。
「わたくし共の望みはただひとつ、神子様と同じです。どうしたら“精霊のためになるか”って事だけですよ」
21.7.24加筆修正
24.4.30修正




