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推しキャラの為に世界を壊そうと思います ~推しと世界を天秤にかけたら、推しが大事に決まってるでしょ?~  作者: 空 朱鳥
第一部 

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23話:姫琉と強奪作戦

 隊長(カルサイト)の海賊船強奪作戦に、異議を唱えたのはウッドマンさんだった。


「は、反対であるっ!! そんな無謀な事せずに、大人しく近くの町か村まで引き返せばいいのである!」

「引き返すとコイツの目的地から随分と遠くなることになるが、お前はそれでいいか?」

 カルサイトの口元と目元がニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる。

──こいつ……腹立つわー。

 ここの港が使えないと最初の、風の国経由での一年コースしか移動手段がない。

 しかし。ウッドマンさんの話が本当なら“鎮守祭”つまり、ゲームの開始(スタート)までたったの二ヶ月。


 一年もチンタラ移動していたら、どうやっても間に合わない!!

 とはいえ、海賊から船を奪うなんて荒業やらないですむなら、それに越したことはない。

「他の港から……船を、借りてくるの……とか?」

「こんな海賊だらけの港に船を待ってきたら、格好の餌食だろ! そんな勿体ない事できるかァ!!」

──ごもっとも。

「っていうか、海賊船とはいえ船を盗むのは犯罪ではっ!?」

「そんなことないですぜ。非合法の連中相手なら、奪っても殺してもこっちが裁かれたりはしないですぜ。下手すれば賞金だって出るんですぜ?」


 あぁ。よくよく思い出せば、ゲームでも海賊とか盗賊とか倒したらアイテムドロップしたり、お金が落ちたりしてたわ。アレってそういうお金とかだったのか。


「ゔゔ。じゃ、じゃあ、海賊船強奪する方向でいきます……」

「正気であるかヒメル殿!? 海賊である! 危ないである!」

「危ないけどっ! ……だったらウッドマンさんは、街まで引き返せばいいですよ。でも、私は推しの為にも引き返さないんで!!」

「推し……で、あるか?」

 セレナイト様を助けたい一心で、ここまでやってきた。むしろ相手は幽霊船じゃなく、相手は海賊。生きた人間だ。何が恐いことがある。いやっ、海賊恐いけど…………でもそれより恐いのは。

 頭の中で、ゲームのエンディングを思い出す。

 『ただ、生きたかった』と言った推しの最後の姿。推しを助けられないことの方が恐いし、たとえ死んでもそんなのは嫌だ!


 恐い気持ちを殴り捨て、目の前を真っ直ぐ見る。


「どういう作戦でいくの!?」


◆◇◆◇◆◇


 作戦は簡単だった。

 この街は、完璧に海賊達の手中に落ちているらしい。だから、街を破壊して、騒ぎを起こして海賊を引きつける陽動班。そして、騒ぎに乗じて馬車と共に海賊船に乗り込み、船を奪う強奪班に別れる。船を奪って陽動班と合流次第、奪った船で逃げるという作戦だ。


「ンン? ちょっと待ってください。海賊船に馬車で乗り込むとか難易度高くないですか!?」

「薄情なヤツめ。こんな所にコイツら置いていったら骨も残らないだろうが……」

「そうっすよ。こいつらだってオレたちの大事な仲間なんっすよ!」

 ギン兄は二頭の馬の頭を撫でながら励ました。


 そうか、そうだよな。ゲームの世界だが、馬だって生きてるんだよな……。

 そんな当たり前の事を考えながら馬を見つめていたら、一頭の馬と目が合う。その大きなつぶらな瞳が『ぼくたちを置いていくの?』と語りかけてくるようだ。

 馬ってよくよくみると可愛いんだよなぁ。

 そんな目で見つめられたら、ちょいと無茶でも頑張ろうという気になる。

「で、でもどうするの? こんな大きな馬車連れてたら一発でバレちゃうよ?」

「はい! はい! あたしにいい作戦があるよ♪」

 耳打ちしてきたアルカナの作戦なら……どうにかなる、かな?


「じゃあ、お前らは強奪班な。後は……」

「「じゃあオレらで陽動班しま」」

「すぜ」「っすね」

「…………………………………やりすぎるなよ」


 たっぷりの沈黙の後に、カルサイトは露骨に嫌そうな顔をして双子に言った。

 え、なにその間。聞きたい気もするが、怖いから聞かないでおこう……。

「で、アンタはどうすんだ? 一応、依頼はここまで届けることだったが」

「わっ、吾輩であるか!?」

 突然ふられた話にびくっと体を震わせた。

 約束では、ここまで連れてくるって話だったみたい。だが、こんなところに置いていったら、この人絶対海賊に襲われておしまいだと思う。海賊にやられる彼を容易に想像できてしまった。

「でっででででは! 吾輩も心配なので共に行くのである!」

「別に一緒に来て頂かなくてもいいですぜ?」

「そ、そんなこと言わないで欲しいである! こんなところに置いて行かないで欲しいのであぁあるぅぅ~!!」

 キン兄の足元に泣きつくウッドマンさん。それを見ながら満足げな黒い笑みを浮かべた。

「じゃあ、ウッドマンさんはオレらと一緒に陽動班っすね」

「わ……吾輩はヒメル殿と馬車に……」

「陽動作戦も釣りも“いい餌”があった方がよく釣れるんですぜ」

 この世の終わり的な顔をしたが、キン兄に首根っこを掴まれ逃げられない。


「ご愁傷様でーす……」


「じゃあ、とっとと始めるぞ!」

「「「「おうっ!!」」」」


◇◆◇◆◇◆


 馬車にアルカナと共に乗り込む。操縦は隊長。

 ギン兄たちからの合図と共に港に走ることになっている。それまでは馬車に乗って海賊に見つからないように待機だ。路地に隠れたが、更に海賊に見つからないようにアルカナの考えた作戦を実行する。

「アルカナいくよ!」

「うん! まっかせて、いっくよぉー♪」

「「スモッグ・ミスト」」

 すると、馬車を覆うように煙霧が立ち込める。

 この術はゲームにもあり、命中率を下げる効果がある。

 アルカナに言われて思い出したのだが、元々街には霧があったのでこれはなかなか良い作戦なのでは?

「作戦は良いと思うが」

「何か問題でも?」

「前が見えん」

 まさかの盲点だった。敵から見えない代わりに、こちらからも相手が見えないとは盲点だった。だが、発動してしまった術を取り消すことは出来ない。前が見えなくても隊長に頑張ってもらうしかないので「頑張って!」とだけ伝えた。

 御者から「お前、後で覚えてろよ」と恨み節が聞こえたような気がしたが気にしない、気にしない。


 準備万端(?)で待っているが、ギン兄たち陽動班からの合図がなかなか来ない。

「ギン兄たち大丈夫かな……?」

 隊長に話しかけたが、聞こえてないのか、無視しているのか返事がない。

「……スモモちゃん?」

「その呼び方やめろ。……この前の金、すぐに返してもらうぞ」思わず呼んだらギロリとすごい形相で睨まれた。聞こえてはいたようだ。

「じゃあ、隊長。隊長にこの取引を持ち込んだ時に『キン兄とギン兄に迷惑をかけない事』って約束に入っていた気がするんですけど。今の状況って、約束破った事になります?」

 返答は返って来ず、しばらく沈黙が続く。

「……あいつらが……自分で陽動やるって言ったんだ。だったら約束を破ったことにはなんねぇよ」

「でも」

「なんだかんだでアイツら、特にギンのやつがお前らの事気に入ってるんだよ。だからあんまり迷惑とか考えてないと思うぜ。まぁ俺は、お前が胡散臭くて面倒で迷惑な奴だと思ってるけどな!」

「ぶっちゃけすぎでは?」薄々気づいてはいたけどハッキリ言われると腹が立つ。

「だから、アイツらの事は気にすんな、合流したら礼でも言っとけ」

「……隊長には?」

「俺はお前に脅されて、渋々やってるからそれでいいんだよ。それに」

 その時、港から離れたところから地響きのような爆発音が聞こえた。

 合図だ!!

「行くぞ! しっかり掴まれっ!!」

 その言葉と同時に馬車が勢いよく走り始める。

「前、見えてないんじゃないんですか!? こんなにスピード出して事故るんじゃないですか!?」

「チンタラしてたら陽動の意味がねぇだろっ! それにこの爆発音で馬車の音もカッ消してるんだよ!」


 確かに街のあちこちから爆発音が聞こえる。

 一回……二回……三回…………まだ聞こえる。


──え、やりすぎじゃない?


 陽動での爆破と言うより、街の破壊がメインって感じの軽快な爆破だ。

「アイツらぁ、ここぞとばかりに爆薬を使いまくりやがって。今回の作戦にかかった費用はお前につけとくからな!!!!」

「えぇ!? 聞いてないよ!」

 まだ聞こえてくる爆音に、三人の身を多少案じるも、少しは自重していただきたいと思ってしまう。


 爆音に紛れ、馬車は気がつけば波止場の端に無事に到着した。波止場には、そこそこ大きさのある髑髏を掲げた船が何隻か止まっていた。


「じゃあ、一隻船を奪って渡し板を下ろせ。馬車を乗せたらこっちも合図を出すから、アイツらが見えたら船を出せ、わかったか」

「隊長一人で船を奪うなんて聞いてません!」

 この男は海賊の本拠地に私一人を送り出すつもりだったようだ。聞いてねえ!

「大丈夫だ。その精霊も一緒だから一人じゃないだろ? それに俺まで行ったら誰が馬車を守るんだ? お前じゃ、運転できないだろ?」

 ウッドマンさんをこっちの班にいれるべきだったと後悔した。ってか、この作戦色々と無謀な気がしてきたぞ。今更、気付いても遅いけど……。

「船の動かし方なんてわかりません!! そこは隊長がやるんですよね」

「大丈夫だ。適当に一人生け捕りにして脅せ。お前、脅迫は得意だろ」


──人のことをなんだと思ってるんだろうか? ただのか弱い女子高生に相手に酷いな。


 と思いつつ、やるしかないので、両の手で頬を叩き気合を入れた。やらなければ、推しを助けに行けないんだから腹を括るしかない。


「よし、行くよアルカナ!」

「まっかせて♪ ヒメルと一緒なら海賊なんてけちょんけちょんだもんね♪」

 自信満々のアルカナは、シャードーボクシングのような動きをしている。

 そんな私たちを手を振り見送る隊長は、いつでも馬車を出せるように、御者の位置で待機していた。

 いくつか並んだ海賊船の下に着いた。船を見上げると、街で起こった爆発に向かったのか、そんなに人数はいないように見える。あくまで下から見た感じだが。

 自分たちにも、スモッグ・ミストをかけて一番、人気(ひとけ)がない船に潜入した。

 風の魔法で飛べば甲板までひとっ飛びだ。

 潜入した船の甲板には人っ子ひとりおらず、静まり返っていた。

「おっ、誰もいない。ラッキー」

「ダメダメ! 油断してたらダメだよ」

 人がいなかったことに気を緩めた私をアルカナが叱る。

──そうだった。ここは敵の船なんだから、何があっても大丈夫なように気を引き締めねば。気合を入れ直し、舵があると思われる船首へと向かおうとした、その時だった。


「さっきの三つ編みの坊主が来るかと思ったが、まさか嬢ちゃんの方が来るとはな……」


 しゃがれた声が上から降ってくる。

 上を見上げると、マストから大きな剣を持ったガタイのいい男が降ってきた。

 “ズドォォォン”という衝撃音と共に、着地した衝撃で船が大きく揺れる。


 目の前には、先ほど海賊達に指示を出していた、大剣を携えた大柄の男が立っていた。

 男の身長が190センチ位だろうか。その身長と同じ位かそれよりも大きそうな剣を肩に軽々と乗せた。

 ニヤニヤといやらしく笑うその口元には、モジャモジャと髭が生えている。ボサボサ、モジャモジャの髭がとても不快に見え、恐怖心と不快さが合わさって背中の生毛がゾゾッと粟立った。


 コレッ、どんな無理ゲーですか!? あんな大剣携えたおっさんに私一人で敵う筈ないでしょっ!! あんなのボスクラスだってッ!!!! 公式さん! 攻略本下さいよっ!


 相手を見ただけで、自分一人では勝てないとわかる。でも、ここで引き返したらせっかくの作戦が台無しだ。それに、このおっさんから逃げて他の船が奪えるとは思えない。ここで背を向けようものなら確実に殺される。おっさんから放たれる殺気に寒気がした。普通に生きていたら、まずあり得ない殺気を向けられるなんて経験にうまく息が出来なくなる。

「ヒメル! ヒメル大丈夫!?」

 心配そうに見つめるアルカナの顔が視界に映る。

「そうだ……大丈夫。私は、一人じゃない!」

 深く息を吸い一呼吸。スー……ハー……。

 ゆっくり目を閉じ、次に無理やり笑顔を作った。

 自分が不利なことを相手に悟らせない!

 その表情に海賊は目を丸くして、また不快な笑いをする。


「わざわざ、おじさん一人で待っててくれたんですか? そんな事しないで街の騒ぎを鎮めに行ってくれてよかったのに」

 強気に言ってみるが、声が震えているのが自分でもわかる。当然、目の前のおっさんにも虚勢を張ってるなんてバレバレだ。ニヤニヤと笑いながら言葉を返す。

「あんな見え透いた陽動に、わざわざ乗ってやる事はないだろ?」

「今からだって行って頂いていいんですよ?」

「そしたら嬢ちゃんはこの船を奪う気なんだろ? それを黙って見過ごせるわけねぇだろ?」


 話しながら、じりじりと距離を縮めてくる。あんなにリーチの長い獲物、どうしよう……。

 おっさんの動きに気がついたアルカナが風の魔法を纏わせてくれる。


──これじゃだけじゃ勝てない。


「何隻もあるんだから、一隻譲ってくれたっていいじゃないですか?」

「あれは他の海賊の船だ。俺様の船は、このサンティック号だけだ……」

 男の腕に力が入ったのがわかった。次の瞬間、力任せに振り下ろされた大剣が私を狙う。

「ッ……!!」

 間一髪のところで避けたが、剣圧がすごく吹き飛ばされる。

 風の精霊術を纏っているので、船に打ち付けられる事はなかったが、相手はすぐに次の攻撃を仕掛けてくる。自分の身長ほどの大剣なのに、おっさんは軽々とそれを振り回す。

「若い女は高く売れるから、なるべく傷つけたくねぇんだ。だから、とっとと、諦めちまいなァ!!」

 振られた大剣の刃は、私には届いていないのに、衝撃波で風で纏っているはずの腕を傷つける。

「間合いをとってもダメなの!?」

「そうさ! どんなに頑張っても無駄無駄無駄ァア! 嬢ちゃんに勝ち目なんて端っからねぇのさッ!!!!」

 振り回される大剣を避けるだけで精一杯だ。というより、避けきるてない。 当たってはいないのに、傷がドンドン増えていく。

「どうしよう、どうしようヒメル!?」

「やってみなきゃ……。わからないじゃない…………」

 

 口から言葉がこぼれ、両腕から血がぽたり、ぽたりと甲板に落ちていく。

 斬られたところが熱を持ち、ジリジリと焼けているかのように痛い。

 でも、その焼けるような痛さを忘れるくらい、自分の頭に血が上っているのがわかる。


「無駄……なんかじゃ……ない…………」


 それは自分に言い聞かせるように、囁くように言った。


「アァ……なんか言ったかいお嬢ちゃん? そろそろ降参かな?」

 勝ちを確信したのか、男がまた不快な笑いを浮かべる。


 ……あぁ、なんてムカつくんだろう。

 どうして、やる前から無駄だと決めつけるんだろう……。


 先程あの男に言われた“無駄”という言葉が頭の中でぐるぐる回っている。

 それは、この戦いに抵抗することが無駄だと言われたんだろう。

 でも私には、その言葉が今の自分がしていること全てに言われている気がしてしまった。


 “無駄”


 “無意味”


──私はその言葉が大っ嫌いだ……。

21.7.14加筆修正

240416加筆修正

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