16話:姫琉と海
翌朝、ニャポリの街を出て北西の港ヨーデルカリブ港を目指し馬車を走らせる一行。
街道は道が整備されているが……なかなかに揺れる。
馬車での旅ってもっと優雅なものを想像していたのでがっかりだ。昨日、買い出しに行った時、別に行動していたキン兄が買っておいてくれた毛布をクッション代わりにお尻にひく。気休めでしかないけど、ないのとあるのじゃ全然違うので。
「すごいね! すごいね! 街がもうあんなに遠いよ♪」
馬車の中をアルカナがグルグルと飛び回っている。
街にいた時は、人目があるからずっとお留守番だったので外が嬉しいご様子だ。
「え〜……お前ら二人をエルフの国には送るが、客の扱いはしない! 食べる分はしっかりとして働いてもらうからな!!」
「「はーい」」
素直に返事をしたのにカルサイトは眉間に深いを寄せた。
「返事だけになるなよっ!!」
……あからさまに警戒されてる。ひどいな!
けど、働けといっても現状は私達に任せられる事は特にないらしく、しばらく馬車の旅を楽しんだ。
とはいえ、ここはゲームのフィールド。時々出てくる魔物は私が指示を出し、アルカナが精霊術でサクサク倒していく。そこではたと気がつく。
ん……あれ? 実質、私って何もしてなくない?
「あの魔物には火の精霊術が効く!」とか「地属性の魔物には風!!」とか口しか出していない。
あれ……完璧、口先だけの嫌な奴になっている……?
何やらそう気がついてしまった瞬間、気持ちが鉛の様に重くなる。
「アルカナ……私ってもしかして役立たず?」
「えっ? え!! そんな事ないよ!! ヒメルが魔物の弱点を教えてくれるおかげで、すごく助かってるよ!!」
「でも……私、アルカナと契約してないから精霊術を使う時の魔力を全部アルカナに負担させちゃってるし……」
「そうなんっすね!?」
隣に座っていたギン兄から驚きの声が上がる。
「アルカナはてっきりヒメルの契約精霊なんだと思ってたっすね!」
「そうか。カルサイトには言ってたから言ったつもりでいたわ」
双子は、私を精霊術師だと思っていたらしい。
「でも、それって多分まずいですぜ? 精霊って、魔力が足りなくなると魔物化するって言いますぜ」
馬車を操りながら、キン兄が不安そうに言った。その言葉に当の本人のアルカナは
「そうなの? ……ん〜魔力不足になった事ないからわかんないけど」といった具合だ。
でも言われれば確かにゲームでもそんな設定だった。その事に一層気分が重くなり目がうるうるとする。
「もし……アルカナがそんな事になったら、私……やだよぉ〜……」
魔物になったアルカナと戦えるかと言ったら、絶対にNOだ! そんなことには絶対にさせたくない! 想像しただけで涙が滝の様に流れた。
「大丈夫大丈夫だよ! そんなに無茶してないし、無理しないからね♪」
「私にも、魔力があればなぁ……」
せめて、ゲームの世界に転生したのであれば、チート……とまではいかなくても、魔法が使える仕様が良かったな。特殊能力とか、全属性魔法とか、最弱だけど便利なスキルとか……。
無能力で、ゲームの世界とかつまんな……じゃなかった。
みんなの、足手まといにしかならないじゃないか!!
「魔力って、大小はあるけど誰にでもあるもんじゃないんっすかね?」
「え!? ギン兄、それは私にも魔力あるって事!!?」
「多分っすね? でも普通の人は、精霊石を使う時くらいしか使わないっすね」
チラッとカルサイトを見る。
じとっとした、黄緑の目がこちらを睨む。
「精霊石一つで金貨一枚になります」
「高ッ!!!!!」
金貨一枚って事は120,000テル。ゲームでは、そこそこ良い装備が買えちゃう値段だよっ!
「精霊石って、そんなにするんですね……」
「ちなみに、一番安いやつで今の値段だからな」
「…………」
試しに使わせて欲しいとは、言い出しにくくなった。
(そのうち機会があれば……試してみよう。)
でも、アルカナの負担にならないように私にできる戦い方を考えないとな。
“……ザク……ザク”
カルサイトが、小さなナイフを持って木を削っている。
真ん中に穴があいた、木を削っては、高さ5センチくらいの木の輪っかを作っている。
「さっきから、何を作ってるんです?」
「……これは、屑石をはめる指輪だ」
「指輪……?」
「小さな石は魔法が使えないんで、なかなか値段がつかないんすよ。だから、お守りアイテムや装飾品として売るんっすね」
なるほど、さすが商人。どんな素材もしっかり商品にして売ってしまう。カルサイトの作業をじっと見る。
"……ザク……ザク"
「これなら私も手伝えるかな……?」
こういう、淡々とした作業は得意……というか好きだ。
そういうと、カルサイトが一瞬だけ作業を止めて、眉間に深いシワを寄せた。
「………やらせても良いが、絶対に怪我するなよ!」
渡されたのは、すでに中央に穴が空いている木の板とちいさなナイフ。これ使って、木の板を端から蹴り落としていき、指輪の形にしていく。形が出来たら、粗めのやすりから細かいやすりと、順番にやすりがけをし、石をはめる部分を削る。艶出しをして石をはめて固定したら完成!
一通りの手順を教わったら、自分ひとりで作ってみた。自分で言うのもなんだが、いい感じの出来ばえの、緑の石がはめられた、木の指輪が完成した。
「なかなかなもんじゃないか……」
想像以上のできだったのか出来上がった指輪を見て、カルサイトが素直に褒めた。
考える事は大がつくほど苦手だが、編み物とか、彫刻とか、書取りとか、物を作ったり、無心になってやれる事は好きだった。
「じゃあ、これも頼むな」
小さな木箱いっぱいの、穴の空いた板を渡された。
これが、私の仕事になった。
ーーーーーーーーーー
旅を始めて、二週間とちょっと。
色々あったが、ついに海が見え始めた。
「すごい! すごーい! ヒメル、大きな水の塊だよ♪」
初めてみる海に、大はしゃぎのアルカナ。かくゆう私も海にテンションが上がる。
私が住んでいた県には海はなく、小さい時に海水浴に行って以来だ。
「この先の浜辺近くで今日は休んで、港には明日には着きそうですぜ」
今日は、馬車の中にいるキン兄が教えてくれた。
ちなみに、馬車の運転は三人の交代制になっている。
そして、キン兄が中にいる時は私は指輪作りではなく、勉強会になっている。
おかげで、この二週間でお金はバッチリだった。
たぶんっ!!
「浜辺って事は、お店とかあるかな!」
「以前にも言いましたが、幽霊船の噂が出てから、この辺りの人は随分移動したらしいので、そういう期待はしない方がいいと思いますぜ」
海の家的な想像をしていた私に、現実を思いっきり叩きつける。
それをニッコリと言うから、Sっ気を感じざるおえない。
「オレは、釣りがしたいっすね! そろそろ、保存食以外の新鮮なものが食べたいっすね!」
「オレは、干し肉と野菜で十分だ」
「隊長は、魚ほんとに嫌いっすね」
「獣肉より魚の方が美味しいと思いますぜ?」
双子に、魚嫌いな事をからかわれるカルサイトがムスッとしている。
そういえば、カルサイトは魚が嫌いという、どうでもいい設定があったと思い出す。
「あんな、骨っぽくってパサパサして泥臭いもんなんて、食べるやつの気が知れん!!」
……それは、下処理をちゃんとしないで川魚を食べたのでは?
どうして、世の好き嫌いがある人は自信を持って、嫌いであるという事を全力で肯定しようとするのだろう。
「お前もそう思うだろ?」
さらに、なぜ同意を求めるのだろう……。
あえて何も言わなかった。
(それ、自慢できるような事じゃないと思うよ)
そんなカルサイトの全力のいかに魚美味しくないかの演説が延々続いた。
そして誰もそれを聞いていない。
私もカルサイトの話を右から左に聞き流しながら、海に着いたら双子と一緒に浜釣りでもしようかな? なんて考えながら徐々に近づく海を眺めた。
短い人生で、釣りなんて瑠璃ちゃん達と小学校の頃に行ったキャンプで、川でちょっと釣りを教えてもらったくらいしか経験がないが、カルサイトに本当に美味しいお魚を食べさせてみよう。
誰も聞いていない演説をしながらカルサイトは思っていた。
どうして世の中のやつはどいつもこいつも、嫌いだと言ってるのに、美味しいとかなんとか言って、嫌いな物を食わせようとするのだろうと……。
最後の好き嫌いの話は
実際にあった話を少し変えて書いてます。
その子は野菜全般が嫌いらしいのだが、いえば言うほど
周りから野菜を食べさせられそうになるとぼやいていました。
落ちは、ないです!!
次回ついに海です。
新キャラ登場予定。
20.11.21加筆修正
21.7.10加筆・修正 サブタイ変更




