11話:姫琉と推し
エルフの国までの移動だけで1年と言う途方もない日数を聞いてあわあわと慌てだした。だって、そうでしょ!? 1年あったらゲームなら何回世界救えるんだよ! いや、問題はそんな事じゃないんだけどさ! でも幽霊船は怖いし!! でででっでも!? チンタラしていてゲームのエンディングに間に合わなかったら……!!
色々な事を考えて頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「そもそも、エルフの国に入れるかわからないのに何を焦ってるんだよ?」
慌てる私を横目に、カルサイトが鼻で軽く笑いながら言った。
そんなカルサイトを見て、プツリと私の中で何かが切れる音がした。
さっきまでぐちゃぐちゃだった頭の中がスゥ……っと冴えていく。
「もし……もしも、1年もかけて移動してる間に推しが死んじゃったら……
ーーーーーーー私も死ぬ……」
目の焦点が合ってない気がする、私いま多分かなりやばい顔をしてると思う。だって、さっきまで笑っていたカルサイト達が思いっきり引いた顔をして私を見ているから。
今日でこの世界に来て3日。私が確信している事が2つある。
1つ、精霊術がある。と、言うことはまだエンディングを迎えてはいない。
2つ、魔物がフィールドを闊歩している事から精霊暴走の日、ゲームのスタートが近い。もしくは、すでに始まっている。
1年も移動に費やしたら、エルフの国に着く頃にはゲームが終わっている可能性が高い。RPGの世界の時間経過なんて、正直わかんないし。あれって、どれくらい旅してたんだろう? 宿屋に止まる回数なんてプレイする人によるだろうし。それに、エンディングに間に合っても、セレナイト様が魔物化してしまったら、救えない可能性が高い。
(そそそ、そんなの絶対にダメッ!!)
想像するだけで、顔からみるみる血の気が引いていく。せっかくゲームの世界に転生したのに移動してる間に全部終わってましたー、なんて冗談じゃない!
ここは、本当の事を話してでも最短ルートで行かなきゃ!!
「実は、エルフの国に好きな人がいまして……」
「!!!?」
突然降った話がとんでもなさすぎて、一瞬にして固まるカルサイト達。
まぁそうなるわな。でもここで押し切らなきゃ!
「でも、でも、このままだとその人は、殺されてしまうんです……」
目をこれでもかって位うるうるさせて、同情を誘う。満更、嘘でもないし。
このまま、余計な事を言わないで丸め込められればとか考えている。
「だから、その人を助けるために旅をしてたんですが……。もし、安全なルートで行ってる間にあの人が死んだら…………私も死にます(精神的に)」
あとから聞いた話だがこの時の私は生気を感じられず、虚な目をしていたそうだ。
寒気すら感じるその姿に、恐れ戦くカルサイトであったが、冷静に考えた。エルフの国の住人は、基本的に人間との交流をしない。一部、交易を行う者が多少なり人との交流があるくらいだ。
「いやっ、エルフは人間と交流は最小限しかしないはずだろ。
少なくとも、エルフの国への移動期間を聞いてくるような奴が
エルフと知り合いとは、思えない」
「そんな事ないです。
知り合いですよ…………一方的にだけど」
「一方的に知ってる事を知り合いとは言わん!!!」
うまく丸め込めなかった事に腹を立て思わず舌打ちをしてしまう。
「話したら……信じてくれますか……?」
「昨日、お互いに信じられないとか云々言って来たのは誰だよ」
「……まあ言いましたけど」
自分の昨日言った言葉が、こんな形で返ってくるとは思わなかった。口をへの字に曲げて考えてみる。
「とりあえず話してみろ。信じる、信じないはそのあとだ」
「う〜ん……」唸りながら考えた。すごーく、考えた。何処までなら、話しても問題ないか。どんなふうに話せば、信じてもらえるか。
考えに、考えに、考えて………。
ーーー考える事をやめた!
そもそも、うまく誤魔化しながら語るとか、頭を使うことが大の苦手である。さらに、言えば嘘をついたり、誤魔化したりするも苦手である。だいたい、思ったことが口から出るし。
面倒になったので、全部話した。
えっ…なにをって?
全部ですよ。
死んじゃって、ゲームの世界に転生した事。
このままだと、魔物が溢れる世界になる事。
主人公が、冒険に出て大精霊を鎮める事。
最後に、セレナイト様を殺して、世界を分ける事。
包み隠さず、全部。
あっ、ただ面倒なんでキャラ名とかは出してないよ!
大まかにストーリーを説明しただけ。
全部言い切ってスッキリした私とは対照的に、言われた話が現実に追いついてこない三人が固まっていたが、そんな三人を気にも止めず話を続けた。
「で、私はそのセレナイト様を助けるために
エルフの国に急いで行きたいんです!!」
ちょっと、意識が何処かにいってたカルサイトの意識が戻り、声を振り絞り聞いてきた。
「も、もし、……もしもだ!! お前の話を信じたとして……信じたとしてだ!」
一呼吸置いて、私を真剣な表情で見ながら言った。
「そいつを助けたら、世界が滅ぶんじゃないのか……!?」
真剣な表情で尋ねられた質問を軽く「かもねー!」とケロっとした顔返した。
カルサイトが、何か言いたげに口をわなわなさせているが、どうでもいい。
そんな事より、推しの為に私がかけている"覚悟"が、どうやら伝わってないようなので、背筋を正して、改めて伝えた。
「私は、私の推しが幸せになるなら、この世界が滅んだって構わない。推しを救うか、世界を救うかと聞かれたら、私は迷わず推しを選ぶ!!」
「ちっとは、世界を気にしろよっ!!!!!」
今まで一番大きなツッコミが入った。
20.11.20誤字修正、加筆




