10話:姫琉と進路
“翌朝“
宿屋の一室。
「どうか、何卒よろしくお願いしますっ!!!!」
私は正座をし、床に額をつけ、両手を揃えて床に置く。
つまり全力で土下座をしていた。昨日のカルサイトとの取引で双子のキンとギン、両方から承諾を得られれば条件を飲んでくれる、と言う事になったのだ。
なので朝一で二人の部屋を訪れ、今に至るわけである。
「いいですぜ」
「いいっすね」
双子は考える素振りも見せず、あっさりと承諾した。
その言葉に喜びが込み上げ、溢れんばかりの笑顔で面をあげる。しかし、カルサイトは承諾するとは思ってなかったらしく酷く焦った様子だった。
「いや、お前らわかってんのか!? エルフの国だぞっ!? 人間が立ち入ることのできない国なんだぞ! つまり、この嬢ちゃんを連れてくって事は密入国させるって事だぞ!!」
怒鳴るカルサイトとは反対に、ケラケラと笑いながら双子は話した。
「大丈夫ですぜ、それにオレもエルフの国に興味がありますぜ〜」
先に答えたのは兄のキン。それに続くように弟のギンが答える。
「兄貴もっすか? オレも『立ち入れない』とか言われると俄然興味が湧くっすね!」
秘密を守る条件として『エルフの国に連れてって』とは言ったもの、この双子の同意が得られなければ条件を変えろとの事だった。
さすがに『無理かなぁ……』と思って土下座で頼んでみたが、意外にも乗り気だった。
「正直、故郷以外なら何処でも行きますぜ」
「いや、今エルフの国に行くなら風の国の港から水の国を経由していく必要があるだろ」
「外島だけなら問題ないですぜ……多分」
そんな二人の会話が耳に入り、思わず口を挟んだ。
「えっなんでそんな遠回りするの!? 普通に北の港から出ればいいじゃん? その方が絶対早いでしょ!」
「ヒメル嬢、それは難しいですぜ」
「え……何その呼び方?」聞き慣れない呼ばれ方に背中の生毛がゾワゾワする。
「女のお客さんならお嬢。男のお客さんなら旦那って呼ぶんですぜ」
そう説明するキンに向かって、カルサイトは私を指差し「いや……こいつ客じゃねぇから」と溜息混じりで言い捨てた。
「お客さんじゃないんっすか? ……じゃあ俺たちの新しい仲間ってことっすね!」
なぜか目を爛々に輝かせるギン。
「そうだな……まあそんな感じ…………か?」
自分で言っておいてカルサイトは考える。
いやいや、仲間になった覚えはないぞ! セレナイト様を助けるまでの関係ですよ。
「じゃあ今日からオレが先輩っすからね! オレのことはギンの兄貴って呼ぶっすね! いいっすね!!」
満面の笑みでギンは大きくガッツポーズをした。
ギンのテンションの高さについていけずにいると
「しょうがないんですぜ、ヒメル嬢……」生優しい目を向けるキンの姿があった。
「そう……嬉しさが抑えきれねぇだけだから」隣ではカルサイトが頭を押さえていた。
なんとなく察した。
初めての後輩が出来て、はしゃいじゃった感じかぁ……。
「りょーかい! 了解であります、ギンの兄貴♪」
「おっ精霊もそう呼んでくれるのか?」
「ギンの兄貴! あたしのことはアルカナと呼んでください♪」
2人はなぜか意気投合したらしく2人で踊り始めた。
アルカナ……なんでそんなノリノリなの?
あそこは放っておいて話を戻す。
「話しを戻しますけど、土の国から北側を渡って行った方が絶対近いじゃないですか」
アルカナの家から持ってきた地図を机に広げて話す。
すると、カルサイトは土の国の北西の突き出ている部分。
光の国と一番距離が近い海っぺりを指さした。
「確かにここに港はある」
「じゃあこっちから行った方が、今いる場所からも近いじゃないですか!」
今いるこの“ニャポリ”は、指さした位置からそのまま東にまっすぐ伸ばした位置にある。
「この辺りの海には……近頃、幽霊船が出るって話なんですぜ……」
「幽霊船っ!?」
まさかの単語に落雷が落ちたような衝撃を受けた。
(そんなのゲームに出てきませんでしたよ!?)
でも、最初に見た動く骸骨を思い出すと、強ち嘘だとは言えなかった。
動く骸骨マジトラウマ!!
「それに、その噂のせいで港を離れた奴らも大勢いると聞いた。
行って借りれる船がなければ、幽霊船が出ようと出まいと海は渡れないぜ」
冷静にカルサイトが正論をぶつける。
「ぐぬぬ……」
幽霊船は……正直恐い……。
でもセレナイト様を助けたい。
姫琉の中で葛藤が続く。
そして悩んだ末に声を振り絞ってカルサイトに尋ねる。
「ちなみに……風の国経由で行くと、どれくらい日数……かかる?」
「天候や道の状況によるだろうけど……」
カルサイトは指で何かを数えている。
もしも、そんなにかからないのであれば安全な道を行こうと考えた。
「大体、一年くらいか?」
「そのルートなしでっ!!」
食い気味に言い切った。
20.12.4誤字修正
21.1.10加筆修正




