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愛を語る前哨

 見たこともない怪物が目の前にいた。一歩、一歩間合いを詰める、相手の射程距離もわからない、耐久力、攻撃力、どれほどのものかも図りかねるが先ほどの攻撃、人智をはるかに超えるスピード、パワー、まともに一撃食らっただけ致命傷は免れないということだけは理解している、今まで戦ってきたどんな敵よりも恐ろしく、傑物で、怪物だ。


「ウオロオオオオオオ」


 奇声を発し、志龍達のもとに突っ込んでくる。

 止められないことは無い、志龍が止めにかかる。


「一音『轟音』」


 拳を相殺する、衝撃波があたり一帯を爆風の渦を作る。これでも相殺だ、敵はすぐに体勢を立て直してこちらに向かってくる」。


「っ!」


 先ほどまでの無理が今来たのか、足が立ち上がらない、――まずい、回避が無理だと悟り、音の壁を作るが突進の前に無意味でだった。


「志龍!!」


「ったく、いきなり突っ込むからだろ! 『雫流』」


 ハルが咄嗟に前に出て、相手の攻撃を受け流す、然し一撃が重すぎる、はるも全て受け流すことができずに後ろに吹き飛んだ。その隙に志龍は体勢を立て直して後ろに下がった。

 隙は与えてはならない、ー一瞬、敵が作った隙を逃さず美穂は溜めていた魔力を矢と共に放つ。


「すべてを焼く豪炎よ業火よ終焉の煉獄よ全ての炎よそして伝承の火よここに現れよ『烈火炎舞』」


 美穂が誇る最大にして最高火力の魔術、あたり一帯をすべて焼き尽くすその火力にはさしものあの怪物も身が焼け、皮膚が爛れ堕ちるという重傷を負った。


「ここだ! はる畳みかけるぞ!」


「熱いのは嫌いだがここしかねえな!」


 ハルに氷魔術でコーティングする。敵は再生のためしばらくこのまま動くことはできない、時間にしてみれば数秒とない、だがこれを逃せばもうチャンスはやってこない、ならば二人は傷ついた体を酷使する。限界に近い体の細胞を無理やり戦いに意識づけさせる、魔力も限界に近い、ハルは先の結界魔術で、志龍は先の戦いで――しかし弱音を吐いている暇はない。


「一撃にすべてを叩き込む、氷結魔術と音を合わせる!」


「黒はもう無理だ、魔力を単純に身体能力のブーストに使う」


「――回路接続、氷結、音、結合魔術接続完了(セット)


「回路接続、身体許容増加(ブースト)


 魔術回路をつなげる、加護と系統魔術、身体。各々が今の最善の力を出す。


「一音 破音『氷壊白音』」


「止水流『雫石』」


 音が破裂する、先ほどまで熱かった一帯がいきなり冷やされ破壊の音とともに敵の体を凍らせて破壊する。粉々に砕け散った体をはるが雫石でとどめを刺し細胞が修復不可能になるくらい細かい氷の粒にする。


「やったか」


 はるがそう漏らす、志龍もそう思った。今までの死霊同様細胞が修復できないくらいまで粉々にした、確かに手ごたえもあった終わりを確信した瞬間アメジストが叫ぶ。


「終わってないぞ!!」


 振り返るとそこには腕を組んだ状態で復活している怪物の姿があった。手ごたえはあったそれ故に三人は驚き、動揺を隠せなかった。


「どうすればいいっていうんだよこれ」


 一人が零れ落ちたかのようなか細い声で言った。志龍も感じていた、この怪物は今の自分がどうやっても倒せないと、ハルも美穂も同様だった。倒す方法が今の自分たちではわからない、情報量がかなり欠如している。

 その時、一人が飛び出した。


「うわああああ!!」


 叫び、おびえ、その表情は苦悶と恐怖に満ちていた、それでも何かを守るために飛び出した。結果は見えていた一撃かすったが首を吹き飛ばされて終わった。

 絶望、皆学問の表情を浮かべる。志龍も何か手掛かりがないかとあきらめず探すがその表情は苦虫をかみつぶしたかのような、己の無力を嘆くものだった。

 だが光明が差す、先ほどの攻撃の傷が治っていない。


「!見ろ、傷が治っていない!」


 ハルも美穂も驚いていた、今までどれほど傷を与えても即時回復される怪物に癒えない傷を与えたのだから、一見すれば無駄に見える攻撃だったが怪物の絣傷が治らない、志龍は考えた、攻撃の何が傷を与え治らない特性を付与したのか。


「武器!」


 銀の武器だ、答えに気が付いた、ダメージを与えられるのは銀以外なにでも無理だ、だとすればどうするか、自分やハルは銀を使えない、武器が固定されている。


「美穂!銀を矢にすることはできるか!」


「加工技術は私にはない……!」


「お前ら行けるか!」


 後ろの鍛冶師に問う。


「いけるにゃ!」


 銀を溶かす温度は美穂が作れる、加工もできる、となれば志龍とハルがやることはいたって単純。


「足止めは任せろ、なんなら倒してやるよ」


 そう志龍は笑った。ハルも続いて笑った。


 強度はわかった、固いが斬ることも叩き潰すことも可能だ、とはいえ一撃でも諸にもらったらお釈迦だ。


「難易度高すぎるだろ」


 苦笑いしか出ない、ハルも集中を高めている。


「いくぞ!」


 地面をえぐり取るくらいのスピードで相手の懐まで潜り込む。


「一音『打音』」


 諸に食らい一瞬体制が崩れる、そこにハルが刀を滑り込まし胴体を真っ二つにするが刀が途中で止まる、筋肉に挟まれて動かなくなった。


「ちくしょぉ!」


 必死に引き抜こうとするが無駄だった怪物はその手を大きく振り上げハルにめがけて叩き落とす。


「ハル!刀を放せ!」


 志龍はそう叫び気が付いたハルは刀から手を放す。

 アイコンタクトをハルに送る、ハルは何をするのか気が付いたのか怪物の背後に回る。


「抜けねえのなら、貫くだけだ! 一音 打音!」


 刀の柄に打音で衝撃を与え周りの筋肉ごと抉り貫く。後ろにいたハルが刀を掴む。


「止水流『流石』」


 怪物を袈裟切りする、一刀両断、だがすぐに再生する。


 先ほどより希望が見えてきたとはいえ状況は最悪に変わりないーー

 どうしようもない絶望が目の前にいる、彼ら自身の体力や魔力もかなり削れている。


(後何分だ……)


 一分一秒が長く感じられる。

 後ろでは鍛冶の銀を打つ音が聞こえる、加工は十分進んでいる。

 今一度志龍とハルは全細胞を総動員して体を動かす。ーーたとえこの体が壊れようとも、この怪物の時間稼ぎをして勝てれば本望だ。

 そう言い聞かし一歩踏み出そうとしたその時ーー


「そんな必要はないのですよー」


 ーー少女は絶望に打ち勝ち戦場に現れた。

あ、どもっす。

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