038[敵前逃亡してみるのも悪くない筈]
パニックを起こし、支離滅裂に訊きいて詳しい説明を求める
そんな、アルブムへの現状説明を『面倒臭い』と辞退し
この説明を総て、カーリタースの独断に御任せして
私は『静かに眠りたいから、外でやってね』と、布団に入り
そのまま、普通に寝て起きたら…
狭い部屋の中で、ユーニとテッレストリスが真剣を振り回し
剣と剣を打ち込み合い、火花を散らせ…家具を傷付け…
『フロース!今直ぐに答えを出して欲しい!
僕とテッレストリス…どちらの嫁になりたい?』とか言う
究極の選択を持ち掛けられた。
私は少しの間、放心状態に陥り
現実を逃避したくなって、ベットから降りて窓辺に立つ
其処から見えた、少しばかり離れた窓の下には・・・
『刻印を所有しているかもしれない』と、言掛りを付けては
「女の子や若い女性を連行して、傷モノにして返す」
「宮廷医師」と、その直属の兵士達の群れが来ていて
カーリタースと何やら、話をしていた。
私は一応、顔が見られない様に窓辺のカーテンに身を隠し
カーリタースが・・・
『女神様に恥をかかせて
刻印付きの女性になりたくて集まったのなら、諦めた方が良い
君達の容姿では無理だ!それ以前に年齢的に無理がある
もっと、綺麗な男の子達を集めて連れて来る事をお勧めしよう』
なぁ~んて言うのを…風を使い、盗み聞きして
続いて、窓の外から
変な動揺の入ったドヨメキが聞えて来るのを
生温かい目で、見守る事になったのだった。
『あのさ…コレってさ…私を特定して、拉致りに来たのかな?
それとも…目標未確認で、誰とも知れない刻印所持者を
取敢えず、捕まえに来たって感じなのかな?』と
私が質問すると・・・
ユーニとテッレストリスは、同時に
『『いや、多分だけど、未確認の方かな?』』と言う
私は『それなら、大丈夫だな』と言い
私用に、カーリタースが準備しておいてくれたであろう
枕元に置いてあった可愛らしい服と鬘を手に取り、確認し
2人が見る前で、パンツ1枚になる様な格好で着替え
2人が動揺しながらも、目を離さない事に苦笑いしながら
鬘を被り、女の子らしく化粧をし、身なりを整えて
『私がお前達の嫁にならんでも
「それなりの関係」が「ありそうな雰囲気」で、出て行けば
「捕まらないんじゃね?」って事で…
お前等、私を護る気があるなら
私が言う事に逆らわないで、私に合わせてくれよ』と
2人の腕を取り…オロオロする2人の腕に
しっかり、がっちりと胸を押し付け『堂々としてろ』と言って
外へと誘った。
カーリタースの店を出ると
宮廷医師と、その直属の兵士達が、私達を取り囲む様に
間合を詰めて来る
私は2人から1度、速足で離れて
女の子らしい仕草で、カーリタースの方に行き
『ごめんなさい、カーリタース!
王子様がね…こんな状態だと、何だか落ち付かないんだって
御部屋を3人で、ちょっと使って汚しちゃったけど…
今回は、場所を変えさせて貰うわね
今度、落ち付いてる時にでもまた、御部屋を貸してね』と
一部口ごもりながら、其処に深い意味がありそうな雰囲気で言い
カーリタースと話していた宮廷医師らしき男に対し
『あらやだ!こんな場所で会うなんて運命的ね!御久し振り!
私、あの…フォーンスの所で働いてるの…
ねぇ~…御休みの前の日の事…憶えてるかしら?』と、言うと
男は焦った様子で、人差し指を口元に持って来た
私の勘は、大当たりした様子だ
私は安堵し、不自然無くニッコリと笑い
『今回の事は秘密なの、だから…
御互いの秘密って事で、此処で王子様達と一緒に居た事
御店の方には内緒にしてね』とか
『次、御店で会ったらサービスするわね』と
小さくこっそり、投げキッスしてみせてやってから
私は、ユーニとテッレストリスの待つ場所に戻り
2人の頬に、そっと軽くキスした振りをして
『お待たせ!ねぇ~次はさぁ~…
邪魔の入りにくい、そう言う御宿にでも移動しましょうよ』と
軽い足取りで歩き出した。
最初、私を捕られようとしていた宮廷医師直属の兵士達は
話の雰囲気で1歩下がり
言葉の意味する事を何かしら想像して、ニヤニヤしながら
宮廷医師の指示で隊列を組み直す
カーリタースも、兵士達と同じ様にニヤニヤ笑い
宮廷医師であろう男に、何やらコソコソ耳打ちして
『そうですか…そう言うプレイだったんですか』と言う
ある種、深い意味での言葉を男から導き出していた。
私は「どんなプレイだよ!」と、心の中で突っ込みを入れ
宮廷医師と、その直属の兵士達から離れた
人気の無い、馬しかいない厩に立ち寄る
私はそこでアモルを見付けて、アモルに抱き付きながら
『笑っちゃいそうに成る程
自分で演じてて、自分で自分がキモかったぁ~』と
緊張感を途切れさせ、笑い転げる
私の演技に巻き込まれた、ユーニとテッレストリスは
頬を染め、照れ臭そうにしながらも
『そうか?アレはアレでアリだと思う』・・・
『よ』とか『ぞ』とか、言ってくれる
それは、私的に正直、その設定を通常として受け入れる事は
是非とも止めて欲しい事だった為・・・
『冗談でも、アリとか言うの止めてくれよ…気持ちが悪い』と
私は、其処で本気で嫌そうな顔をしてみせ
気にせず気軽に、生足を露わにしてアモルに跨り
『そんな事言う奴とは行動を供にしたくないね!
別行動させて貰おうかな?』と、言って
ユーニとテッレストリスを困らせてやった。
と、言っても・・・現在、敵と言える奴等の直ぐ近く
演技が此処でバレたら、カーリタースは勿論
ユーニとテッレストリスの立場も悪くなるので
勿論、本気ではない
本気では無かったが、焦ったテッレストリスに
『女が、一人で馬に乗ってたら不味いだろ…違うか?フー?
特に、娼館で働いてる女が馬に乗るとか無いだろ?分かるだろ?一人乗りはバレルから、俺と合い乗りしろ』と
突っ込みを入れられ
其処で、ユーニとテッレストリスが微妙に喧嘩して
妥協案のくじ引きの結果・・・
私は、ユーニの馬に乗せて貰う事になった。
そして今回は、スカートを着用している為
ユーニとテッレストリスの要望をちゃんと受け止め
ユーニの腕の中、横座りと言う不安定な状態で馬に乗る
但し私は、その状態に成れる事が出来ず、落馬の恐怖もあって
不可抗力で、ユーニの体に抱き付く事になり
落ちない為に、ユーニの胸に押し当て
無抵抗で、ユーニの肩腕に腰を抱かれた変な緊張感の元
赤面するユーニを視界にとらえ
私はその為に、変にドキドキしてしまう
そのドキドキが、自分の胸から発せられ
私が私から抱き付いてしまっているユーニに
互いが着用している服の、薄い布地2枚越しではあるが
伝わっている事を自覚し、更に恥ずかしくなってしまって
私は今、胸見て赤面して転倒した
アルブムの事を笑えないレベルで「真っ赤になっている」と
頬に感じる熱さから、実感する事になった。
そんな状態の私に
『初々しいなぁ~おい!
そうしてると、本当に普通の女の子だな』と
テッレストリスが茶化す様に、余計な事を言ってくれる
私は、恥ずかしさで涙目になって
『じゃぁ~お前!私の今の格好と同じ格好して
男の前に横座りで、馬に乗せて貰ってみろよ!
恥ずかしくて死にたくなるぞ!落馬しそうで怖いぞ!
ホント、マジで!』と、吐き捨てる様に抗議する
そして、思っていた事を言葉にしてみたら
何だか余計に、顔が熱く感じる様になってしまい
仕舞に私は、視界にチラチラと入る
テッレストリスと、テッレストリスを乗せるアモルの
私を見る目に耐えられなくなって
本末転倒・・・
恥しさで沸騰した脳に、正常な判断はできなくて
後でもっと恥ずかしくなるであろうに
自分から、ユーニの胸に顔を埋めてしまって
周囲を見ない事にしてしまったのだった。
で、暫くして、自分のドキドキが少し落ち着いた頃
私が抱き付く相手…ユーニの心音に気付いて見上げ
その雰囲気に、内心・・・
「うわぁ~!止めてくれぇ~!何なんだこれはぁ~!」と叫び
無意味に私のドキドキが、ぶり返してしまい
私とユーニは、変なスイッチが入ったまま
建て替え中の隠れ家まで
テッレストリスを道連れに、やって来る事になってしまった。
辿り着いた後は、私にとっての更なる地獄・・・
辿り着いた時の様子を見ていた者達と
一部始終を大人しく、優しく見守っていたアモルのおしゃべり
拗ねて茶化しまくる、テッレストリスの御蔭で
騎士団、傭兵団、カーリタースに仕事を貰っている連中総てに
その話が伝わってしまったのであった。
その為に、私とユーニが近くに居ると
周囲から変な気遣いをされ、余計に変な緊張感が漂い
私はユーニと普通に話す事も、ユーニの顔を普通に見る事も
本気で出来なくなってしまう
そんな若干、情緒不安定な状態の私と、ユーニに対して
「仲人をやりたい症候群」と言う
ある意味で、怖くて恐ろしい病に罹った
カップリング屋達が、私とユーニをくっつけようとして
無駄に、余計に、大きなお世話的に暗躍してくれ
私は「心臓が壊れるんじゃないか?」と、言うくらいに
四六時中、ドキドキさせられ続け
更に、不愉快な集団と対峙する事になって、苦しくて切なくて
耐え切れなくなって、一稼ぎした後
黙って、本当に一人で総てを投げ捨てて
逃げ出す事になってしまった。




