表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/92

90.魔界――4

「ぐ……ッ」


 大剣とレイピア。

 その重量差を覆して余りある剛力に、決して小さくも軽くもない俺の身体は容易く吹き飛ばされた。

 あまり飛んでリフィスたちと距離が空くのも拙い。

 地面に大剣を突き刺しブレーキを掛けようとした矢先、悪寒を感じて背後へと大剣を振るう。


 果たして大剣の軌道上には、わざわざ回り込んできていたらしい魔王(グナルゴス)のレイピアの刀身があった。

 俺自身に勢いがついていたからだろう、手元に伝わってきたのは先ほどより更に大きい衝撃。

 伝わってくるダメージをどうにか再び吹き飛ばされる方向に受け流し、魔王相手に分の悪い大剣を長剣へと圧縮。

 更に追撃を掛けてきた魔王のレイピアをどうにか逸らす事に成功する。


「――か、『混沌の祝福(カオスエンチャント)』!」


 その時戦場に響いたのはレミナの詠唱。

 ……「セグリア・サガ」には存在しなかった魔法だ。

 俺の全身を魔界(エスルグム)の魔力が覆って力を増幅させ、手に持っていた長剣には更に白い光が纏わりつく。

 光の象徴である神官でありながら、闇に属する者の代名詞である魔族にその身を落とした事で得られた魔法ってところか。

 その効果はかなり強い。これなら少しは勝負が出来そうだ。


「ッお、らぁ!!」

「ぬ……」


 絶え間なく次々と突きこまれようとしていたレイピアに長剣を合わせ、先ほどよりは余裕を持って打ち返す。

 危ねぇ、レミナの補助魔法が無かったら穴だらけにされてたところだ。


「私たちも居るぞっ」

「覚悟してください!」

「消え失せろ――『紅陽珠(イグニス)』!!」

「小癪なっ……!」


 そして魔王に左右から攻撃を仕掛けたのはユイとエマ。

 レイピアを大きく振るってその攻撃を凌いだグナルゴスへ、人化を解いたリフィスが巨大な炎球を叩き落とす。

 魔王の姿は炎の中に見えなくなったが、これで終わるはずがない。

 俺とアズールはほとんど同時に魔法で追撃を――。


「――吹っ飛びな!」


 その声が俺の意識を強引に引きつけたのは、声の主の方向で莫大な魔力が膨れ上がったからだ。

 躊躇なく俺の焔銃の引鉄を引くジール。

 放たれた魔法は「滅撃の焔劔(グラム)」。

 魔王の居城を消し飛ばした灼熱の奔流が全てを呑み込み、視界を紅に染め上げる。


「グぅ、ぁぁぁァァアアアアアアアア!?」


 この一撃は流石に堪えたらしく、魔王の絶叫が聞こえてくる。

 だが、それは断末魔とはならなかった。

 悲鳴は魔法が収まるまで続き、そして無残な姿となったグナルゴスが憎悪の籠った視線で俺たちを睨みつける。


「化け物め……」

「許サんぞ貴様ラ――許さんゾォオオオオオ!!」

「っと、させるかよ!」


 レイピアを振りかざす魔王とジールの間に割って入ると、予想通り突進するグナルゴスと正面からぶつかり合う形になった。

 予想を裏切ったのは次に起きた出来事。


「なっ――」

「ファリス!?」


 レイピアを受け止めた長剣があっさりと叩き折られ、刃は止まらず俺さえ深く斬り裂いていく。

 これは拙い。

 ほぼ両断されそうな有様で尚も魔王を止めようと足掻くも、続く一撃で俺の身体は完全に崩れ落ちる。

 急いで第二形態の身体を構成しに掛かった俺の目に見えたのは、俺に続いて魔王を止めようとしたアズールがあっという間に斬り捨てられる瞬間だった。


 第二形態に移行するのはそう長い時間かかる事でもない。

 だが、その僅かな時間さえ今は致命的過ぎる。

 次の獲物を選ぶように視線を巡らせた魔王の眼が、焼け爛れた顔の中でギラリと光った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ