64.エルハリス――5
さて……メーゼの用意した品はどれも提供した素材にふさわしく強力なものだった。
後はそれをどう利用するかだ。
特にEマガジンに関しては万全の備えをするために早めに行動を始める必要がある。
そんな事を考えながら歩いていると、腕を控えめに引っ張られる感覚。
「――ん? どうしたメーゼ」
「ファリス、ぼクノ作品は期待ニ応えられたカナ?」
「悪くは無かったな。……ああ、そうか」
振り返れば何故かついてきていたメーゼが俺の袖を引っ張りながら上目遣いに見上げてきていた。
首を傾げつつ質問に答え、その途中で理由を思い出した。
「ちょっと離れる、お前らは先に行ってろ」
「ファリス様?」
「気にするな、すぐ追いつく」
不安そうなリフィスにそう応えて適当な脇道へ。
ついてきたメーゼに先導され、向かう先は空き部屋の一つ。
「じゃ、手短に済ませるぞ」
そう言って手元に炎剣を生み出し、左腕を肘……いや、肩口から一思いに斬り落とす。
支えを失い落下しようとする左腕をさっと掴んだメーゼは何かの処理を手早く施すと、そのまま収納魔法の空間に放り込む。
……メーゼも[英雄]には違いないし、収納魔法を使える事そのものはおかしくないんだが。
いつの間に収納魔法が使えるまでレベル上げた? 研究している間に勝手に上がったとでもいうのか?
「ふっふっふ、毎度あり~」
「今回は作品を評価して多めにやったが、無駄遣いはするなよ」
「もちろんさ、それクらい分カってるってー」
すっかりご満悦といった表情で頷くメーゼに疑念を含んだ視線を向けつつ斬り落とした左腕を再生する。
だいぶ魔力を注いだ状態で腕斬ったから完全に回復するには多少時間もかかるが……それでも数日あれば十分だろう。
部屋を出て魔力を頼りにリフィスたちを追うと、王宮を出る前に合流する事が出来た。
「その……ファリス様……」
「どうした?」
「そ、そこの研究者と二人で何を……いえ、なんでもありません」
「……?」
何かを聞こうとしているようだが、リフィスは何故か顔を赤くして自分から口をつぐんでしまう。
元々口数の多い奴ではないが、こんな煮え切らない態度を見せるのは珍しい。
というかユイはともかくエマやジール、レミナまで俺を見る目が若干厳しい気がする。
アズールも呆れたような顔をしているが……何なんだ?
さりげなくキィリに視線を向けると、やれやれと言わんばかりの表情で肩をすくめられた。いや、分かんねぇから。
まぁいい。それは後でまた確かめるとして、今は検証だ。
俺たちは町中を移動するにはそれなりの大所帯でぞろぞろと、普段こうしてメーゼの作品の性能を試すのに使っている大きめの広場へ向かった。




