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54.リテグレン樹海

「……む」

「ん?」


 大陸西方へ向かって移動することしばらく、シドが小さく声を上げた。

 視線に頷いたリフィスが辺りの気配を探る。


「どうだ?」

「前方に……何かの気配。数はおよそ四つです」

「仮に人だとして、四人とは妙な数だな。単なる遭難とは考えにくいが、賊だとすれば少なすぎる」

「そうだな」


 ユイの考えに適当に頷きつつ考える。

 ゲームじゃ地将(ベザンドゥーグ)は放置するほどに支配圏を広げていくんだが……この辺りはどうだったか。正直ちょっと特殊な敵が現れるエリアの正確な形まで一々覚えちゃいない。種隷(スレイブ)も獲物として格別美味しい敵だったわけでもねぇし。

 だが、仮に今現れる連中が種隷だとすると……相手の縄張りは思いのほか拡大してる事になるな。まぁ割と放置してた方だし、よく考えればそう驚く事でもないが。


「「「…………」」」

「! アレは――」

「種隷共だな。情報通りだ」

「彼らを救う方法は――」

「無いと言ったはずだぞ。……まぁ、なんだ。早いとこ楽にしてやるのが唯一の救いって奴なんじゃねーの?」


 そう言って俺は短剣を生成しつつ後方に下がる。代わって前に出るのはユイとエマ。キィリとアズールがその少し後ろに続き、残る面々は更に後方から支援を担当する。俺とシドに関しちゃ他の連中に経験値を稼がせるため最低限の援護のみに留める方針だ。


「「「…………」」」


 相手の種隷はリフィスの感知した通り四体。見た目はどこにでもいそうな村人のものだが、ボロボロになった服やそこから覗く土気色の肌を見ればその異様さは嫌でも分かる。

 種隷共は一見バラバラに見えるが地味に連携した動きで、手に持ったボロボロの鉈や刀を振りかざして襲い掛かってくる。


「…………」

「『光牙』!」

「『剛撃』ッ」


 前衛二人の剣が正面から来た二体を押し返し、残る相手二体はジールとレミナがそれぞれ遠距離攻撃で抑える。

 特に後衛二人の攻撃は頭部ど真ん中を捉えてたが……種隷の動きは止まらない。

 前にルートゥで俺が燃やした奴らより強いな。本体のお膝元だからか?

 ただ元からの人数差もあり、結果から言えば一方的に押し込む形で勝敗は決した。リフィスの放った炎に呑まれ、種隷たちはその身体を崩れさせていく。


「……ファリス」

「なんだ?」

「こんなところまで種隷が居るという事は――」

「ああ、大体お前の予想した通りだろうよ」

「く……」

「今更寄り道したところで救えないものは救えない。なら何を優先すればいいかは分かってるだろ?」

「…………済まない」

「よせよ、お前がそんなだと俺もつまらねぇ」


 ったく……なんで俺が変に気を遣う羽目になってるんだ。

 コイツはコイツで一向に調子を取り戻す様子も無ぇし。

 なんだ、何かイベントでもこなさないといけねぇってのか? そんなもん俺の知識には無いぞ。


 ……イベントと言えば、割と悪趣味なのが一つあったな。

 ベザンドゥーグの支配する地域に生き残った子供がいて助けを求めてくるが結局罠だったって奴だ。

 ま、キィリが居れば見分けるの自体は余裕か。立ちそうになったフラグを速攻で焼き払えるように後で合図でも決めておこう。

 実際はゲームの仕様だと奴の勢力圏に取り込まれた町・村の類は全滅してる。奴の性格を考えれば現実でも状況は似たようなものと見ていい。


「――再び、前方に反応が。いかが致しましょうか?」

「わざわざ道を変えるのも面倒だ。蹴散らすぞ」

「仰せの通りに」


 こうして散発的に現れる種隷、そしてそれとは関係ない災魔の類を蹴散らして進み……やがて、俺たちはベザンドゥーグが居座る山に辿り着いた。


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