55.聖山ダグラット
「「「…………」」」
「チッ、ベザンドゥーグの奴も懲りねぇ――」
「いや、待て!」
地将が待ち構える山……聖地としても有名な、通称「聖山ダグラット」の中腹。
侵入は既に察知されているらしく、俺たちは種隷たちの断続的な襲撃に見舞われていた。
最初は種隷共の数を頼みにした強襲。次は落石による妨害。その次は落石の中での種隷との戦闘。
いい加減に面倒になってきたし、全て焼き払おうとしたところでアズールの制止が掛かった。
「なんだよ、お前が代わりに――」
口から出た文句はゴゴゴという地鳴りに遮られた。
嫌な予感に視線を上げると、煙を上げて迫ってきたのは何のために種隷まで出てきたのかってレベルの土石流。
「なっ……!?」
巻き込まれればタダでは済まないのは必定。俺は第二形態があるからとりあえず死なないにしても他の奴らはそうはいかない。
咄嗟に人化を解除、炎翼を展開して下がり宙にリフィスを放り投げる。次いで手近なところに移動していたキィリの襟首を掴み、エマを小脇に抱え、ジールも空いた手で確保。
いけるか――? 飛び上がりざま生成した炎尾でユイを絡めとると、荷重超過で全身がミシリと軋んだ。
歯を食い縛って力を振り絞り高度を上げると、直前まで俺たちの立っていた場所を土砂の奔流が呑み込んでいった。
飛ぶというより不時着するように俺の身体は滑空し……ふと、身体にかかっていた負荷が和らいだ。
「ファリス様、お気を確かに!」
「っ……」
見れば俺と同じ炎翼を広げたリフィスがキィリを抱えて隣を飛んでいた。多少フラついているが、この様子だと落ちる心配は無いだろう。
……キィリが咳き込んでるのは、もしかしなくても首が絞まってたか。
少し心配になってもう片方の手を見ると、ジールは普通に緊張した様子でぶら下がっていた。
ひとまずユイを担ぐ形に移行して炎尾を消し、炎翼の出力を安定させる。
「な……何故私を助けた!」
「そりゃ助けるだろ。お前に死なれたら困るんだよ」
相変わらずの調子で威勢だけはよく噛みついてくるユイを適当にあしらいつつ、ようやく周囲を確認する余裕が出来た。
蝙蝠のような黒い翼を懸命に羽ばたかせているアズールが両手からぶら下げているのはレミナとシド。
……ひとまず、全員無事か。
追撃のように山頂から飛来した岩塊を炎盾で受け流しつつ一息つく。
荷物を抱えた状態じゃそう長く飛んではいられない。俺たちは一度、山のふもとまで引き返した。
「……それで、どうする?」
「分かり易い案なら、俺たち飛べる面子だけで山頂まで直行するってのがあるな」
「じゃあ、それでいいんじゃない?」
「却下だ。そもそも俺たちの本来の目的を考えれば、飛べねぇ連中にこそベザンドゥーグの奴とは戦わせたい」
試すような口調で尋ねてくるキィリに答える口調が、多少不愛想になっているのは仕方ない。
今いる場所も敵地である事には変わりなく、ひっきりなしに現れる種隷の対処に追われているからだ。
さっきまで相手してたリフィスたちもヘバってるし、雑兵相手とはいえミスは許されない。
「それなら他に案はあるの?」
「あったらこんな所でいつまでも手を拱いてねぇよ。お前こそ何か思いついてんじゃねぇのか?」
「さぁね、どう思う?」
……イラッ。
まぁ、どうせコイツも無策には違いないんだろう。意味なく勿体ぶるような真似はしない奴だ。
それに、キィリが何も言わないって事は他の奴も特に閃くものは無いと見ていいか。読心の効かないユイとシドにしても、何か打開策があるようには見えない。
「それに何か思いついたって、少し休まない事には戦えないでしょうし」
「……お前らが休んでる分、俺が消耗してるんだがな」
「では私が……」
「あぁいや、これくらい負担の内にも入りやしねぇよ。言ってみただけだからリフィスは大人しくしてろ」
「エマ、あなたもよ」
「あ……はい、済みません」
テントから出てきそうになった忠臣を制する。俺の少し後ろに座っているキィリが釘を刺すと、リフィスの影に隠れていた少女も気まずそうに顔を引っ込めた。
実際、これくらいのペースなら人間を焼き尽くす程度の魔力消費は無いに等しい。精神的に面倒な程度だ。
一つ溜息を吐くと、俺はまた一体の種隷を焼き尽くした。




