38.ギレムス遺跡――3
――さて、どうしたものか。眉間に銃口を突き付けられながら考える。
俺が知る情報……銃を改良できる知り合いがいる事、ジールには剣や槍といった様々な武器に適性がある事なんかを全部話しても良いが、まず信用されないだろう。
これでエマが説得できたのは、積み上げていたある程度の信用と本人の性格・境遇が合わさった結果だ。
トレジャーハンターとしてここで生きているこの少女を同じ方法で勧誘するのは厳しい。
キィリの読心で思考を読みながら説得できればな……何とかして相手に気づかれないようにしたまま、キィリから情報を受け取れないもんだろうか。
いや、無いものねだりしてても意味は無い。
それに本領とはいかないまでも、人を丸め込んで操るのだって俺の領分だったはずだ。
相手が不信感を抱いているなら、信用するように話せば良い。それだけの話だ。
現在の状況、そしてジールについてのゲーム知識を脳内でこね回しシナリオを練っていく。
「――まぁ、まずはその物騒なものをどけてもらおうか」
「くっ……!」
何気ない動きで銃口を逸らし、そのままの動きで奪い取る。
まだ完全には麻痺が解けないらしい少女の抵抗は想像より弱々しかった。
取った銃を壁に向け引き金を引く。微量の魔力が吸い取られる感覚、そして銃の内部で何かのギミックが動く音。次の瞬間、壁には俺の魔力を元にした弾丸が小さな穴を穿っていた。
「ッ!」
「へぇ、これは中々良いもんだ」
突然の発砲に身を固くするジールをよそに適当な感想を呟き、小さく煙を上げる銃を未練なく少女の手に戻す。
ここからが正念場。
警戒心を宿したジールの瞳を正面から見つめ返す。
「前も遠目にちらっと見たが、それが銃って奴か」
「……そうだ」
「って事はお前が『硝煙のジール』だな? 俺は旅の途中に立ち寄った冒険者のファリス。後ろにいるのは腹心のリフィス、仲間のキィリとエマだ」
「…………」
まずは名乗りを済ませる。
ジールは興味無さそうな表情。そろそろ身体も動くようになってきたらしいし、立ち去るのも時間の問題か。
だが、そう悠長に事を進めていくつもりは無い。今回で話をつけてみせる。
「ところで今、偶然とはいえお前の命を救ったわけだが。まさか借りっ放しなんて事は無ぇよなぁ?」
「頼んだ覚えは無いね」
「そう警戒するなって。第一、俺が力尽くで要求を通すつもりならとっくに動いてる。俺がしたいのはあくまで取引だ」
「…………」
「その銃が欲し――」
「断る」
「分かってる、話は最後まで聞けって」
麻痺からはもう完全に回復したらしい。
流れるように滑らかな動きで突きつけられた銃口をどけ、大げさに肩をすくめてみせる。
……あ、こめかみがピクっと動いた。あまり煽る余裕もないな。
渾身の真顔で誤魔化して本題に戻る。
「俺の知り合いにメーゼって科学者がいる。そいつならその銃を強化する事も出来るし、素材さえあれば量産だって可能だ。俺が欲しいって言ってるのはそのコピー」
「そんな話、信じると思う?」
「いいや? だが、罠だと思うなら考えてみろよ。さっきまで碌に動けなかったお前に手を出さないで、わざわざハメようとする理由を」
「…………」
これでどうだ?
無難なセリフは大体吐き終えた。考える時間を与える意味も込めて口を止め、返事を待つ。
しばし逡巡したジールはやがてゆっくりと口を開いた。
「……アタシには、果たしてない誓いがある。それが片付くまで、ここから離れるわけにはいかない」
「へぇ。話してみろよ」
「………………」
意外な方向に話が進んだ戸惑いなどおくびにも出さず先を促す。
「セグリア・サガ」では、窮地に陥っているジールを助けるのは幾つかのイベントを消化した後だった。
今コイツが切り出そうとしている誓いはそれとは別。仲間になってから幾つか条件を満たすと始まるイベントのものだが……色々と途中をすっ飛ばしたせいで予定がずれ込んだのか。
確か内容は死んだ弟の墓前に供えるアイテムの発見だったはず。場所は大まかにしか覚えてないし、それと同じ場所に目的のものがある保証も無い。
面倒な事にならなけりゃ良いが……そう思いながらジールの言葉を待つが、この段になって少女は目を逸らして黙り込む。
何だ? お前が話さないと進まねぇだろ。
気まずい沈黙を破ったのは、後ろに立っていたキィリだった。
「――そういえば貴女、弟さんを亡くしてるって聞いたけど。誓いって言うと、それに関係する事かしら?」
「っ!」
「図星か」
それを聞くとジールは弾かれたように顔を上げた。踏ん切りがついたかポツポツと話し始めた内容は俺の知識と同じもの。
欠伸を噛み殺しながら耳を傾け、話が終わったのを見計らって口を開く。
「そう言ったって俺たちもずっと待ってるわけにはいかねーんだ。手伝ってやる」
「……え?」
「要するに探し物が見つかれば良いんだろ? とっとと見つけてやるから、誓いとやらを果たしたら俺たちと来い」
その返事は予想もしていなかったのか、それまでの張りつめたものとは違う間の抜けた声が上がる。
ぽかんとした顔は中々に見ものだった。




