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20.ルートゥ――4

「――なら、アイツらが炎将に関係してるとすれば……や……れならファリスもそれについて思い浮かべるくらい……るはず……」


 ……決まり、だな。

 正直こうして決定的な証拠を掴むまでは半信半疑だったが、流石に信じるしかない。

 ちなみにリフィス以外の言葉だったら相手にしてなかった。


 さて、どうするか……。

 頭の中で軽くこれからの行動を思い浮かべる。

 キィリが本当に寝ているのは確認済みだ。

 なら、まずは起こすとこからだな。


「――おい、キィリ」

「んん……? なに――ッ!」


 何回目かの呼びかけに、ようやくキィリが目を覚ます。

 今の反応で大体の事情は掴めた。

 タイプは読心、それも読めるのは思考の表層に限る。

 早い話が(サトリ)――同じ能力を持つ魔族のものと同スペック。

 少なくとも寝起きで集中できていない間は、な。


 やった事は単純。

 キィリを殺るという思考を脳内に満たした状態で、コイツの目の前に立っていただけだ。

 殺意は思考に留め、殺気は抑えている。

 というより元から殺すつもりはないから、普通にしていれば殺気が生じるはずもないが……。

 俺が炎将だと知っているなら、それは寧ろ殺気を無くして確実に仕留めようとする本気度合いを演出してくれる。

 頭が中途半端にしか働いていない寝起きなら尚更だ。


 そしてキィリは確かに、俺の頭の中にあった殺意を読み取って表情を変えた。

 ひとまずこれで、キィリが俺の思考を読んでいることは確認できた。


 一々説明するのも面倒だ。

 今晩リフィスが俺の部屋に来てからこれまでの経緯を、種明かしも含めて振り返る。

 数秒のラグこそあったが、キィリの愉快な百面相は最終的に観念した表情に落ち着いた。


「……先に言っておくと、わたしはファリスの知識通り、血統書付の人間(貴族)よ。後の事は大体、貴方たちの予測で合ってるわ」

「そうか、それなら話は早い。次に俺が聞きたいことも分かるな?」

「っ……分からないわ。あと、その悪趣味なイメージはやめて。この能力(読心)は抑えが効かないのよ」

「そいつは悪かったな」


 前世で読んだ本の中の知識になるが、無数の難解な数式を思い浮かべることで思考を読めなくするフィルタを作るという対策があった。

 その応用版として、言葉の途中で(炎将)がしてきた虐殺と蹂躙の記憶を呼び起こした。

 ちょうどそのタイミングでキィリが息を呑んだのを考えると、コイツの言葉は事実とみて良いだろう。

 ……だが、それはそれで面倒だな。

 俺も前世も小難しい数式なんてものには詳しくないから、フィルタ代わりにする別のイメージなり記憶を考える必要がある。

 それに俺自身、何度もあの頃の事を思い出してたら気が滅入るってのもある。


 まあ、キィリの読心自体に対する検証はこれくらいでいいだろう。

 改めて次に問うべきは二つ。

 これまでも同じ状況で宿に泊まることはあったのに、何故このタイミングになって発覚したのか。

 そして寝言の内容……(炎将)の関与が想定されるが俺自身の思考からは読み取れない何者かが、今この村にいるということについてだ。

 俺とキィリの間だけで話を進めるわけにもいかないから、リフィスにも気を遣って言葉にして尋ねる。


「まず二つ目の質問から答えさせてもらうわ。数は二人、思考に不自然な空白がある人間がこの村にいるの」

「不自然?」

「人間……あと、魔人もそうみたいね。誰しも頭の中では常に何かしら思考しているものなの」

「ええ。……? ま、まさか……っ!?」

「リフィス。この際だから断言してしまうけど、貴女の想像した通りよ」

「う……」

「ん、どうし――」

「うわぁぁぁあああああぁああぁああぁぁああああああっっ!!」

「リフィス!?」


 突然リフィスが固まったかと思うと、何にそんなに動揺したのか一瞬で人化が解ける。

 それどころかキィリの短い言葉を受けた瞬間その表情が絶望に変わり、身を裂かれるような悲鳴を上げて布団に潜り込んだ。

 な、何事だ?

 解けた防音の魔法を張り直し、説明を求めてキィリを見る。


「……どう説明したものか……うん、あれも忠義の発露の一つみたいなものよ」

「忠義怖い」

「それにしても貴方にそういう(、、、、)のは無いのね? 炎将リファーヴァントってどんな種族なの?」

「抽象的に言われても分からん、お前みたいに心が読めるわけじゃねぇんだ。種族って言うなら魔人に分類されてるが、奴らとは出自が違う」

「へぇ?」

「俺は元々、幾多の魔族を呑み込んだ魔界の炎が自我を得たものだ。だから親とかいうのに育てられる連中の考えなんざ……いや、今は関係無いだろ」

「でも前世は貴方の言う、親に育てられる人の子だったわけでしょう?」

「同じ俺でも前世と今じゃ違う。前世の記憶なんざただの情報だ、何に関するもんでもな」


 この事について議論をするつもりはない。

 いい加減に話題を戻せって意思を込めて一睨みすると、キィリは肩をすくめて見せた。

 どういう意味のジェスチャーだよ。

 俺はお前と違って読心なんて便利な真似はできねぇんだ。

 少し不機嫌に先を促す。


「そう、この村にいる不自然な二人の事だったわね。なんていうか、思考が無いわけじゃないの。居座った空白に押し潰されたみたいな、微かな感情は感じられる」

「ほう……」

「身体を動かしている意識は空白のもの。感情からギリギリ読み取れるのが、大きな辛さと絶望。……どう? 普通じゃないでしょ?」

「………………」

「それで一つ目の質問の答えまで戻るけど。家から離れて気が緩んだところでこんなの見つけて、平常心じゃいられなかったの」

「炎将とその腹心に同行なんて申し出ておきながら、か?」

「貴方たちに直接の危険は感じられなかったし、面白そうなこと考えてたから。それに……伝わるかしら?」

「?」

「わたしの読心は、貴方が考えているのとは少し違う。負の感情とか、記憶とか……良くないモノが視えるのって、結構キツいの」


 結論からいえば伝わってはこなかったが……。

 逆に言えば、読心でその手のものを読むのは、このキィリでもここまで隙が出来るほど弱るような負担になるってことか。

 そう考えると、キィリは肯定するように頷く。


 ……視られるってのも相当キツいみたいだぞ?

 布団の中で慟哭しているらしいリフィスの方に、つい視線が向く。

 キィリはそっと目を逸らした。

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