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2話

兄妹がイチャイチャします

 その一言にツツジは困惑する。直前からの態度の豹変。これは理人が何かを企んでいる事は十中八九間違いないが、この機会を逃す理由はない。ツツジは脳内で解を模索する。その様子は兄である理人そっくりだった。

そして数秒の後彼女は結論を出した。


「……いいでしょう。好きにさせてもらいます」


 毒食らわば皿まで。それが彼女の出した結論だった。『好きにさせてもらいます』のひと言に理人の心は内心穏やかではなかったが、作戦の為にその感情を静かに押し殺す。

 ツツジは脱衣場に入ると後ろ手に扉を閉めた。狭い空間に閉じ込められる理人とツツジ。


「ではお先に失礼します」


 そういうとツツジは慣れた手つきで巫女服を脱ぎ始めた。スルスルと服の音が脱衣場に響く。理人も黙って服を脱ぐ。

 やがて脱衣場には全裸の兄妹が一組、突っ立っていた。


「……」

「……」


  互いの顔を突き合わせたまま動かない理人とツツジ。静寂が二人を包み込む。

 そこで、ツツジは違和感に気が付いた。


「……?」


 あまりにも静かすぎる。理人も男なのだから女性ツツジの身体に反応するはず。しかし彼はごく平然とそこに突っ立っていた。そう、まるで親しい同性の友人とシャワーでも浴びるかの様に。

 試しにツツジはわざとらしく腕を組み、胸を強調してみた。

 そして、その瞬間を見逃さなかった。


「……!」


 ツツジが違和感に対応しようとした瞬間に理人が浮かべた、勝ち誇ったような笑みを。


「……理人兄さん」


「ん? 何だ?」


 理人はそんなツツジをまるで気にも留めないように平然と風呂場の戸を開く。そんな彼の腕をツツジは掴む。


「裸の女の子がいる、それなのに」


 ツツジの中に芽生える感情。背中にじっとりとした汗が纏わりつく感触に彼女はその感情の正体に気付いた。


「どうして反応しないんですかっ……!?」


 これは、焦りだ。

 そうすると理人は全て計算のうちとでも言いたげな、見下したような、勝ち誇ったような暗い笑みを浮かべたのだった。


「ツツジ、お前の敗因はたった一つ。たった一つだ」


 そう言って、理人はさもありなんと言い放つ。


「やり過ぎたんだよ、お前はな」


 その瞬間、ツツジは事の真相を理解した。なんだかんだ言ってもツツジは理人の妹である。理人が戦場で発揮するような感覚はツツジにも備わっており、そしてその才能はツツジに残酷な一つの事実を突きつけたのだった。

 ツツジは妹である。理人と遺伝子のつながった実の妹である。思春期に入る直前まで別々に育てられた事によるミームの相違性を超えた『繋がり』の様な物が確かに存在する。そしてその繋がりはツツジを一人の少女から妹に再分類するのには十分な何かを持っていた。

 だがその程度の差なら修()できたかもしれなかった。しかし、ここでツツジは一つ間違いを犯した。

 ツツジは最近の行動を思い起こす。一体自分がここ一週間で何回理人に全裸で突撃したか、何回風呂に乱入したか、何回着替えを盗もうとしたか、何回セクハラをしたか。

――要するに、引っ付き過ぎたのである。そりゃ慣れるというものである。


「し、しまったアアァァァァー!?」


 策士策に溺れる。ツツジは理人を溺れさせるつもりの沼に自分が溺れている事に、ようやく気付いたのであった。


「ククク……今のお前は恋愛でも性的な対象でもない! ただの妹だっ!」

「いやああああああああああ! わたしをすてないでおにいいちゃあああああん……!」


 地獄の底から搾り出したかの様な声で叫び、理人に縋りつくツツジ。理人はそんなツツジを意に介さず振りほどくと風呂場中に入っていく。何処か邪悪な高笑いを響かせて。

 しかし、ツツジは諦めてはいなかった。


「……だ」

「?」

「まだ、終わっていないっ!」


 全身をばねの様にしならせ、理人に飛び掛かる。かくなる上は強硬手段に移るしかない、このまま押し倒してくれる。何としても理人の中におけるポジションを変えない事には彼女の泥沼の様な恋路に未来はない。ツツジはこの時完全に理性を失っていた。

 ツツジは理人目掛けて突っ込んでいく。

――彼女が強硬手段に移ることすら、彼の計算内だという事にも気付かずに。


「ははは、やんちゃな妹だ」

「!?」


 一瞬脇に理人の手の感触があったと思った次の瞬間、ツツジの世界はひっくり返った。風呂場の床が頭上に見えている事から、自分が今理人に米俵の様に担がれているのだと理解する。

 理人は軍人である。近接戦闘は苦手な部類だが、とびかかって来る妹をいなして拘束する位は朝飯前であった。


「りり、理人兄さん?」

「ははは、可愛い妹め。ちょっと頭でも冷やそうか」


 そう言って理人は右手で右肩にツツジを担いだまま左手をそっと湯船に浸す。昨日の残り湯、程よく冷えている。


 術式展開。


 浸した手から淡い青色の光が一筋、波紋の様に湯船に広がった。そしてすぐに湯船の表面にうっすら湯気が立ち始める。だがそれは水の温度が上昇した事ではなく、起動した術式が湯船の水を強制的に蒸発させたことで水の温度が急低下している証であった。理人の手に感じる湯船の水の温度はどんどん冷えていき、すぐに表面に小さな氷が浮かんで来る。理人は程よい塩梅(・・・・・)で術式をシャットダウンし、手を引き抜く。そしてその手を躊躇いなくツツジの尻に回した。勿論支える為である。

 しかし等のツツジはと言うと、尻に触れた理人のぞっとするほど冷たい手、抱えられて動けない今の状況、そして先程の『頭を冷やす』発言から理人が何をしようとしているのかをうっすらと予想してしまっていたのだった。


「り、理人おにいちゃん?」


 震える声で、口調が正気のそれに戻ったツツジが理人に尋ねる。


「なぁに、ツツジ?」

「えっとね、そのー……」


 ツツジは必死に考える。今この状況を打破できる言葉は何かないのか。


「だぁーめ」


 先に回答を打ち切られた。現実は非情であった。


「お願いちょっ待っ――」


 ツツジの必死の願い空しく、彼女が抵抗を試みようとした瞬間理人はツツジを氷水の中へと放り込んだのであった。


「ぎういやああああああああああああああああ!!?」


 ツツジは寝起きであり、まだ体が火照っている上に体温調節も上手くいかない状態である。そんな中氷水に放り込まれた結果、ツツジを引き裂くような冷気が襲ったのだった。


「いやああああああああ! 出して! だしてえええええええ!」

「ははは、しっかり10数えないとだめだぞーツツジ。ほらいーち、にーぃ」


 必死に出ようともがく彼女をがっちり押し込む理人。日頃の恨みを晴らさんとばかりに彼はツツジを冷水の中に押しやる。そしてがっちりとツツジを抑えたままゆっくりカウントをするのだった。初めは抵抗していたツツジも、『7』程まで行くと次第に動かなくなっていった。


「きゅーう、じゅーっ」


 そう言って理人は手を離す。すると途端にツツジは冷水風呂から飛び出し、そのまま転がる様にして風呂場から出ていく。そんなツツジを横目に見ながら風呂場の扉を閉め、理人は心の中で勝利宣言を行ったのであった。

 理人はシャワーを軽く浴びて汗を流す。鴉の行水の様な短さだったが、彼としては掻いた汗と皮脂を流せればそれでよかった。

 シャワーを止めて風呂場の扉を開くと、脱衣場の床でタオルにくるまってガタガタ震える、横たわったツツジの姿があった。


「あ、あったかい……た、タオルがすごくあ、あったかい……」


 紫色になったツツジの唇を見て、少々やりすぎたかなと理人は心の隅で思ったが、震えるツツジが理人のパンツをしっかり握りしめているのを見てその考えは暴風の前の一本の藁の様に吹き飛んだのだった。


「はぁ……シャワー開いたぞ。浴びて来い」


 理人はため息をつくとツツジからタオルとパンツをはぎ取りつつ言う。ツツジは少し抵抗したもののタオルとパンツを手放すと、よろよろと吸い寄せられるように風呂場に入って行った。そしてすぐにシャワーの出る音と、ツツジの心地よさそうな声が聞こえてきた。

 その様子を理人は背中で聞きつつ手早く持ってきた着替えに着替えると、洗濯物を洗濯籠に放り込んで静かに脱衣場を出た。


史上最低のシーンを書いてしまった気がする(確信)

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