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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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大人になることは、大変なこと。

「ただいま〜!」


 開いた扉から、元気な声を響かせたのは、たぬきちの愛するご主人、沙也加だ。


 一日中、外に居たというのに、その表情はなんだか晴れやかであった。


(きっと楽しめたポンね!)


 自分以外の存在と過ごす初めての休日。

 さらには、子供たちとの触れ合いに、高橋課長からのお願い。


 自らが去ってからの出来事もたぬきちは、キッチンから、チラッと沙也加の顔を目にして、全てを察する。

 

「おかえりポン」


 そういうと、手早くデコレーションを済ませ、子供用の踏み台から華麗に着地。

 スリッパをカパカパ鳴らしながら、沙也加の元に向かった。


「たぬきち、ただいま! 今日はほんと助かったよ〜! まさかお弁当を忘れるなんて……我ながら、情けないというか、なんというか……あはは〜……」

「そこまで気にすることじゃないポン! 結果として上手くいったポン! それに――」

「それに?」


 沙也加の問い掛けに、たぬきちは珍しく口籠って、


(ボクにも友達ができたポン)


 心の内でそう呟いた。 


 友達。

 それは決して動物園の動物ではない。

 では、誰なのか……それは――。


(まさか、ボクが子供たちと意気投合しちゃうなんてポン……)


 シゴデキ課長の姪っ子、七菜とその同級生、綾人であった。


(子供の柔軟性凄すぎるポン……)


 摩訶不思議な動物――たぬきちをたぬきと信じて、目を輝かせながら「たぬきさん」と呼んでくれた。


(しかも、素直なところもポイントが高いポン!)


 人間の大人と違って腹の読み合いや本音と建前など、まだなく、たぬきちが内緒と言ってから、たぬきだということを決して口にしない。


 が、たぬきちはふと思った。


(大人になるって大変ってことポンよね……)


 目の前で見つめてくる沙也加だって、きっと同じ頃があった。

 けれど、前へ進むために、大人になるために変わっていかなければならなかった。


(野生と一緒ポンね)


 他の生物と違い、人間たちは手先が器用で、探究心旺盛。変化を好む性質があって、独自の技術がある。

 今現在に至っては、食物連鎖の頂点といっても過言ではない。


 だが、その人間ですら、その環境に馴染めないと生きることが難しくなる。


(だから、レッサー君が流行っているポンね……)


 変化が目まぐるしい世界。

 人間であっても、どうやって生きればいいのか、迷う。

 それも子供という多感な時期。


 親だからといって、素直にその言葉を受け取ることは難しい。


(ボクもそうだったポン……)


 幼き頃、両親の言いつけを守らず、山の中で迷子になったことを思い出して、


(やっぱり、レッサー君凄いポン!)


 再認識した推しの凄さに、感嘆の声を漏らしかけたたぬきちであったが――。


「って、たぬきち? どうかした?」


 大人でありながら、子供のような沙也加の声を耳にして、飲み込んだ。


「なんでもないポン!」

「なんでもないって……本当に? さっきなんか言いかけたよね?」

「気にしないで大丈夫ポン!」


 働くことは大変、大人になることも大変。

 であれば。

 

(今、人間の友達ができたというのは、言わなくてもいい。余計な心配を掛けることになるポン)


 そう考えたたぬきちは、殻を破ろうと、足掻いている愛すべきご主人の手をギュッと握って、


「今日は、いちごたっぷりのショートケーキを作ったポン! 一緒に食べるポン♪」


「クキュ♪」と鳴き声を上げつつ、頭にはてなを浮かべる沙也加の手を引いたのであった。


 なお、その後。

 わんこそばならぬ、わんこケーキ方式で、沙也加が食べ終わった瞬間、補給し続けたたぬきちであった。


 翌日以降、カロリー調整のたぬきちお手製精進料理が食卓に並んだのは言うまでもない。

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