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江ノ上さんの同居人は、犬でも猫でもなくて、シゴデキたぬきです!  作者: ほしのしずく


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4/55

たぬきってこんなんだっけ?

 会社終わりのOLと、迷子たぬきとの不思議な出逢いから、数年の時が流れた。


 時刻は、まだ日が昇りきっていない午前六時半。


 一人と一匹が住まうマンションの一室、その寝室にて。

 

「ふわぁ〜」


 パジャマ姿で拳一個は入るほどの、大きな欠伸をするのは江ノ上沙也加、二十八歳。


 玄関からリビング、キッチン――そして寝室。


 足の踏み場もないゴミ屋敷だった室内は、今や新築同然の輝きを見せていた。


 それもこれも――。


「たぬきち〜! おはよう〜!」


 彼女の目の前で子供用のエプロンを着けて、カーテンをサッと開けたたぬき――沙也加が名付けた同居人、たぬきちのおかげであった。


「おはようポン!」


(今日も可愛いな〜! つぶらな瞳にヒラヒラのエプロン、尻尾も揺れてるし♪ そういえば、尻尾って犬と同じ感じで動くのかな?)


 そんなことを考えて、立ち上がろうとしたら――。


「うわ――っ」


 床に垂れた掛け布団と踏んで、勢いよく倒れそうになって、なんとか踏ん張って、


「あ、危なかったぁ〜! この歳になって転けるとか、シャレになんないよ〜!」


 ペタンと腰を落として、胸を撫で下ろす。


 このOL、部屋は綺麗になっても、どこか抜けているドジな感じは直らないのである。


「全く、朝から騒がしいポンね! 朝ごはん出来ているから、早く歯磨きして、着替えてくるポン!」

「はーい! たぬきちママの言う通りにしまーす♪」

「ポン……返事より、行動ポンよ!」


 そういうとたぬきちは、沙也加の手を両手で握って、ググッグイッと力いっぱい引っ張った。


「ありがと♪ たぬきち」


 手に伝わるフニフニした感触、すっかり二本足で歩き日本語を喋るたぬきに成長を感じて――。


(って、たぬきってこんなだっけ……? ほぼ、お母さんのような……)


 ふと、当たり前の疑問が頭に浮かんだ。


 けれど、


「お礼はいいから、早く支度するポン! 今日は朝から会議じゃなかったポンか?」

「ああ――っ! 本当だ! やばいよ〜! 購買課の課長さん、朝しか空いてないって言ってたのに〜!」


 迷子の子だぬきから、ママたぬきと化したスケジュールを把握しているたぬきちの指摘によって、思考が仕事モードに切り替わり、駆け足で洗面所へと向かった。


 これが数年の間、繰り返されてきた忙しくて、なんとも不思議な日常である。



 ☆☆☆



 たぬきちに急かされて、着替えやメイクを終えた沙也加は、バランスの取れた料理が並ぶダイニングテーブルに腰掛けていた。 


「ほんと、たぬきちの料理って美味しいよねー! どこでこんなの覚えるの?」

「この人間からポン!」


 そう言って、たぬきちはダイニングテーブルの上に置かれたスマホの画面を前足でトントンと叩いた。

 

「へ、へぇ〜! 料理系YouTuberだったんだ! てっきり、テレビでも見て覚えたのかと思ったよ〜」 

「ポン! もちろん、テレビでも情報は収集しているポン♪ 情報はバランスが大事ポンからね!」


(情報はバランスが大事……私より、鋭い……)


 そんなことを考えながら、皮目がパリっとした焼き鮭に、出汁の効いた味噌汁、灰汁抜き完璧なほうれん草のお浸し、そして炊きたての白米。


 たぬきちによって用意された朝食をパクパクと口に運ぶ。


(それもそうだけど、なんでこんなに美味しいの〜!)


「おいひぃ〜!」

「美味しいポンか?」

「うん♪ ものすごーく美味しい! 特にこの玉子焼き! 甘じょっぱくて、私好み!」

「それは良かったポン♪」


 まるで人間のように嬉しそうにハニカムたぬき――たぬきちに、バランスのいい朝食、そして埃一つ見当たらないテーブル。

 ベランダの方に視線を向ければ、黄緑色の色鮮やかなカーテンが風にゆらゆら揺れている。


(たぬきって……凄いんだ……)


 そんなことを思いながらも、沙也加はふと思った。


(って、たぬきってこんなんだっけ……?)


 家に招いた時は、こうではなかった。

 少し察する能力の長けた犬……いや、たぬきって感じであったのだ。 

 それがいつの間にか、二足歩行で炊事洗濯、家事全般に加えて自堕落な自分を人間として生活できるようにサポートしてくれている。


 その上、「ポン」という特徴的な語尾はともかく日本語を喋るのだ。

 海外から移住した人でもこうはいかない。

 日本語というのは、それくらい難易度が高いのである。 


(もしかして……たぬきじゃないとか?)


「あのさ……ものすごーく今更なんだけど、なんでたぬきちって、そんな流暢に日本語喋れるの? 初めは鳴いてるだけだったよね?」


 なんとも今更感は否めない疑問である。

 三年間もママたぬきに世話をされてきたというのに。 


 それどころか、口元に米粒を付けたまま、たぬきちをまじまじと見つめる。


 いくら家が綺麗になろうとも、やはりこのOLポンコツなのだ。出逢った頃とは完全に立場が逆転である。


 そんな沙也加の言葉を受けたたぬきちは、口元の米粒を取りつつ、スマホを指差した。

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