シゴデキは類を呼ぶ!?
「クキュ♪ 浴衣いい感じポン♪」
ペットケージが置かれた木の香りと畳の香りが漂う客室にて。
たぬきちはレッサー君を抱えながら、くるりくるくる。
洗面・脱衣所の鏡の前から、華麗に綺麗に部屋中を舞い踊っていた。
まるで氷上を滑るフィギュアスケーターのように。
(一時は、どうなるかと思ったけど、結果オーライだよね!)
困難なんてなんのその!
たぬきちと二人ならなんだって乗り越えられる。
はしゃぐたぬきちを目の当たりにして、そう思った。
――だが。
(というか、あの女将さん……なかなかに手強かったよね)
さすがの沙也加も胸をなで下ろしていた。
なにの因果だろう。
たぬきち・高橋課長・女将――ここ二〜三年で自分の周りにはなかなかのシゴデキが集まってくる。
「これが運命……」
何やら壮大なことになりそうであったが、そこは石の上にも三年。
日本語をしゃべり倒す、シゴデキたぬきと暮らした日々は伊達ではなくて、
「いや、あれかなー! もしかして類は友を呼ぶ……とか?」
少しズレてまさかの自分をシゴデキ類にカテゴライズした。
まだ動物好きならわかる。
一体、何をもってシゴデキ判定しているのだろう。
目の前のたぬきが、正気だったら、すぐさまツッコミが飛んでくるとんでも事案である。
「フフッ」
(私……気付かない間にシゴデキになっていたのかも)
「ご主人……なに変な笑い方しているポン……」
「えっ? あはは〜、いやいや何もないよ〜♪」
判定基準は曖昧だが、これを口にしてしまうと怒られるということは理解している沙也加である。
なんというか、思考がたぬきちの前に至っては、シゴデキな子供なのかも知れない。
ん……シゴデキとは――?
「……まぁ、よしとするポン!」
(ンフフッ♪ 乗り切った! やっぱり成長してるよね! 私!)
小さくガッツポーズをして、心の底から満足。
実に幸せな飼い主だ。
「――それよりも大浴場に行かなくてもいいポンか?」
「大浴場……?」
さくらやの中には、天然温泉掛け流しの大浴場が存在している。
温泉には、肩こり・腰痛・美肌効果の見込める薬効成分が含まれており、その温泉だけを求めてくる客も多い。
外回りではヒールを履いて軍隊のようにカツカツ歩き回り、内勤になると囚人のように窓の無い部屋から部屋へ、打ち合わせという名の監禁が待っている。
そして最後は地獄の資料作り、関係部署からの訂正を受けつつ何時間もパソコンと見つめ合う。
肩こり・腰痛とメラニンの申し子……沙也加。
(誰が……メラニンの申し子だ!)
頭に浮かんだ侮蔑ワードに憤りを感じながらも、沙也加は理解した。
シゴデキたぬき――たぬきちがこの場面で自分のことを優先しない。
つまりは、普通に労ってくれている。
「たぬきち――」
感謝を伝えようとしたが、留まった。
(ほほう……やっぱり部屋の温泉を独り占めする気ね)
微笑むにしては、強めで。
笑うにしては、シワがいき過ぎている。
何より、第三の手と化した尻尾が嬉しそうにゆらゆら揺れている。
(もう騙されないよ!)
部屋に着くまでのやり取りを振り返って、俄然気合いが入って、
「でも、ご飯があるんじゃあ――」
たぬきちの思考を上回ろうと話題をすり替えた。
夕食、料理長のお任せという、提供に時間が掛かる普段は選ばないものを選んだ。
だから、誰よりも把握している。
(うん、時間も十七時半だし、お風呂に行くには時間がないよね)
沙也加は部屋の時計を確認して頷く。
けれど、その瞬間。
たぬきちの陽気な鳴き声が響いた。




