表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
二章 Patchy Parental Love : Overwriting
43/43

#40 速き猟豹


 目がついていけない程の攻撃に、ヒロは大きく吹き飛ばされる。


 腹を殴られたことで、気持ちの悪い感覚がこみ上げてくる。腹を抑え、よろけながらもどうにか金髪の男の方に向き直ると、


「…………まさかあんたから来るとは思わなかったよ、倉田ヒロ」


「誰だよお前」


 金髪の男は口元に笑みを浮かべると、


「俺の名は大放逐レオン・ヴァンフォーレ。イカれ盲信者共の内の一人だ」


「…………『王』とか何とかに心酔してる奴らか。それで、さっきの口振りだと僕を待ってたみたいに聞こえたんだが?」


 ヒロは少しずつ横歩きで、地面に臥す鳴海に近づいていく。


「そうとも。あんたの登場を心無しか期待してたわけだ。自分で確認したほうが早いからな」


「確認? 何の?」


 ヒロは鳴海のすぐ傍までどうにか歩み寄った。


 レオルはズボンのポケットに突っ込んでいた右手を、ヒロの方に掲げると、


「あんたの能力、さ」


 突然、金色の熱風がヒロを襲う。


 ヒロは咄嗟に、目の前の地面に蒼鉄製の壁を作り出す。蒼鉄の壁は、ヒロと鳴海目掛けて放たれた熱風を、微動すらせず阻み続ける。


「鳴海、おい大丈夫か!? しっかりしろ」


 ヒロは倒れ込む鳴海を少し強めに揺する。


「う、うぅ…………ひ、ヒーくん」


 苦悶の表情を浮かべつつも、鳴海はどうにか立ち上がる。


 かなりダメージを蓄積させているようで、動き一つ一つがよろけ気味だ。


「あれ? ヒーくんなんで此処に…………」


 乱れた呼吸を整えながら、鳴海はヒロに問う。


「いや、でっかい竜巻見えたから。心配になって」


 当然、自分の持ち場から離れたわけだから、職務放棄ではある。


 だが、そんな細かいことに拘って、幼馴染のピンチを見過ごせないと言うのも、また当然の心情である。


「まぁ、死んでなくてよかったよホント」


「…………わざわざ心配かけちゃってごめん、ホントに。二回目だね」


「普段家事して貰ってるからな。そのお返しだ」


「私がヒーくんにできることは家事程度のことだけど、ヒーくんは私の命を助けてくれた。全然、私のお返し足りてないよ」


「いつも僕を餓死から救ってくれてんだろ。十分過ぎるもん貰ってる」


「無茶苦茶な理屈だなぁホント」


「それにいっつも支えてくれてんだろ僕を。精神的な面で」


「支えられてなんかないよ。私のコレ(・・)が、ヒーくんをあれだけ傷つけた」


「…………別にもう怖かねぇよ。克服したし」


「手、震えてるよ」


「武者震いだよこんなの。気にすんな」


「顔色、少し悪くない?」


「腹パン喰らったからそりゃ、気持ち悪くもなるわ」


「…………私の手元から、さりげなく視線逸らしてるように見えるんだけど」


「…………意地張ってんの、わかってるだろ」


 鳴海が構えている鎖に、ヒロはどうしても見たくないイメージが想起されてしまう。


 大抵の″鎖″は見ても平気になったが、やはり自分を瀕死に追いやった鎖と同一のものともなれば、話は別だ。


 嫌でも、あの時の苦しみ、痛み、そしてあの声が思い出されてしまう。


 心傷はそう容易くは癒えない。


 夕凪のカウンセリングがあったとはいえ、完治に漕ぎ付けることは無理な話である。


 ヒロが極力平常心を保っていられるのは、意地だ。


 単なる意地。


 幼馴染にかっこ悪い所を見せたくないという、ただそれだけのこと。


 平静な顔をぎこちなく繕うヒロの顔を見て、鳴海はフフッと笑みを零す。


 凄まじい熱風の猛威は止み、灰の荒野は暫しの静けさを取り戻す。


 ヒロは蒼鉄の壁を消すと、レオルの方へ向き直る。


「聞いたとおり、かなり強固だな、あんたのそれ」


「言っとくが、お前の熱風くらいじゃ砕けないぞ」


「だろうね」


 レオルは特に驚く素振りなく返す。


 自分の能力が通じないと分かってなお、平然としていることに、ヒロが若干の焦りを覚える。


「能力が通用しないって分かってるなら、さっさと退いたほうがいいんじゃないか? お互いのためにも」


 ヒロとしては、レオルとの戦闘をどうにかして避けたかった。


 肌にひしひしと伝わるプレッシャーの凄まじさが、ヒロに危険信号を発しているのだ。


「…………何言ってんだ? 俺の熱風が通じないだけだろ?」


「だから、お前の能力が通じないってことで…………」


「そうだよ! ヒーくんの能力ならさっきの竜巻だって…………!」


「俺の能力は熱風を出すだけ。そう思うのはあんたらの勝手さ」


 レオルは地面に手を当ててクラウチングスタートの体勢になる。


 ヒロは、瞬時に突進が来ると判断し、レオルを阻むシールドをすぐに展開できるよう構える。


「だが、現実はそう甘くはない」


 目も眩むほどの光が、一瞬視界を覆った。


「…………ぐぅ!?」


 手で目を覆いながら、細めで正面を見やると、レオルのは姿は先程の場所から消えていた。


「しまっ…………」


 シールドを展開する間もなく、ヒロの懐に肉薄したレオル。


 レオルは両足に金色の熱気を纏っており、周辺が揺らいで見える。


「遅いな」


 目に止まらぬ速度で何発も蹴りが打ち込まれる。一撃一撃は軽いが、何発もの高速の連打に、ヒロは思わず両腕のガードが緩んでしまう。


「ヒーくん!」


 至近距離から、鎖でレオル目掛けて鳴海が放つも、レオルはそれを軽々と避け、そのまま姿を消した。


「うあああ!?」


 鳴海が大きく吹き飛ばされる。


 ヒロが後ろを振り返った瞬間、顔面に鈍い衝撃。


「うぐ……ぐぅ…………」


 鼻頭を抑えながら、後ろによろけてしまう。


 痛みを堪えながら目を開けば、目の前には平然と立っているレオルの姿があった。


「″猟豹疾駆フラッシング・チーター″ 字のごとく、敏捷力を高める能力だ」


 レオルはそう呟くや否や、強烈な光とともに姿を消した。


「足にエネルギーを集中することで、一時的に足の筋組織を極限まで強化する。同時に放たれる光のおかげで、相手からは姿が消えたように見える」


 声のした方へ振り返れば、ヒロの右真横には、レオルがいつの間にか立っていた。


「全然、私目が追いつけない…………」


「……僕もだ。速過ぎな」


 金色の光がまたも放たれる。


「勿論、この能力は無制限に発動できるわけじゃない。相応に体力は使うし、足が急速に熱くなる分、冷却(クーリン)時間(グタイム)を挟まなくてはいけない。無茶しすぎると制御効かなくなるからな」


 鳴海の背後に現れたレオンめがけて、ヒロは回し蹴りを放つ。


 回し蹴りが直撃する直前、レオルは小さく跳躍すると、低空から数発の小キックをヒロと鳴海目掛けて放つ。


「…………まず初見でこの能力に対抗するのが無茶って話だ。このスピードには、同じくスピード特化の能力でしか対処できねぇから、な」


 悠然と着地するレオルとは対照的に、ヒロと鳴海は不格好にも地面に倒れ込む。


 圧倒的な戦闘能力の差。


 先程までヒロが相手をしていた黒マント集団とは格が違うのだ。


「あの大群よか厄介って…………一騎当千って、こういうことかよ」


「あの黒マント達はアンノウン歴は浅い。能力もパッとしない…………一言で言って雑魚集団だからな。あんなのと俺とを比べられちゃ、困るぜ」


「…………ヒーくんどうする? このままじゃ手も足も出ないままだよ」


 鳴海の言葉に、ヒロは「うーむ」と呻るしかない。


 ヒロもかなりボロボロになっているが、鳴海のダメージはそれ以上だろう。


 レオルの攻撃が今の所打撃と熱風であるため、二人が着ている中学の緑ジャージの損傷は目も当てられないほどではない。少なからず、鳴海の露出が増えてはいない。


 だが、問題は肉体的ダメージの方である。


 たて続けに加えられた打撃が、ヒロ達の身体の至るところに激痛を残している。


「どうすっかな…………」


 ふと、彼方の戦場を見やる。


 遠目で薄っすらと、巨大な熊のシルエットが見える。


 時折激しい戦闘音が聞こえてくるので、きっと戦闘が再開されたのだろう。あの場では三人のアンノウンが、一人の少女を救うために戦っているはずだ。


「煌上も……煌上達も頑張ってんだよなぁ。アイツ偉そうだけど、やっぱイイやつなんだろうな多分」


 ヒロはふらつきながらも立ち上がると、


「僕は先輩だから、後輩よりも頑張んなきゃいけないんだよな。こんな所でへばってたら、後でどんな口叩かれるか分かったもんじゃねぇ」


「ヒーくん…………?」


「あの高慢な態度が無かったら可愛いのに、って今そんなことどーでもいいんだけど。とにかく、この窮地切り抜けなきゃいけないんだよな」


「このスピードに、どう対処する気だ?」


 レオルの言葉に、ヒロは眉を寄せると、


「あいにくとスピードはどうにもならん。だけど他はどうとでもなるさ」


 想起するは、幾度となく頭に描いた鎧。


 画面に映るその鎧の画と、僅かたりともズレがあれば、あの横暴な女は文句をたれるから、必死になって模索したものだ。


 ただその一つを作り続けた数日間。


 お陰で、もう何も見なくても、それらしい物なら作り上げられる。


 蒼鉄の扱いもさらにマシにはなった筈だ。


「例えば…………そうだな」


 両腕を蒼鉄が覆う。


 蒼鉄は徐々に形を変え、そして複雑なデザインの機械チックな篭手となる。


 右腕は巨大な槍と一体化し、左腕には巨大な盾が現れる。


 蒼鉄の覆う範囲が拡がっていく。両脚、腰、胴、そして頭部。


 機械的でありながら、どこか騎士然としたそのシルエット。装甲の蒼も相まって、どこか聖騎士のようだ。


「…………騎士にでもなったつもりか?」


「……あの人曰く、近未来世界のハイテク強化装備って設定らしいよ。どうでもいいけど」


 ガチャリと音を立てながら、ヒロはレオルに歩み寄る。重槍を構え、盾を掲げ、守りを固めながら歩いていく。


「その姿、むしろスピードが下がってるだろ。そんなんで、俺の俊敏さに対抗する気か。ただの格好の的だぞ」


 光が、一瞬き分だけ場を支配する。


 ヒロの懐に潜り込んだレオルは、そのままソバットを繰り出す。


「当たっても、ダメージ受けなきゃ問題ない……だろ」


 蹴りは腹に直撃した。たしかに直撃したのだ。


「…………!!」


 レオルは思わず顔をしかめる。


 ヒロは微動だにしていない。


 重く頑強な鎧は、完全にレオルの一撃を防いだのだ。


「夕凪さん命名″蒼の鉄(フォートレ)鋼騎兵(ス・ブルー)″。重さと頑丈さに極振った、超防御形態。速いだけの攻撃なら、全く受け付けない!」


 レオルはバックステップで距離を置くと、


「なるほどなぁ…………面白い。一泡吹かせてやるよ」


 レオルはニヤリと口を歪ませると、ヒロめがけて突進を敢行した。

読んでいただきありがとうございます!


…………すみません。とんでもなく日が空いてしまいました。受験勉強その他諸々の関係で、これからもこんな風に更新が遅れるかもしれません。


ですが、できる限り書きますので宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ