裏話・第7話
その夜は、『浦島太郎鉄道』を朝まで夜通しプレイしました。
百年モードは流石に厳しかったな、と思います。ふたりでコーヒーを飲みながら会話を楽しみ、一緒にゲームで遊ぶ。幸せな時間でした。
その間も『ファイファイ』と同じ体勢で、わたくしは彼女の香りを堪能しました。
「この、こずえさんがわたくしと同じ匂いをさせているというのはいいですね。わたくし色に染めている感じがします」
そう言うと、彼女は恥ずかしそうにうつむくのでした。彼女の赤く染まった耳を見て、わたくしはその耳を甘噛みしたいのを必死にこらえておりました。
やっと百年を終えたあと、わたくしは日本中の物件を買い占めて圧勝しておりました。
「スバルさんって弱点とかないんですか……?」
「おや、わたくしに興味ありますか?」
やっと彼女がわたくしを名前で呼んでくださったので、わたくしは悦に入っていました。
「そうですね……料理が苦手です。食材を黒焦げにしたり……家族からは『お前は家政婦かシェフを雇え。絶対に包丁を持つな』と言われております」
「そんなに……?」
わたくしの言葉に、こずえさんは信じられないという顔をしておりました。わたくしはなぜか、何でもできそうな完璧なイメージを持たれることが多いのです。
「今日は家政婦さん来てないみたいですけど」
「こずえさんが作ってくれたら嬉しいなー、と」
彼女が料理ができるのは調査済みでした。わたくしはあらゆる手段を使って彼女を調べ上げておりました。持つべきものは財力と権力です。
わたくしの家の食堂とキッチンは一階にありましたので、そちらに移動して、彼女に朝食を作っていただきました。
こずえさんの作ってくださったフレンチトーストは、シェフの作る料理よりも美味しく感じられました。
「ふわぁ……」とあくびする彼女に思わずくすっと笑みをこぼし、
「おねむですか? わたくしもそろそろ眠くなってきましたので、一旦休んでいってください」
ふたりでキッチンに並んで皿を片付けてから、彼女の手を引いて客間へ誘導しました。
「たまに家族が泊まっていく用の客間なんですが、よろしければお使いください」
――家族以外でわたくしの家に訪れたのは、こずえさんが初めてなんですよ。
そんな言葉を甘くささやいて笑うと、彼女はすでに夢心地のようでした。
こずえさんがベッドの中に入ったのを見計らって、
「おやすみなさい。またのちほど」
眠そうな彼女のまぶたに唇を落とし、わたくしは客間を出ました。
――なんとか手を出さずに済んだ。危なかった。
途中で何度か押し倒したい衝動を抑えていたわたくしは、ほっと息をつきました。
そして、自分も早く寝ようと、自室へ向かいました。
***
わたくしが仮眠から目覚めると、まだ昼前でした。三時間ほどでしょうか。しかし、意識はハッキリしていたので起きることにしました。
キッチンでコーヒーを淹れていると、こずえさんが降りてきました。
「あ、こずえさん。おはようございます」
「おはようございます……」
「まだ少し眠そうですね。――どうぞ」
わたくしはむにゃむにゃした彼女に愛おしさを感じつつ、コーヒーの入ったマグカップを手渡しました。
「砂糖とミルクは入れますか?」
「いえ、このままで大丈夫です」
ふうふうと息を吹きかけながらちびちびコーヒーを飲むこずえさんが、また可愛らしい。
起きたばかりでしたが、こずえさんはチャーハンを作ってくださいました。
チャーハンはあまり食べる機会がなかったのですが、こずえさんが作ってくれたものだと思うと何を食べても美味しい状態でした。
そのあとは我が家でゲームをしたり、アニメの話やプラモの話をしたり、ゆったりとした時間を過ごしました。
夕方にはこずえさんを家に帰さなければいけないのがとても名残惜しかったのを覚えています。
「お世話になりました」
こずえさんは礼儀正しくぺこりとお辞儀をしました。
「ええ、また明日、会社で。――こずえさん」
わたくしは運転席のドアを開けました。
こずえさんが何か言いかけましたが、唇をふさいでしまったので、何を言ったのかはわかりませんでした。
「――楽しい時間を過ごさせていただきました。それでは」
彼女にわたくしが未練を感じているのを察知させないように、わたくしはにっこり笑って車に乗り直し、走り去りました。後ろ髪を引かれるとは、まさしくこの気持ちでございましょう。
顔を真赤に染めたこずえさんの姿を脳裏に焼き付けながら、運転中わたくしは笑みがこらえられませんでした。




