第7話「柳裏葉の幼なじみは」
文化祭まで、あと三週間。
放課後の教室は、いつもより少しだけ長く人が残っていた。
「じゃあさ、役割分担どうする?」
照柿流星が黒板の前で腕を組む。
「メニュー班と装飾班と接客班?」
「あと衣装もいるよね」
真朱瑠衣がすぐに反応する。
「衣装大事じゃん!」
「反転喫茶なんだから、そこ手抜いたら終わりだよ?」
「たしかに」
教室の空気が一気に現実的になる。
⸻
「衣装どうするの?」
ふわっとした声で聞いたのは、二藍すみれだった。
柳裏葉は、少しだけ考えてから答える。
「んー……」
「幼なじみに手伝ってもらおうかなって思ってる」
一瞬。
空気が、止まった。
⸻
「……は?」
真朱瑠衣がゆっくり振り向く。
「幼なじみ?」
花葉玲奈も静かに繰り返す。
「男?」
黒板に向かっていた照柿流星が食いつく。
「どんなやつ!?」
一気に詰め寄られる。
「ちょ、ちょっと待って!」
柳裏葉は一歩引いた。
「そんな大した人じゃないよ!?」
「いやいやいや!!」
真朱瑠衣が即ツッコミ。
「“幼なじみ”って時点で大した存在だから!」
「写真ある?」
照柿流星が身を乗り出す。
「見せろ見せろ」
「ええ〜……」
柳裏葉は、少しだけ迷った。
でも。
(まあ、いいか……)
スマホを取り出す。
「一枚だけね」
画面を開いて、差し出した。
⸻
――次の瞬間。
「え???????」
教室がざわついた。
「ちょっと待って、イケメンじゃん」
「いや普通にやばくない?」
「これモデル?」
「芸能人?」
「どっち!?」
「髪が紫のほう」
真朱瑠衣と照柿流星が大騒ぎ。
花葉玲奈も紅鳶昴も珍しく目を丸くしている。
「……確かに、整ってる」
「そうかな……?」
二藍すみれが小さく頷く。
柳裏葉は、なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「だから大したことないって!」
「いやいやいや!!」
真朱瑠衣が食い気味に否定する。
「こんな幼なじみいたら人生変わるわ!」
「しかもイケメン二人!」
「どんな関係?」
「今も仲いいの?」
「彼女いるの?」
「いつから知り合い?」
「てか付き合ってんでしょ?」
質問が、一気に飛んでくる。
⸻
「ちょっと待ってってば!」
柳裏葉は、完全に押されていた。
「そんな一気に聞かれても!」
「気になるでしょ普通!」
「これは聞くしかない」
「文化祭より重要案件」
「それは違う!」
思わずツッコむ。
でも、止まらない。
⸻
質問は、どんどん加速する。
柳裏葉は、だんだん面倒になってきた。
「……もう!」
パン、と手を叩く。
全員が一瞬止まる。
「はい!この話おしまい!」
「えー!?」
「だめ!終了!」
強引に区切る。
「文化祭の話に戻るよ!」
ぴしゃっと言い切ると、
さすがにみんなも苦笑した。
「はいはい」
「逃げられた」
「あとで聞くからね」
「聞かないで!」
⸻
なんとか話題は戻ったけれど。
柳裏葉の胸の中には、少しだけ違和感が残っていた。
(……なんか、騒がれすぎじゃない?)
ただの幼なじみなのに。
でも――
それを、誰かにどう説明すればいいのか、
うまく言葉にできなかった。
⸻
その日の帰り道。
空は、少しだけ秋の色になっていた。
文化祭の準備も、修学旅行も。
楽しいことが、これからたくさん待っている。
――そのはずなのに。
なぜか。
ほんの少しだけ、
胸の奥がざわついていた。
その理由を、柳裏葉はまだ知らない。




