第6話「甘い会議」
9月も終わりに近づいたある日の放課後。
2年9組の教室は、いつもより少しだけ騒がしかった。
「文化祭の出し物は──────────」
黒板の前で、照柿流星がチョークを持つ。
「反転喫茶!」
教室が一瞬静まり、次の瞬間。
「え!?!?!?!?」
爆発した。
「反転ってなに!?」
「つまり、」
隣に立つ真朱瑠衣が、ニヤッと笑う。
「男子がメイドで女子が執事!」
教室がもう一度爆発した。
「無理無理無理!!」
「昴メイドじゃん!!」
「見たい!!」
「見たくない!!」
紅鳶昴は机に突っ伏した。
「終わった……」
照柿流星が爆笑する。
「似合いそうだぞ昴」
「うるさい!」
⸻
一方。
柳裏葉たち女子は、意外と乗り気だった。
「執事か〜」
真朱瑠衣が腕を組む。
「普通にかっこよくない?」
「確かに」
花葉玲奈が落ち着いた声で言う。
「燕尾服とか着るんでしょ?」
「絶対似合うじゃん玲奈」
柳裏葉が笑う。
「いやいや」
花葉玲奈は少し照れた。
隣では、二藍すみれがふわっと微笑む。
「裏葉も似合いそう」
「え?」
「執事」
「いやいや無理!」
柳裏葉は慌てて手を振った。
⸻
「はいはい、静かに!」
照柿流星が黒板を叩く。
「今日はまずメニュー決めな!」
真朱瑠衣が黒板に候補を書いていく。
チョークの音が軽やかに響く。
【メニュー候補】
・パンケーキ
・ワッフル
・オムライス
・スクランブルエッグ
・プリンアラモード
・クリームソーダ
・アイスコーヒー
・オレンジジュース
・アイスティー
「甘いの多くない?」
誰かが言う。
「喫茶店だからね!」
真朱瑠衣が笑う。
⸻
「オムライスは欲しい!」
「わかる!」
「絶対売れる」
教室のあちこちから声が上がる。
照柿流星が黒板に丸をつけた。
「オムライス有力!」
「パンケーキも!」
「プリンアラモード!」
どんどん意見が飛ぶ。
文化祭の準備って、どうしてこんなに楽しいんだろう。
柳裏葉は、そんなことを思いながら手を挙げた。
「はい」
照柿流星が指す。
「クリームソーダ、いいと思う」
「おお〜」
真朱瑠衣が頷く。
「映えるね」
「文化祭っぽい」
二藍すみれも言う。
「色きれいだし」
照柿流星は黒板に丸をつけた。
「クリームソーダ有力!」
⸻
そのとき。
後ろの方から声が上がる。
「男子メイドなら」
紅鳶昴だった。
「パンケーキ運ぶのが一番絵面面白くない?」
教室が笑う。
「それだ!」
「見たい!」
「昴メイド確定!」
「だからやめろ!」
⸻
そんなやり取りを聞きながら、柳裏葉はふと窓の外を見た。
夕方の光。
少しだけ秋の色。
文化祭まで、あと三週間。
クラスで準備して。
みんなで笑って。
きっと、楽しい日になる。
そんな気がしていた。
そのときはまだ。
この文化祭が、
誰かの気持ちを大きく動かすことになるなんて、
想像もしていなかった。




