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その後SS『王弟殿下を秘密裏に抹殺大作戦』④

ラブ要素薄めでしたが、最後にオリヴィア愛されエピをぶっこめました!

 

 真っ直ぐなユーフェミアの言葉に響くものがあったのか、花壇に隠れるオリヴィアたちの目の前で、隣国の王弟アクセルがぽつぽつと語り始めた。


 幼い頃から、周囲に次期国王にと望まれ、そうなるような教養や振る舞いを強要されていたこと。そのせいで他の異母兄弟との交流が制限されていたこと。

 そしてアクセル自身は兄弟たちを大切に思っており、王位を望んだことは一度もなかったことを、どこか諦観するような口調でユーフェミアに話していく。



「ご存じの通り、我が国の王は女性です。過去に女性が王位に就いたことがありませんでしたから、立太子する前もされてからもかなりの反発がありました。私を立太子させようとする勢力はどんどん拡がり、このままでは内政の混乱にまで発展しかねない。だから私は、愚か者になることにしたのです」


「アクセル様が数々の浮名を流されていたというのは、そういうことだったのですね」


「元々女性には最大限の敬意を払うほうでしたから、そう難しいことではありませんでしたよ。それも姉上……国王陛下がいらっしゃったからこそですが。陛下は私が幼い頃、人目を盗んでこっそり会いにきてくれていました。明るくたくましく、愛情溢れる異母姉が、私はとても好きだったのです。姉は私に、女性を大切にするよう繰り返し説きました。だから私は母はもちろん、侍女、メイド、出入りの商人、貴族のご婦人たちと、会う人会う人に声をかけ、容姿や性格、善行を褒め、何もなくても称え、愛を持って接しました。愚か者になると決めてからは、それをもう少し大げさにし、徹底しました。そうですね、見境がない、と言われるくらいには。逆に言うとそれだけだったのですが……」



 すべての女性を女神のように丁重に扱うだけで、女性たちを傷つけたり、道徳に背くようなことをしたことはないし、不誠実な行いもしたことはない。信じてもらえないかもしれないが、姉を確実に王位につける為に子を作ることだけは絶対に避けねばならなかったから、そういう関係にはならないよう細心の注意を払ってきたという。


(待って……ということは、遊び人と言われる王弟殿下はどうて――ンンッ)


 オリヴィアは信じられない気持ちでアクセルを見たが、ユーフェミアは納得したように微笑んだ。



「話してくださってありがとうございます。こうして実際にお会いしてすぐ、アクセル様は誠実な方だと確信していたので、事情を知って腑に落ちました」

「信じていただけるのですか……?」

「はい、もちろん。ようやく噂で聞くアクセル様と、目の前のアクセル様が一致したように思います」



 どこか嬉しそうにユーフェミアが言ったとき、背後から突然「ぐすっ」とすすり泣くような声が聞こえてオリヴィアたちが振り返ると、そこには静かに涙を流す、幼さの残る青年がいた。



「え……ヒュー様!? いつからそこに⁉」

「はぁ、申し訳ありません。まさかアクセル殿下を信じてくださる女性が現れるとは、思っておりませんでしたので……ぐすっ」



 あまりにもぽろぽろと涙をこぼすので、オリヴィアは見ていられなくなりそっとハンカチを差し出した。

 アクセルよりも随分若いのに、まるで過保護な親のような従者だ。

 そうしている間にも、ガゼボのふたりの会話は進んでいく。



「……きっとお姉様……国王陛下は心配されていたことでしょうね。私も一応姉ですから、陛下のお気持ちを考えると胸が張り裂けそうです」



 まさか姉視点で語られるとは思わなかったのか、アクセルは一瞬たじろいだようになり、それから決まり悪そうに目を逸らした。



「そうですね……陛下にはずっと、余計な気を回すなと言われていました。自分のために生きなさい、と」

「やっぱり。陛下のお気持ち、私にはわかります。私も、病に伏す私の看病ばかりするユージーンに申し訳なくて、もっと自分の幸せを優先してほしいと思っておりましたもの。姉というものは、弟が可愛くて仕方ないのです。大切にしたくて仕方ないのですよ」



 本当に愛おしそうに語るユーフェミアにオリヴィアが涙ぐみかけたとき、再び背後から「ぐすっ」と声が聞こえてきた。

 まだヒューは泣いているのか、と振り返りギョッとした。

 そこにいたのは幼げな青年ではなく、眼鏡を外し涙をぬぐうシスコンだった。今度はお前か。



「ユ、ユージーン卿、いつの間に……? って、え⁉ ヴィンセント卿まで泣いてる⁉」



 感動の涙を流す男たちに囲まれ、何だこの状況……とオリヴィアは気が遠くなった。

 ここにはいないノアが恋しくなる。いますぐ王宮に帰りたい。切実に。

 何だかなぁ、とシスコンたちは放っておくことにし、ユーフェミアたちに向き直ると、今度はアクセルが「私はユージーン殿の気持ちが痛いほどわかりますよ」と張り合うように返しているところだった。



「自分を蔑ろにしているつもりはないのです。ただ、自分のこと以上に姉上を大切にしたいから、結局そう思われてしまうだけで……」

「弟を大切にし、幸せを願うのは姉の役目です」

「それは弟も同じです」



 ふたりはそう言ってしばし睨み合ったあと、やがてたまらないとばかりに吹き出した。

 その姿はとても自然で、仲睦まじく、不思議と長年連れ添った夫婦のようにしっくり見えた。



「私たち、何だかとても気が合いそうではありませんか?」

「奇遇ですね。私もそう思っておりました。それに、お互いの家族とも上手くやれそうな気がします」

「ええ。それが一番大切ですね」

「本当に、一番」



 ふたりの素直で可愛らしいやり取りに、オリヴィアはとても良いものを見た気持ちになって心が温かくなったのだが、突然シスコン筆頭、ユージーンが勢いよく立ち上がり花壇の陰から飛び出した。



「姉上!」

「まぁ。ユージーン? どうしてそんなところから……あら? オリヴィア様たちまで」

「ヒューも一緒じゃないか」

「も、申し訳ありません。お邪魔しております」



 見つかってしまっては仕方ない。オリヴィアたちも花壇の陰から出て、挨拶をする。

 盗み見ていたのがバレてしまい大変気まずいが、それはオリヴィアだけのようで、シスコンふたりや過保護な青年は涙を隠すことなく堂々としていた。



「姉上。ベルンに行かれるのですか」

「ユージーン……。私の結婚、祝ってくれるかしら?」

「もう、決めてしまったのですね……」



 私を置いて、行ってしまうのですね。

 そんな、まるで駄々をこねる子どものように俯いたユージーンに、ユーフェミアは微笑んだ。それは姉というより、慈愛に満ちた母親のような柔らかな表情だった。



「そうね。私は先に幸せになるから、あなたたちも……と言いたいところだけど」



 そこでユーフェミアは、なぜかオリヴィアを見て困ったように眉を下げた。

 なぜそんな顔をされるのかわからないオリヴィアは、ただただ首をかしげるしかない。



「私の可愛い弟たちが、このままだと誰とも結婚できなそうなのが心残りだわ」



 困ったわね、と頬に手を当てたユーフェミアに、ユージーンとヴィンセントがどういうわけか同時にオリヴィアを振り向いた。

 ふたりの視線を浴びてたじろいだオリヴィアだが、異母兄弟のふたりは無言で目を合わせてうなずき合う。



「……問題ありません。心を捧げたい相手はもう見つけましたから」

「すでに幸せは手に入れています」

「そう……そうなのね。幸せの形はひとつではないものね。ちょっぴり残念だけど……」

「ユーフェミア。人生は長いですから。まだふたりの未来は決まっていませんよ。とりあえずいまが幸せであるなら、それは喜ばしいことではありませんか」



 アクセルがユーフェミアの肩を抱くと「その通りですね」とユーフェミアは笑った。

 早くもイチャイチャし始めたふたりにユージーンは顔が引きつっていたが、仲を引き裂こうとはせず怒りを押しこめようと努力しているようだ。



「ええと……どういうこと?」



 何やら皆わかったように会話を進めているが、ひとり理解できず置いてけぼりのオリヴィア。

 首をひねっていると、ヒューにポンと肩を叩かれた。同情よりも説明がほしい。



「いいんですよ、オリヴィア様はわからなくて」



 ユージーンの言葉に、ヴィンセントも珍しく微笑みながらこくりとうなずく。

 両側からふたりに手を取られ、長身の男たちに挟まれながらオリヴィアは頭に疑問符を浮かべるばかりだ。



「まぁ、私たちが夫婦になってどこに住むかも、まだ決まってはいませんから」

「あら? 私はすっかりベルンに行くつもりでしたが、決まっていないのですか?」

「可愛い義弟殿が、貴女の体調を案じていましたからね。イグバーンに住めないか交渉しようかと」

「……まだあなたの義弟になったわけではありませんが」



 不機嫌そうにそう文句を言うユージーンに、オリヴィアはつい笑ってしまい、つられたようにユーフェミアも笑い、気づけば全員が穏やかな笑顔になっていた。



 そんな笑顔の輪に入れなかったノアが、使節団滞在中ずっとアクセルを警戒するあまり、オリヴィアを監禁しようとしてひと騒動あったのは、また別の話……。





 fin.

新連載『あなたの代筆はもういたしません』をスタートしました! そちらもお楽しみいただけると嬉しいです!

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