表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
聖都編
79/492

第七十五話 属性ならなんでもぶっこみゃいいってものじゃないだろ。


 

 「それ……どういうことよ…?」

 突然現れ、勇者を自称するその人物に、アルセリアは自分の感情を整理出来ないでいるようだ。いつもの勢いが感じられない。


 「言葉どおりの意味ですよ、聖央教会の勇者殿。今後も仲良くしていただけると助かります」

 対するその人物は、余裕を感じさせる笑みで一礼。


 ベアトリクスも、ヒルダも、どう反応すればいいのか判断出来かねているようだ。



 ……だが。


 そんなことは、どうでもいい。


 いや、どうでもいいことはないが、それよりももっと、ずっと、遥かに重要なことがある。


 ……どうしても、気になって仕方ないことが。

 ……どうしても、黙殺出来ないことが。



 「それよりさ。…アンタ、その恰好は一体…?」

 出来るだけ冷静さを失わないように自制しながら、俺は尋ねる。


 その、自分を勇者と名乗った、ゴスロリファッションのエプロンドレスに身を包んだ、うら若き男に。


 「…おかしいですか?性別で衣服を限定してしまうなんて、随分と狭量な価値観の持ち主なんですね」

 「そういうことじゃない」


 相手の言葉を遮るように否定する俺。


 そう、別に、誰がどんな服を着ようがその人の自由だ。男がスカートをはいたって、それがコテコテのゴスロリデザインだったとして、相手が男のだったとして、そんなことはどうでもいいのだ。


 男の、結構。


 だが…………


 「地味モブ顔----------!!!」


 

 「は…っ?え……??」


 俺の叫びに度肝を抜かれたか、ゴスロリ勇者は一歩後ずさった。

 俺は、何も分かっていないそいつに、容赦なくたたみかける。


 「なんで!男ので、そこで地味モブ顔!?」

 顔の造形とかいうことじゃない。だが、女装するなら女装するで、


 「もっとさぁ、化粧とかさぁ、きちんと盛るべきだろーが!!!」



 「え?え?あの、何言って…」

 「お前だけじゃない!!」


 さらに俺は、ゴスロリ勇者(男の)の脇に控える同行者の一人を、びし!と指差した。


 「な…なんだよ」

 そいつも、自分に矛先が来るとは思っていなかったのか、俺の勢いにたじろいでいる。


 それは、格闘家のようだった。

 細身だが、引き締まった体躯。しなやかで、俊敏そうな四肢。お尻あたりからは、ビロードを思わせる滑らかな手触り(と、思われる)の尻尾がゆらゆらと。

 そして頭には、ぴょこぴょこと動く、一対の猫耳が。


 そう、そいつは獣人。

 そいつは猫耳の……


 「おとこーーーーーーーーーー!!」


 なんて憂慮すべき事態。


 「だから、なんなんだよテメーは!男で悪いか!」

 いきなり性別にダメ出しをくらった形になった獣人は、憤慨して俺に突っかかる。


 が、こっちにだって言いたいことはある。


 「悪いよ!なんで、男なんだよ!猫耳っつったら、女の子だろ!?男ならトラとかライオンとか、ネコ科肉食獣でも色々あるじゃん!なんでよりにもよって、猫耳で、男なんだよぉ!」

 


 ……心なしか、アルセリアたちが俺から少し距離を取ったような気が……



 「ちょっと貴方!いい加減になさい。さっきから黙って聞いていれば、随分好き勝手なことばかり」

 ゴスロリ勇者のもう一人の同行人、エルフの弓使いが割って入った。

 

 やけに自信に満ち溢れた表情だ。きっと、自分は仲間のように非難を受ける要素など持っていないとでも思っているのだろう。


 だけどな。お前にも、言いたいことがある。



 確かに、そのエルフは美人だった。月光色の髪。エメラルドグリーンの瞳。当然、エルフの特徴である長い耳。すこし勝気そうな、人形のように整った顔立ち。白磁の肌。


 そう、確かに、それだけであったのなら、彼女は完璧だった。

 ただ一つ……たった一つを除いて。


 

 「眼鏡ぇええええええ!!!」


 俺、渾身の叫び。



 「なんで!ここまで来て、ここまで完璧で、眼鏡なんだよぉおお!」

 「な、何よ、人の眼鏡にケチつけるおつもり!?」


 「しかも、黒縁!それは、黒髪おさげの最強装備ファイナルウェポンと相場が決まってるだろぉ!」

 よりにもよって、金髪エルフが黒縁眼鏡って!!


 「せめて!せめて銀縁であったなら……!」


 「ちょっと、もう…なんなんですの、この方?」

 どうにかしてくれ、という感じにアルセリアたちに助けを求めるエルフ。


 

 だが、アルセリアたちならきっと分かってくれる。

 この俺の、やるせなさを。もどかしさを。行き場のない、魂の叫びを。



 「リュート…」

 「リュートさん…」

 「おにいちゃん…」


 うんうん、そうだろう。それでこそ“神託の勇者”……


 「アンタきもいから黙っててくんない?」

 「うざいのですっこんでいていただけますか?」

 「……………へんたい……」



 

 ………………ひどい!!



 「悪いわね。この馬鹿は放っといて、ちょっと聞きたいんだけど」

 

 ……俺、放っとかれた。


 「ええと……いいんですか、彼」

 「いいのよ。もともとワケわかんないとこあったけど、どうも想像以上に変態だったみたいね」


 ……ひどすぎる。



 迸る想いを吐露しただけなのに。

 俺だけを除け者にして、ポンコツ勇者組と地味ゴスロリ勇者組とで静かな戦いが始まった。


今日は年休なので早い時間帯の更新です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ