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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
魔王崇拝者編
64/492

第六十話半 幕間 先輩と勇者


 修練場に、剣戟の音が響き渡る。


 「ほれほれ、どうしたどうした?そんなんで魔王を斃せると思ってんのか!」


 茶化すように勇者を挑発する茶髪の男と、


 「っく…まだまだ!」


 体勢を崩しながらも、果敢に反撃する勇者。


 


 リュートが魔王崇拝者たちの巣窟へ潜入して一週間が過ぎた。教会の連絡係を通して短い報告は時折届くが、その間ずっとリュートと会っていない。


 捜査も停滞しているようで、アルセリアたちには出来ることがない。

 やることがない。


 すなわち、暇である。


 そこで、師である“七翼の騎士セッテアーレ”筆頭、ラディウス=エルダーに、稽古をつけてもらっているという次第だ。



 しかし。


 「…ちょ、師父……ちょっと待って…ちょっと、休憩………」

 息も絶え絶えに喘ぎながら、アルセリアがへばった。


 「なんだ?もうグロッキーか。我が弟子ながら情けないなー」

 「丸…一日、ぶっ通しで、戦える…師父の基準で、測らないで…ください…」

 「お前もなー、瞬発力だけは一人前なんだけどなぁ。スタミナが足りないぞ。肉食ってるか、肉?」


 アルセリアも剣士として尋常ではない体力の持ち主ではあるが、ラディウスはそれを軽く超えている。彼の武勇伝として、異教徒殲滅の際に敵地真っただ中で孤立してしまい、援軍が来るまで一昼夜敵を屠り続けた…というものがある。

 ちなみに、援軍が到着した頃には、敵はほぼ全滅状態だったらしい。


 そんな化け物と一緒にされては、流石の勇者も形無しだ。


 

 

 「そういやさ、一つ聞きたいんだけどよ」

 休憩中に、ラディウスが切り出した。

 「お前らさ…あいつの、リュートのどこが良かったんだ?」

 何気ないその一言に、

 「っえ!?な、何…って?え?師父いきなり何を言い出して…」

 過剰反応を見せたのは、アルセリア。

 ラディウスは、そんな彼女に

 「いや、今までの補佐役と、何が違うのかと思ってな。別に、他意はないんだけど」

 と、他意がありまくりの表情でにやにやしながら言った。

 

 

 「いや、あいつはいい奴だと思うよ?面倒見がいいし、年の割に慎重で冷静だし、視野も広い。気配りも出来て、思いやりもある。正義感も強そうだよな。ちょっと人が良すぎるところがあるけど」


 ……どれも、魔王への誉め言葉ではない。


 「けどさ、他の連中にもそういう奴らはいたじゃねぇか。アレックスは世話好きだったし、クリスは優しい奴だし。けど、そいつらはダメで、リュートはいいのはなんでだ?」

 「な…なんでと言われても……」

 「他の奴らと、リュートには何か違いでもあったのか?」


 …違いならある。ありすぎる。だが、それを師に話すわけにはいかない。


 「えっと……いえ…特には……」

 「ビビ、ヒルダ、お前らはどうよ?」

 ラディウスは、他の二人にも問いかける。だが、二人の答えは簡潔で、

 「そうですね…リュートさんは、とてもからかい甲斐がありますの。付き合いもいいですしね」

 「…………お兄ちゃん、ご飯美味しい」

 分かりきったものだった。


 「って猊下ボスからも聞いたんだけど、何、あいつそんなに料理上手いの?」

 「ええ、それはもう。一度食べたら病みつきです。ただ、その分…今が辛いですわ」


 そんな遣り取りの間、アルセリアはずっと自分に問いかけていた。


 リュートは、他の人たちと何が違うのか。

 何故自分は、彼が自分たちに干渉することを拒絶しないのか。


 「あ、そうか」

 急にラディウスが、手をぽん、と打ち鳴らして言った。


 「顔だろ、顔。あいつ黙ってりゃすげーイケメンだもんな」

 「ななななな、何を言ってるんですか師父!そんなふしだらな理由で、補佐役を決めたりなんかしません!!」

 そういう理由もなくもない…と自覚していたアルセリアは、思い切り否定する。

 「別に、私はアイツの外見がどうとかは関係なくて」

 「関係なくて?」

 「か…関係…なくて…………」


 ラディウスは、完全にアルセリアの反応で楽しんでいる。ベアトリクスはそれに気付いていたが、面白そうなので黙って見ていた。


 「………まあ、そうだよな。お前らもお年頃だもんな」

 「だから!違いますって!!」


 

 

 今までも師にいろいろ弄られていたアルセリアに、またもう一つ弄られる材料が増えたな、とベアトリクスは思ったが、やはり面白そうなので黙って見ていることにした。


リュート氏は、対外的にはイケメンなんですけどね。アルセリアたちといると、途端にヘタレます。

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