第六章:アスラートの森
ダリウスと共に家を出たのは、太陽がようやく高く昇り始めた頃だった。
しばらく歩くと、彼は突然立ち止まり、私の背中に背負われた巨大な荷物を振り返った。
「それを下ろせ。」
私は一瞬迷ったが、素直に従った。
巨大な荷物は地面に落ち、重い音を立てた。
ダリウスは何も言わずにしゃがみ込み、留め具を外し、あたりまえのように中を漁り始めた。
私は黙ってそれを見ていた。何をするつもりなのか、わからなかった。
やがて彼は小さな袋を取り出した。開けてみると、中から金の指輪、銀の腕輪、いくつかの宝石がきらめいた。
母さんが、私に気づかれないようにこっそり入れておいたものだ。
外で困らないようにと、家の中でも特に貴重なものを選んで詰めてくれたに違いない。
ダリウスは宝石の山を見て、それから私を見た。にやりと笑う。
「いいもん持ってんじゃねえか。もらっとくぜ。」
私の返事を待たず、彼はそれを全部自分のポケットにねじ込んだ。
それから立ち上がり、大きく伸びをして、思い切りよく荷物を蹴り飛ばした。
巨大なバッグはボールのように空高く舞い上がり、弧を描き、数十メートル先の草むらに落下した。
ぐしゃりと潰れて、道端に転がっている。
私はその場に立ち尽くした。
頭の中は、ただ一つの思いでいっぱいだった。
――このクソ野郎。私の荷物を盗みやがった上に、蹴り飛ばしやがった。
もしお前が強くなかったら、とっくに殴り倒してるぞ。
だが、口には出さなかった。私は黙って、草むらに転がる自分の荷物を見つめていた。
母さんがあれだけ時間をかけて選び、詰め込んだもの。涙を流しながら、ひとつひとつ準備してくれたもの。
それが今、ゴミのように転がっている。
ダリウスは私の方を向き、笑った。
「気にすんな、ガキ。あんなもん持ってても重いだけだ。俺を見ろ。行く先々で金を作る。ほら、もう大儲けしたぜ。今夜はいい店で飯でも食おうや。」
彼はさっき私の荷物から奪った宝石をちらつかせた。
私は彼を見た。宝石を見た。それからもう一度、彼を見た。
――くそ。本当に腹が立つ。
私は唇を噛みしめ、黙って歩き出した。
町の中心に近づくほど、景色は変わっていった。
見慣れた木造の家々は消え、代わりに灰色の巨大な石造りの建物が立ち並ぶようになった。
通りは広く、人で溢れていた。笑い声、馬車の車輪の音、商人の呼び込み。
どこもかしこも賑やかで、私は目を回しそうだった。
家からここまで遠くに来たことは、まだ一度もなかった。
すべてが新しかった。すべてが私の目を引いた。
そしてダリウス――あのだらしなくて、見るからに気難しそうな男――は、実はとても陽気で、よく喋る男だった。
どこを歩いていても、彼は絶えず私に何かを教えてくれた。
建物のこと。通りのこと。すれ違う人々のこと。私たちが通る小さな角の、その歴史まで。
彼は本当によく喋った。おかげで、私は退屈する暇すらなかった。
不意に、彼が私に訊いた。
「なあ、ガキ。お前、どんな人生を生きたい?」
私は面食らった。あまりにも突然の質問だった。
考えたこともなかった。私がこの世界に来て、まだ数週間しか経っていない。
自分が誰で、どこにいて、これから何をすべきなのか、まだ必死に探っている最中だ。
そんな時に、見知らぬ男から「どんな人生を生きたい」と聞かれても、答えられるはずがなかった。
私が黙っていると、ダリウスは私が理解できていないと思ったのか、さらに続けた。
「ほら、王様になりたいとか、領主になりたいとか。英雄でもいい。すげえ魔術師でも、大商人でも、剣王でも。なんかあんだろ?」
私はやはり黙っていた。わからなかった。
「……わからない。」私は正直に言った。
ダリウスは笑った。
「じゃあ、俺が何になりたいか当ててみろ!」
私が考え始めようとすると、彼はすぐに自分で答えた。
「俺は、世界中を冒険したいんだ! いろんなことを学んで、変わった文明を探検して、まだ誰も足を踏み入れたことのない場所に行くんだ!」
私は無言で彼を見つめた。
――自分で聞いて、自分で答えやがった。この人、本当に変だな。
会ったばかりなのにやたら喋るし、やたら懐いてくるし。
でも、口には出せなかった。さっき荷物を蹴り飛ばした男だ。これ以上、何かを蹴られるのは御免だった。
ダリウスは私の表情に気づく気配もなく、続けた。
「お前の親父が俺にお前を預けたんだ。だから、これからはお前も俺の夢の一部に付き合ってもらうぜ。」
私は心の中でため息をついた。
――終わった。この人から何かを学ぶだけじゃなく、この人の夢にまで付き合わされるのか。
私たちは、人でごった返す市場を通り抜けた。
そこには奇妙なものが並んでいた。空飛ぶ絨毯――アラジンの物語みたいだ。魔法の杖。鎧。いろんな魔法道具が、太陽の光を受けてきらきらと輝いていた。
売り手と買い手の声が飛び交い、値切る声が絶えない。
だが、私は特に心を動かされなかった。
そんなもの、物語の中で全部読んだことがある。空飛ぶ絨毯は千夜一夜物語にあった。魔法の杖はハリーポッター。鎧に杖は、ゲームの中にいくらでも出てくる。
どれも、本当に私の好奇心を引くものではなかった。
いや、むしろ、私はぼんやりと考えていた。
――もしかして、漫画を描いている作家たちは、多元宇宙を旅してきたんじゃないか?
その仮説、結構いい線いってるかもしれない。
ダリウスは私の気のない様子に気づいたらしい。ちらりと私を見て、眉を上げた。
「つまんないか?」
「そうでもないです。」私は答えた。「ただ、目新しいものが何もないだけです。」
ダリウスは大声で笑った。
「このガキ! 記憶失くしたくせに、何でも知ってる風じゃねえか!」
私は黙っていた。知っているのは、私がアルベールだからじゃない。田中宏だからだ。
私たちはとても長い道を歩いた。もうすぐ町を出ようとしていた。
体中が汗でびっしょりだった。足は棒のようで、息も上がっている。
なのに、ダリウス――あの筋肉だらけの男――は、汗ひとつかいていなかった。
公園でも散歩しているかのように平然と歩き、時々思い出したように何か話しかけてくる。
ようやく陽が完全に落ちた頃、彼は小さな宿の前で立ち止まった。
「ここにしよう。一晩泊まるぞ。」
部屋を借りた。二人で一部屋だった。
部屋に入るなり、彼は言った。
「今日から俺のことを『師匠』と呼べ。俺はお前に教えるんだからな。」
私は頷いた。それはまあ、当然だ。
だが、彼は続けた。
「服を脱げ。」
私は固まった。
「服を、脱ぐんですか?」私は疑いのまなざしで聞き返した。
「ああ。早くしろ。」
私は彼を見た。彼も私を見た。気まずい沈黙が流れた。
――やばい。こいつ、もしかしてそっちの趣味があるんじゃないか?
怖い。こんな筋肉質の男は、いろんな意味で怖い。
体はまだ汗まみれで、くたくたに疲れているのに、こんな状況に追い込まれるなんて。
ダリウスが私に近づいてくる。心臓がばくばくと鳴った。
頭の中で必死にプランを立てた。一発蹴る。首を絞める。どうか成功しますように。
そして、彼が私の肩に手を置いた。
次の瞬間、彼の手から何かとてつもなく強い気が放たれた。
それは濁流のように私の体に流れ込み、痩せ細った体はひとたまりもなく、膝から崩れ落ちた。
頭がぐらぐらと揺れ、足の力が抜け、そして意識は暗闇に沈んでいった。
私は気を失った。
目を覚ました時、景色は一変していた。
私は誰かの背中にいた。温かくて、しっかりとした背中だった。
周りは鬱蒼とした森――巨大な木々が天を突き、厚い葉が光をほとんど遮っている。
人の気配は、どこにもなかった。
ダリウスが私を背負い、獣道を平然と歩いていた。
「私たち……もう町を出たんですか、師匠。」私はかすれた声で尋ねた。
「ああ。ここはアスラートの森だ。今は北の端を歩いてる。」
私ははっとした。アスラートの森。『世界史』の地図で見た名前だ。
町からはとてつもなく遠いはず。私の実家からここまで、少なくとも二百キロはある。
なのに昨日一日で移動できたのは、せいぜい八十キロくらいだ。それなのに、もうこんな場所にいる。
「師匠は……夜の間、ずっと私を背負って歩いたんですか?」私は驚きを隠せずに聞いた。
ダリウスは肩をすくめた。
「寝たよ。起きたのは二時間くらい前だ。」
「じゃあ、どうしてそんなに遠くまで?」
ダリウスはすぐには答えなかった。立ち止まり、ゆっくりと私を地面に下ろした。
それから私の方を向き、今まで見せたことのない真剣な表情で言った。
「後ろを見てみろ。」
私は振り返った。そして、息を呑んだ。
私たちが歩いてきた道の跡地が、あからさまに枯れていた。
青々としていた草や木の葉が、黄色く変色し、灰色に萎れている。
野花は力なくうなだれ、小さな枝のいくつかは内側から焼けたように黒く乾いていた。
「昔、お前が毒を盛られたことは知っていた。」ダリウスの声が低くなる。「そのせいで五年間も植物状態になった。そして今、目を覚ましたのに、かつての天才魔法使いは、ほんの小さな魔法ひとつ使えなくなっている。俺は最初から、それを怪しんでいたんだ。」
彼は私の目をまっすぐに見た。
「だから昨日の夜、俺は自分の気を使って、お前の体から毒を追い出そうとした。」
私は息を殺した。
「だが、毒は想像以上に強力だった。俺の魔力を根こそぎ吸いやがった。そして、俺の魔力を吸って毒を体外に押し出した後、外に漏れ出した毒気の量もまた、とんでもなかった。宿の周りにいた人間は、即座に毒に当てられて気を失った。あと数秒、あそこに留まっていたら、宿の人間は全員死んでいただろう。一晩でも泊まっていたら、あの一帯がどうなっていたか、わかったもんじゃない。」
私は背筋が凍るのを感じた。
「だから、お前を背負って、全力で走った。一番近い森に飛び込んで、とにかく遠くまで行った。百キロほど走ったところで、さすがに止まって、眠って体力を回復させた。お前のそばにいると、魔力を大量に吸われるから、本当に疲れるんだ。俺じゃなきゃ、とっくに死んでたよ。」
私は長い間、黙っていた。
「本当ですか。」私は震える声で聞いた。「じゃあ、師匠は……私のそばにいて、毒に当たって死ぬとは、怖くなかったんですか?」
ダリウスは軽く私の頭を小突いた。
「忘れたか。俺はお前の師匠だぞ。」
彼はにやりと笑った。
「それに、今日からこの道中で、お前を鍛え始める。歩きながら、な。」
彼は一度言葉を切り、それから真剣な口調で続けた。
「毒の影響は、一週間もすれば抜ける。心配するな。」
だが、その声はさらに厳しくなった。
「ただし、よく覚えておけ。この一週間、お前の命は俺に預けられている。俺から離れたら、お前は死ぬ。お前の体に俺の魔力を流し続けて、どうにか生かしているんだからな。」
私は彼を見つめた。
だらしなくて、口が悪くて、私の宝石を盗み、私の荷物を蹴り飛ばした男。
だが同時に、私の命を救った男でもあった。
「ありがとうございます、師匠。」私は小さく言った。
ダリウスは肩をすくめた。
「礼なんていらねえ。俺は、お前の親父との約束を果たしてるだけだ。」
それから彼は背を向け、森の奥へと歩き出した。
「行くぞ。やることは山ほどある。」
私はしばらくその場に立ち、巨木の間に消えていく彼の背中を見つめていた。
それから深く息を吸い込み、彼の後を追った。
――これでいい。
これが、私と師匠の旅の始まりだ。




