第三章:石の壁の向こう側
時が経つにつれて、私は退屈し始めた。
やることが何もないからじゃない。むしろその逆だ。
同じ空間に閉じ込められ、天井の木目ひとつひとつとすら顔なじみになるような、そんな退屈だった。
家中の隅々まで探検し尽くし、壁も扉も、棚の上の本もすべて触った。
『世界史』は何度も読み返して、ほとんど暗記してしまったほどだ。
そして今、新しく発見するものが何もなくなって、私は息が詰まりそうな感覚を覚え始めていた。
しかし、その退屈の中で、私の頭から決して離れないものがひとつだけあった。
――魔法だ。
私はそれを見た。一度や二度ではない。何度もだ。
家の使用人たちは、暖炉に火をつけたり、蝋燭に灯したりする時、火打ち石を使わなかった。
彼らはただ手をかざすだけで、指先に小さな炎を出現させた。
手品でもなければ、まやかしでもない。本物の魔法だった。
前世では、映画やゲームの中でしか見たことのないものだ。
初めてそれを目にした時、私はその場に立ち尽くした。
だが、叫びはしなかった。パニックにもならなかった。
正直なところ、見知らぬ少年の体で、まったく別の世界で目を覚ますという出来事に比べれば、誰かの手の上で小さな炎が踊っているのを見ることくらい、大した衝撃ではなかった。
私の精神はすでに最大の衝撃を経験していた。その他のことは、すべてその結果に過ぎない。
だが、もし魔法が本物なら――それは何を意味するのか?
それはつまり、私がライトノベルだと思っていたあの『世界史』が――本物かもしれないということだ。
エルフや竜人の物語。大分離と六つの大陸。アーサー王と最後の戦い。
そのすべてが――実在するのかもしれない。
その考えに、私は何晩も眠れないほど興奮した。
魔法が実在する世界。伝説の生き物が本当に存在する世界。
これは、かつてのすべてのオタク少年の夢ではないか。
もし私がまだ十五歳の小僧だったら、飛び上がって叫んでいただろう。
しかし私は、十五歳の体の中にいる四十二歳の中年男だったから、その反応は、ベッドに横たわり、天井を見つめ、一人で笑うだけにとどまった。
しかし、そこから次の疑問が生まれた。――私は魔法を使えるのか?
私は家中の本を漁り始めた。
すると確かに、前に読み飛ばした農場管理や貴族の系譜の本以外にも、魔法の教則本がかなりあることがわかった。
『魔術入門』『元素操作の原理』『炎と水:見習い魔術師のための手引き』といった題名の本たちだ。
私は大喜びでページを開いた。そしてすぐに本を閉じた。
――読めなかった。
まったく読めないわけではなかった。簡単な単語や短い文なら、ある程度は読めた。
しかし、それらが複雑な専門用語を伴った長い段落になると、頭がクラクラし始めた。
それはまるで、日本語の五十音を覚えたばかりで、漢字をまだ全部は知らない子供が、高校生向けの教科書を必死に読もうとしているようなものだった。
一文字一文字は読めても、全体としてはさっぱり理解できない。
私は時間をかけて独学しようと努力した。
毎日何時間も、それらの本と格闘し、一文字一文字、一文一文を解読しようと努めた。
しかし、進歩は遅々としたものだった。あまりにも遅すぎた。
そして数日もすると、私は自分が檻の中の鳥のように感じられてきた。
毎日がまったく同じ繰り返しだった。起きる。朝食。本と格闘。昼食。本と格闘。夕食。眠りにつくまで天井を見つめる。
その繰り返し。
――私は外に出なければならなかった。
世界を探検するためじゃない。冒険を求めてでもない。
ただ、この息の詰まるような感覚から逃れたかっただけだ。
空気が必要だった。木の壁と裏庭以外の、何かを見る必要があった。
そして私は計画を練った。
私の計画は至って単純だった。
ほとんど毎日、私は家中をぶらぶらと歩き回る時間を持っていた。
皆はそれに慣れっこになっていた。私がただ散歩しているか、好奇心旺盛な子供みたいに新しい隅っこを探検しているだけだと思っていたのだ。
つまり、誰も私のことを本気で見張ってはいなかったということだ。
私はトイレに目をつけた。
その小さな部屋には、かなり大きな換気窓があり、家の裏手の見えにくい場所に位置していた。
前もって確認済みだった。その窓は、この痩せこけた体が十分に通り抜けられる大きさで、しかも重要なことに、すぐ外は生い茂った生け垣が視界を遮ってくれている。
その日の午後、皆が日課の仕事に追われている隙に、私はトイレに忍び込んだ。
鍵をかけ、木箱に登り、換気窓から体を滑り込ませると、決して優雅とは言えない着地で、家の裏の芝生の上に転がり落ちた。
しばらくその場に横たわり、肩で息をし、心臓がドキドキと脈打っていた。
こんなことをするのは、二つの人生を通じて初めてだった。
家出。こそこそと抜け出すこと。規則を破ること。
それは奇妙な感覚だった。だが、同時にスリルもあった。
立ち上がり、服の埃を払い、歩き始めた。
家の周辺はかなりまばらだった。
家々は互いに離れて建っており、それぞれが広い敷地に囲まれている。
しばらく歩くと、小さな道に出た。道は二股に分かれていて、片方は上り坂、もう片方は下り坂になっている。
私は深く考えずに上り坂の方を選んだ。より人口の多い地域に通じているだろうという、単純な考えからだった。
案の定、十五分ほど歩くと、家々が密集し始めた。通りは人通りが多くなった。
行き交う人々の服装は、歴史書でしか見たことがないようなものばかりだった――長いローブ、プリーツスカート、無骨な革のブーツ。
建物の建築様式も奇妙だった。急勾配の瓦屋根に石壁、鉄格子のはまった小さな窓を持つ木造家屋。
それらは中世ヨーロッパの強い影響を感じさせたが、それでも、私が名状できない何かが、どこか違っていた。
昔、こんな場所を夢見ていた。
東京のガキだった頃、中世ヨーロッパや古城や古い村についての本を、何時間も座って読んでいたものだ。
いつかこんな場所に足を踏み入れられたらと想像していた。
そして今、私はここにいる。旅行でもなければ、夢の中でもない。実際に、ここで生きているのだ。
不思議なほど、穏やかな気持ちだった。
あてもなく歩き回り、ここ数日間ずっと渇望していた自由を満喫した。
澄んだ空気、木々の間を吹き抜ける冷たい風、どこかから聞こえる鳥のさえずり。すべてが平和だった。
――あのガキどもを見つけるまでは。
彼らは道端の空き地に座って、たむろしていた。
六人ほどのグループで、全員が私と同じくらいの年恰好だった――つまり、この体の年齢だ。十五、六歳くらい。
だらしない服装にボサボサの髪、そして話し込んでいる以外には何をしている風でもない。
映画で見たことのある、典型的な不良少年そのものだった。
私はトラブルを起こしたくなかった。ただ通り過ぎたかった。
だからうつむき加減に、少し早足になって、彼らが私に気づかないことを願った。
だが、彼らは気づいた。
私が通り過ぎると、彼らの会話がぴたりと止んだ。
視線が突き刺さるのを感じた。一人、また一人と。
彼らはただ黙って私を見つめた。私は平静を装い、歩き続け、ついには彼らの前を通り過ぎた。
しかし、もう安全だと思ったその時、後ろから彼らの囁き声が聞こえてきた。
「あのガキ、誰だ?」
「見たことねえな。」
「なんかマヌケっぽくねえ?」
「越してきたばっかじゃねえの。」
私は歯を食いしばったが、歩みを止めなかった。
気にするな。立ち止まるな。振り返るな。そう自分に言い聞かせた。
前世では、陰口を叩かれるのには慣れっこだった。これくらい、何でもない。
別の道に曲がり、出口を見つけようとした。
しかし数分後、さっき曲がった道が袋小路だと気づいた。目の前に石の壁が立ちはだかっていた。
――くそ。
戻るしかなかった。
私は深く息を吸い込み、ガキどもがたむろしている四つ辻の方へと歩き出した。
今度は、極力足音を忍ばせ、ゆっくりと進んだ。猫が犬を起こさないようにしているかのように。
奴らが自分たちの話に夢中で、私に気づかないことを祈った。
しかし、彼らは気づいた。
私が通り過ぎようとすると、後ろから足音が聞こえてきた。
振り返らなくても、何が起きているかはわかった。一人、二人、三人。
奴らは立ち上がり、私の後をつけてきていた。
私は歩く速度を上げた。奴らも早足になる。心臓がドキドキと鳴り始めた。
その時、それを見た。炎の煌めきを。
目の端で、ガキの一人が手を上げているのが見えた。そいつの手のひらの上で、小さな炎が踊っていた。
私は舌打ちした。――しまった。ここは魔法の世界だったんだ。
「おい、てめえ!」後ろから声が飛んできた。「誰だお前? 見たことねえ顔だな」
私は答えなかった。ただ、歩く速度をさらに上げた。
「おい! 聞いてんのか!」
ヒュッという音がした。
本能で頭をひょいと下げると、小さな火の玉が肩をかすめて飛び、目の前の壁に当たって消えた。
大きくはなかった。拳大ほどだ。しかし、それが意味するところを理解するのには十分だった。もはや無視し続けることはできない。
私は立ち止まった。振り返った。奴らの目を真っ直ぐに見据えた。
「かかってこいよ、この野郎!」
それから私は、脱兎のごとく駆け出した。
名案とは言えなかった。実際、まったく馬鹿げた決断だった。
しかしその瞬間、生存本能が体を乗っ取っていた。
武器もなければ魔法もない。あるのは痩せ細った脚と、早鐘のように打ち鳴る心臓だけだった。
そして私は走った。
奴らが追いかけてくる。火の玉が私の頭の上をひゅんひゅんと飛び交い始めた。
一つが左耳すれすれをかすめた。別の一つは上着の裾を焦がした。
私は焦げた匂いを嗅ぎながら、さらに足を速めた。
連中は、まるで獲物を追う狩人みたいに、ゲラゲラと笑い、喚き声を上げていた。
――その時だった。
「ぐあっ!」
後ろから悲鳴が上がった。
ちらりと肩越しに見ると、火の玉の一つが通りすがりの男に命中していた。
太い腕をした、大柄な男だった。彼は立ち止まり、自分の服の焦げ跡を見下ろし、それからガキどもを睨みつけた。
そして怒りの咆哮とともに、ガキども目がけて突っ込んでいった。
「てめえら、人の服を燃やしやがったな?!」
殴り合う音、怒鳴り声、そしてガキの一人の助けを呼ぶ声が聞こえた。
しかし、私は見物するために立ち止まらなかった。そのまま走り続けた。
まだ何人かが追ってきている。しかし、連中はより慎重になっていた――もうやたらに火の玉を撃ってはこない。ただ私を捕まえることだけに集中していた。
そしてそれが問題だった。この体は、私が思っていたよりも、ずっとずっと脆かった。
たった数分走っただけで、肺が焼けるように痛み始めた。
足は震え、鼓動はあまりに激しく、自分の耳の中で聞こえるほどだった。
私はこの体の持久力を過大評価していた。五年間の昏睡状態は、思っていた以上のものを私から奪い去っていたのだ。
そして、パニックの中、私は一本の路地に飛び込んだ。
――袋小路だった。
目の前の石の壁を見て、私は立ち尽くした。
背後では、ガキどもの足音がどんどん近づいてくる。狭い路地に、彼らの笑い声が響き渡った。
「逃げ場なしだな、このガキ!」
私は歯を食いしばった。――やべえ、終わった。
その時、間近の窓が勢いよく開く音が聞こえた。
「こっちに来て!」
振り向くと、私と同じ年頃の少女が、後ろで一つに結んだ栗色の髪と、キラキラ輝く緑色の目で、窓から半分身を乗り出し、私に手を差し伸べていた。
顔には切迫感があり、その耳には白いエプロンがかけられていた。どうやら仕事に行く準備をしていたらしい。窓辺で何か用事をしていたのか、それとも外の騒ぎに気づいて様子を見に来たのか――どちらにせよ、彼女のタイミングは完璧だった。
後ろからは、ガキどもが路地に入ってきていた。「あそこだ!捕まえろ!」という叫び声が聞こえる。
私はためらわなかった。傍らの木箱を踏み台にして跳び上がり、窓枠にしがみついた。
少女が私の手を掴み、中へと力強く引き込んだ。
しかし、誰かが私の足を掴んでいるのを感じた。
ガキの一人が飛びついてきたのだ。奴はニヤニヤ笑いながら、私を引きずり下ろそうとした。
考えるより先に、体が反応した。
自由な方の足を振り上げ、そいつの顔面めがけて思い切り蹴りつけた。
鼻柱が靴底を通してへこむのを感じるほどの強烈な蹴りだった。
奴は悲鳴を上げ、手を離し、地面に倒れ込んだ。その拍子に、私の片方の靴が脱げて外に飛んでいった。
構ってはいられなかった。私は部屋の中に転がり込み、床に倒れ込んで、肩で荒く息をした。
少女が素早く窓を閉め、閂をかける。
外では、ガキどものわめき声がしばらく響いていたが、やがて遠ざかっていった。
どうやら諦めたらしい。それとも、大人に捕まるのを恐れたのかもしれない。
私は床に寝転がり、天井を見上げ、胸を激しく上下させていた。
全身が震えていた。だが、生きている。私は確かに生き延びたのだ。
「あんた、キチガイね。」
声の方を向くと、少女も壁にもたれかかって、同じように息を切らせていた。
栗色の髪は乱れ、頬には泥がついている。
しかし、その緑の目は好奇心と、どこか敬意にも似た色を浮かべて、私を見つめていた。
「あんた、今、あいつの顔を蹴ったの?」彼女は信じられないと言った口調で尋ねた。
「ああ。」私はまだ息を切らしながら答えた。「多分、鼻を折ったと思う。」
一瞬の沈黙。それから彼女は吹き出した。
小さな部屋に、透き通った笑い声が響き渡る。
「あんた、やっぱりキチガイだわ。」
「助けてくれてありがとう。」私はなんとか上体を起こしながら言った。「私はアルベール。君は?」
彼女は笑うのをやめ、驚いたように私を見た。
「アルベール? どこかで聞いたことある名前ね。」
彼女は小首をかしげ、少し考えたが、すぐに肩をすくめた。「まあいいわ。私はリアナ。」
「どうして私を助けたんだ?」
リアナはまた肩をすくめた。
「正直言うと、私もあのチンピラどもが嫌いなだけよ。いつも弱い者ばかりいじめてるから。」
彼女は私をちらりと見た。「それにしても、あんたここの人じゃないでしょ? 見たことない顔だし。」
「引っ越してきたばかりなんだ。」私は言った。それは完全な嘘ではなかった。事実を、ちょっと違う言い方で表現しただけだ。
「なるほどね。どうりで。」
リアナはうなずき、立ち上がって服の埃を払った。
「とにかく、もう隠れられたなら、家の裏の道を下りて。大きな通りに続いてるから、そこから帰れるわよ。」
彼女の口調は早口で、何かを急いでいる様子だった。絶えず窓の外を見ており、手には白いエプロンを掴んでいる。
「急いでるの?」私は尋ねた。
「うん、もうすぐ仕事なの。ここの通りにある食堂で給仕をしてるの。もうすぐ開店時間でね。」
彼女はドアの方を指さした。「じゃあ、私、行くわ。一人で帰れる?」
私はうなずいた。「ありがとう、リアナ。」
彼女は素早く、明るい笑顔を見せ、それからドアの向こうに消えた。
私はしばらくその場に座り込み、部屋の中を見回した。
小さくて簡素な部屋だった。ベッドと机、そして棚の上に古びた本が数冊。
それから立ち上がり、勝手口から外に出た。
数歩歩くと、リアナが家を出て、白いエプロンをつけ、大通りに向かって早足で歩いていくのが見えた。
なぜかはわからないが、私は彼女の後をつけることにした。
たぶん、帰り道がわからなかったから。たぶん、好奇心から。あるいは、あの木の家にすぐに戻りたくなかったからかもしれない。
少し距離を置いてこっそりとついていった。
だが、彼女が別の道に曲がり、私も同じように曲がると、突然彼女は立ち止まり、角から顔だけをひょいと出して、私の目をじっと見た。
「ねえ、あんた、私のことつけてるの?」彼女の声は疑惑に満ちていた。「何か悪い企みがあるんじゃないでしょうね?」
私は驚いて一歩後ずさりし、慌てて言葉を紡いだ。
「ち、違う!そうじゃない!ただ…帰り道がわからなくて!本当だ!」
リアナはしばらくじっと私を見つめたが、突然目を細めた。
「なんか、あんた、見たことないけど、どっかで会ったことあるような変な感じもするのよね…」
彼女は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。それから肩をすくめた。
「まあいいわ。どうしても行くとこないなら、私の働いてる店に来なさいよ。今、ちょうど人手を募集してるの。」
私はまばたきした。「君は、一緒に働かないかって言ってるのか?」
「そうよ。いいじゃない。」彼女は、それが世界で一番普通の申し出であるかのように、あっさりと言った。「悪い人には見えないし。それにどうせ暇なんでしょ。少しはお金を稼いだら?」
私は少し考えた。
正直なところ、他に何の予定もなかった。
それに、食堂で働けば、この世界のことをもっと学べるかもしれない。
もっと重要なのは、定期的に家を抜け出すための口実ができることだった。
そして何よりも、あの木の家の中に閉じ込められずに、外の世界を探検する時間を持てるようになる。
私はうなずいた。「いいよ。案内してくれ。」
リアナはにっこり笑うと、背を向けて歩き出した。私は彼女の後を追った。
食堂は、大通りの突き当りにあった。
奇妙なデザインの二階建てで、こんなものは見たことがない。
それはまるで、巨大な岩が二つ、互いに積み重なっていて、生活空間を作るために内部をくり抜かれたかのようだった。
曲線的な壁、アーチ型の窓、そして玄関の上には木の看板がぶら下がっている。
「本当に岩二つみたいだな。」私は思わず口に出した。
「うん、でもあれはコンクリートなの。」リアナが言った。「オーナーがこの建築様式を気に入ってるの。故郷を思い出すんですって。」
私はもう一度よく見た。確かに、外側は天然石ではなかった。
岩の形に成形されたコンクリートだった。なかなか面白い建築的アイデアだ。
中はまだ開店していなかった。数人の従業員がテーブルや椅子を整え、床を磨いている。
リアナが私を中に連れて入ると、何人かが顔を上げてこっちを見た。
「リアナ!遅かったじゃない!」ふっくらした頬の金髪の女の子が言った。
「ごめんね、ちょっとあったんだ。」リアナは答え、それから私の方を指さした。「この子、新しい従業員よ。応募したいんですって。」
皆の視線が私に集まった。私はなんとか微笑もうとしたが、ついさっきの追いかけっこでまだ少し震えていた。
従業員たちは好奇と、少しの疑いの入り混じった目で私を見つめた。
リアナは私をカウンターの裏の小さな部屋に連れて行った。
そこでは、もじゃもじゃのあごひげを生やし、鋭い目つきの中年男が、木の机の後ろで書類の束を調べていた。
「オーナー。」リアナが言った。「応募したい人がいるんですけど。」
オーナーが顔を上げ、私を頭のてっぺんからつま先までじろりと眺めた。
彼の目が値踏みし、品定めしているのを感じた。
「座れ。」彼は低く落ち着いた声で言った。
私は向かいの椅子に腰掛けた。リアナは部屋の隅に立ち、腕を組み、期待に満ちた表情で私を見ていた。
面接は約五分で終わった。
オーナーは私に二、三の質問をした――何歳か、どこに住んでいるか、経験はあるか。
私はできる限り正直に答えた(もちろん、前世の部分は除いて)。
彼が何を言っても、私はただうなずいた。
正直なところ、給料や勤務時間にはあまり興味がなかった。
アルベールの家族はそれなりに裕福なようだし、金に困っているわけではない。
私がここで働くのは、別の理由からだった――この世界を探検するため、あの四方の壁の外で生きるため、そして多分、リアナみたいな奴にまた会うためだ。
五分後、オーナーはうなずいた。
「よし。明日から来い。」
私は頷いた。
――これでいい。
これが、私の新しい人生の始まりだ。




