2人の時間
凪は、能力エディタを、開いた。
これまでの、機体設計の画面とは、まるで、違う。
パーツも、フレームも、装甲も、ない。代わりに、並ぶのは――発動条件。効果。持続時間。再使用まで。判定範囲。
能力を、組むための、項目。
(……なるほど。全然、違いますね)
凪は、その、未知のUIを前に。
少しだけ、胸が、高鳴るのを、感じた。
◇
「で、何すんの」
しろっぷが、隣のポッドから、顔を、出した。
『試作品を、片っ端から、作ります。……そして、あなたに、試してもらう』
「あー。……いつもの、やつね」
しろっぷが、にやりと、笑った。
機体を作っていた頃と、同じ。凪が作り、しろっぷが動かす。二人の、いつもの、形。
『まずは――これです』
凪が、最初の試作品を、転送した。
◇
『壁生成。……目の前に、障壁を、作る能力です。相手の攻撃を、防ぐための』
「ふーん」
フリーバトルの、フィールド。
しろっぷは、その能力を、発動した。目の前に、光の壁が、生成される。
だが、しろっぷは。
その壁を、防御には、使わなかった。
壁を、足場にして、跳んだ。
壁を、蹴り上げ、宙へ。そのまま、凪の操る的へ、上から、突っ込む。
『……え』
「これ、踏み台にできるじゃん」
『いや……それは、防御用で』
「でも、こっちの方が、強くない?」
凪は、言葉に、詰まった。
確かに。壁を、前へ、前へと生成すれば、立体的な、足場になる。防御の能力が、機動の能力に、化けていた。
(……その、発想は、なかった)
◇
『……次、行きます。これは、糸です』
凪の、得意技。相手を、絡め取り、拘束する。
「あー、これ、あんたの、いつもの」
『ええ。拘束用ですが、能力として、単体で、組んでみました』
しろっぷは、その糸を。
自分の、腰に、巻きつけた。
そして、遠くの、建物へ、糸を、射出。
ぐん、と。
自分の体を、糸で、引き寄せて、高速で、移動する。
『……それ、拘束用です』
「知ってる。……でも、自分に使ったら、めっちゃ、速く動けるじゃん」
ぶんぶん、と。
しろっぷは、糸で、フィールドを、飛び回った。まるで、蜘蛛のように。凪の想定を、また、飛び越えて。
(……僕が作った糸を、こんな風に)
凪は、その動きに、見入っていた。
◇
『……では、これは、どうです』
凪が、次に転送したのは。
あの、迅の能力を、参考にした、試作品だった。
『G流G流。……重力を、操作して、加速する能力です。迅さんの、あれを、再現してみました』
「お。……あの、やばい速度の」
しろっぷが、目を、輝かせた。
「やってみる」
しろっぷが、その能力を、発動した。
足元の、重力が、歪む。
次の瞬間、しろっぷの機体が、加速――しようとして。
ぐるん、と。
あらぬ方向へ、きりきり舞いして、地面に、突っ込んだ。
ドテッ。
『……あ』
「うっ……ぷ。……なにこれ。……きもちわる」
しろっぷの声が、ふらついていた。
「これ、自分に使ったら……ぜったい、酔うやつじゃん……」
『……ですね。迅さんが、あれを乗りこなしていたのが、異常だったんです』
重力を、加速に変える。理屈は、同じ。だが、その制御は、常識では、扱えない。迅の、二重操縦あってこその、力業だった。
「うぇ……。……凪、これ、ボツ」
『……はい。ボツですね』
◇
二人は、次から次へと、試していった。
瞬間加速。足場生成。武器生成。ダミー。分身。
凪が、一つ作るたびに、しろっぷが、試す。そして、その、ほとんどが。
凪の、想定とは、違う使い方を、された。
『これは、回復能力です。HPを、少しずつ、回復する』
「ふーん」
しろっぷが、使ってみる。回復量は、ごくわずか。しかも、発動中は、動きが、鈍る。
『……効率は、悪いですね。でも、持久戦なら』
「あー。……いや、これ」
しろっぷが、少し、考えて。
「バトロワだよ? 最後まで、生き残るやつ。……自分だけ回復できても、二人一組なんだから」
凪の、手が、止まった。
「これ、あたしにかけても、意味ないじゃん。……あんたに、かけられるなら、話は別だけど」
(……そうか。この能力は、自分にしか、使えない)
クラン戦。二人で、戦う。ならば、自分だけを回復する能力に、価値は、薄い。味方を、支える能力でなければ。
『……なるほど。ボツ、ですね』
凪は、その試作品を、フォルダに、放り込んだ。だが、その頭には、一つ、メモが、残った。……味方に、使える能力。
◇
だが、凪は。
この、試行錯誤の中で、気づき始めていた。
(……また、想定外だ)
壁も。糸も。
凪が、考えた用途では、なかった。しろっぷが、まったく別の使い方で、化けさせる。
(……能力は)
凪が、いくら、完璧に、組んでも。
(……僕が、完成させるものじゃ、ないのか)
機体とは、違う。その先に、何か、大きなものが、ある気がした。
まだ、形には、ならない。だが、確かに、これまでとは、違う扉が。目の前に、開いていた。
◇
「ねえ、凪。次、次」
しろっぷが、せかす。
その顔は、いつになく、楽しそうだった。
『はい。……では、これは』
凪も、夢中だった。
しろっぷが、どんな使い方を、するのか。それが、見たくて。次の試作を、また、作る。
しろっぷは、凪が、次に何を、作ってくるのか。それが、楽しみで。
凪の、手元を、覗き込む。
二人とも。
相手が、次に見せるものに、夢中になっていた。
◇
気づけば。
窓の外が、白み始めていた。
試作品フォルダには、無数の、ファイルが、並んでいる。
Ability_001。Ability_002。……Ability_034。
『……まだ、全部、失敗作ですね』
凪が、苦笑した。使い物になる能力は、一つも、できていない。
だが。
「でもさ」
しろっぷが、ポッドの中から、言った。
「今日、一個も、退屈じゃなかった」
その声は、心の底から、そう言っているようだった。
凪は、少しだけ、笑って。
『……ええ。僕も、です』
◇
その、どれもが、失敗作で。
その、どれもが、楽しかった。
Ability_035。
凪は、新しい、ファイルを、開いた。
まだ。
試したいことが、あった。




