第47話 第3試合
『――1回戦第2試合、勝者はさくせすT選手! 予選最終日のダークホースが、ラブマクス選手との壮絶な打ち合いを制しました!!』
MCの声が、会場の興奮を引き継いでいる。
観客席のあちこちで、今の試合の話が続いていた。「最後の同時パンチえぐかった」「リング作るのなんなんだあいつ」「宝石がやばい」。
◇
マセガキィの控室。
モニターの前で、マセガキィは静かに足を組んでいた。スマホは、すでにポケットに仕舞ってある。
「……いい試合だったね」
誰に向けるでもなく、独り言のように呟いた。
1試合目の迅・ソニックvs周李龍。重力操作という変則能力を、適応の化け物が攻略する展開。
2試合目のさくせすTvsラブマクス。射撃キャラが近接に切り替えて、宝石爆発を鳥かごで利用する戦術。
どちらも、フリーダム・フロントの「自由さ」が前面に出た試合だった。
「ま、それはそれ」
マセガキィは立ち上がり、軽く首を回した。
彼の機体。
ヒューマン型のテンプレ構成。パラメータに大きくコストを振り、能力枠は「加速」一つだけ。短剣の二刀流で戦う、機械的なシルエットの忍者風アバター。
完成度ボーナスもしっかり乗っている。ちゃんとしたビルダーが、テンプレを丁寧に組んだ機体。
飛び道具はない。能力も派手ではない。だが、その代わりに基礎ステータスが分厚い。
マセガキィは、フリーダム・フロントを長くやってきたわけではない。
始めたきっかけは2つ。
1つは、新しい直感入力デバイスに触れたかったから。格闘ゲームでの反射神経が、別ジャンルでどこまで通用するか試したかった。
もう1つは、暇つぶし。本業の格ゲー大会の合間に、別のゲームで頭を冷やしたかった。
その「暇つぶし」で、予選2位まで来てしまった。
「……まあ、ここまで来たら優勝するよね、普通」
誰に聞かせるでもなく、マセガキィは呟いた。
短剣を構える。エネルギーブレードが、二振り、青く光る。
「相手はモンスター型の異形機体か。……ちょっと変わったやつだけど、所詮はゲームの中の機体だ。読めば、勝てる」
◇
凪としろっぷの控室。
しろっぷは、ソファに座って、ダイブポッドの準備を進めていた。
『……しろっぷ』
「ん?」
『行ってらっしゃい』
しろっぷが、振り返った。
「うん。行ってくる」
『……マセガキィ、控室であなたの機体の弱点を分析していました。「副腕の0.3秒のインターバル」と』
「へえ」
『気をつけてください。あの人、読みが鋭い』
しろっぷは、しばらく凪を見つめてから、にやりと笑った。
「ねえ凪」
『はい』
「あんた、心配してるの?」
『……ええ』
「珍しいね」
『……あなたが負けたら、僕が決勝に上がれないので』
しろっぷが、噴き出した。
「あはは、それな。……うん、わかった。負けないよ」
立ち上がって、控室の扉に向かう。
扉の前で、一度振り返った。
「凪も、戦神覇王には負けないでね。準決勝で当たろ」
『……ええ。当然です』
しろっぷが、扉を開けて出ていった。
◇
控室の扉が、再びノックされた。
「邪魔するわよー」
扉が開いて、ラブマクスが入ってきた。
ぼろぼろのままダイブポッドから出てきたのだろう、髪のウィッグが少し乱れている。だが、表情は晴れやかだった。
「うちで反省会してても寂しいから、ちょっと混ぜてもらおうかしら」
その後ろから、もう1人。
「あ、すいません、俺もいいですか? 控室1人だと寝そうなんで」
さくせすT。
まだ機体の損傷が画面上に表示されているらしく、コックピットから出てきたばかりの様子だった。
『……どうぞ。座ってください』
凪が、ソファのスペースを空けた。
周李龍が、軽く頷いた。
ラブマクスがソファに腰を下ろしながら、モニターを指差した。
「次、しろっぷちゃんの試合よね? 相手、あの格ゲーマーの子?」
『……ええ』
「あの子、強そうよ。控室で見たけど、目つきが違ったわ。……ただ、なんていうか」
ラブマクスは、少しだけ顎を傾けた。
「……なんか、綺麗すぎるのよね、あの子」
『綺麗すぎる?』
「うまく言えないけど。……うん、なんか変なのよ。アタシの勘だけど」
さくせすTが、隣でストレッチをしながら頷いた。
「俺もちょっと話したんですけど、けっこう冷静な人でしたよ。フリフロを舐めてるとかじゃなくて、ちゃんと読みで勝ちに来てる感じ」
『……ただ、相手があれですから』
周李龍が、モニターのフィールドロード画面を見ながら、静かに言った。
「あの異形の機体。設計を見ても、何ができるのか半分くらい分からない。マセガキィ選手がどこまで読めるか……」
ラブマクスが、笑った。
「読めない相手を、読みで攻略するの。それも見たいわね」
◇
メインステージ。
『――1回戦第3試合、まもなく開始です! マセガキィ選手と、しろっぷ選手は、ダイブポッドへお進みください!』
MCの声が、会場に響いた。
フィールドがロードされていく。
今回のステージは、廃工場。
巨大なクレーンと吊り下げられたコンテナ。床には金属の足場が複雑に組まれ、上下の高低差が激しい立体的なフィールド。錆びた鉄骨と、ぶら下がる鎖が、薄暗い空間に重い影を落としていた。
左側に、しろっぷの《クリサリス・ヴァリアント》。
漆黒の異形。歪な翼と極太の尾、副腕3本が、薄暗い工場の照明を受けて不気味に蠢いている。
右側に、マセガキィの《サイコダイバー》。
機械的なシルエットの忍者風アバター。両手に青いエネルギーブレード。動きやすい中量級のフォルム。
だが、よく見ると、左右のブレードの出力がほんの僅かにズレていた。同期されていない。調整ミスのようにも見えるが、修正された形跡はない。
『さあ、第3試合!! モンスター型の異形機体しろっぷ選手と、2D格ゲープロのマセガキィ選手!! 全く異なるスタイルがぶつかります!!』
『これは興味深いカードですね。テンプレを丁寧に組んだヒューマン型と、誰にも読めないモンスター型。読みの化身対、未知の異形。どっちが勝つか、本当に分からない』
しろっぷは、フラットな表情で、相手の機体を眺めていた。
マセガキィが、口を開いた。
「やあ。よろしくね」
「うん」
「いきなりだけど、君の機体、面白いと思うよ。あんな副腕の連動、見たことない」
「ありがと」
「でも、面白いのと強いのは別だからさ」
マセガキィが、にこやかに笑った。
「ゲームのプロが、ちゃんとわからせてあげるよ。……でも、同じやり方はつまんないからさ」
意味の取りにくい一言。
「結局このゲームも、読み合いだろ。読み勝てば、終わる」
しろっぷは、その挑発を、表情一つ変えずに聞いていた。
「……わからせる、ね」
短く、一言。
「いいよ、やってみな」
試合開始のカウントダウンが始まった。
3。2。1。
ゼロ




