第43話 さくせすT vs ラブマクス①
試合開始。
さくせすTの《レグルス・マークII》が、中距離を確保しながら背部のビームユニットを構えた。
「――T・ショット!」
T字型のビームが、3発同時に放たれた。
1発は真っ直ぐラブマクスへ。残り2発は、左右の逃げ道を塞ぐように扇状に広がる。
『おおっ!! 開幕からT字ビーム3連射!! 迫力雀士さん、これは!?』
『逃げ道を塞ぐ配置撃ちですね。真ん中を避ければ左右のどちらかに当たる。初手から射線管理が完成してる……えげつない精度ですね』
ラブリィ・エクスプロージョンの小さな体が、3本のT字ビームの隙間を、最小限の動きで縫った。右に半歩、腰を僅かに落とし、ティアラの先端がビームの余波で煌めく。
かすりもしない。
『避けた!! あの狭い隙間を!!』
『体格が小さいから被弾面積が少ないんですよ。幼女体型のヒューマン型、ここで活きますね。……あの見た目にもちゃんと意味がある』
ラブマクスが、右手のデコ銃を持ち上げた。
銃口に、唇を寄せる。
キス。
銃身に刻まれた宝石が、ピンク色に発光した。
「――能力発動。愛ラブ・ずっきゅん」
6発。
ハート型のエフェクトを纏った弾丸が、さくせすTに向かって飛んでいく。
さくせすTは、ハート弾の軌道を見て、冷静に対処した。
噴水の陰に身を寄せ、6発すべてを噴水に吸わせる。水柱が上がり、ハート型のエフェクトが噴水の水面に弾けて消えた。
「うわ、あっぶな。あのキスの弾、当たったらメロメロになっちゃいそうだな」
さくせすTが、軽い声で笑った。
「弾数6、キスでリロードかー。……スキつけるかな、キスだけに」
「あら、うまいこと言うじゃないの」
ラブマクスが、デコ銃を下ろしながら笑い返した。
さくせすTは、噴水の影から射線を通しながら、ラブマクスの動きを追っていた。
ビームユニットを構え直す。
今度は、ラブマクスの足元を狙った。
「――T・セット!」
T字型のビームが地面に着弾し、光の壁が展開された。
ラブマクスの左側の退路を塞ぐ、半透明のバリアフィールド。
『ビームがシールドに!?』
『T字ビームの応用ですね。着弾点にバリアを展開して、相手の動ける範囲を制限する。射撃で当てるだけじゃなく、盤面を作れるのか。これは厄介だ……』
左の退路が消えた。
残るは右と後方。
さくせすTは、その2方向に向けて、さらにビームを放った。
扇状に広がるT字の弾丸が、ラブマクスの右側を掠める。直撃はしない。だが、右に大きく動けば当たる位置に、正確に「置いて」ある。
さくせすTの射撃は、「見てから当てる」タイプではない。
相手が動く先を読み、そこに弾を置く。相手が動けば当たり、動かなければ次の射撃でさらに選択肢を潰す。一歩動くごとに、次の一歩の選択肢が減っていく。
ラブマクスの動ける範囲が、じわじわと狭まっていた。
◇
北海道。
「おー、さくTの配置撃ちだ」
たっくんが、画面を見ながらポテチを口に放り込んだ。
「あれえぐいんだよなー。逃げ場どんどんなくなるの」
「お前がいっつもやられてるやつな」
「いや、俺はちゃんと抜けるし。……たまに」
「たまにかよ」
キリンが苦笑する。
「でもさ、相手もうまいぞ。あの避け方、体格差利用してギリギリ抜けてる」
「うん。あのちっちゃい機体、見た目の割にやるね」
たっくんが、画面に目を戻した。
「あいつ、"見てから当てる"タイプじゃないからさ。置き撃ち全部当ててくるんだよな。あれマジでズルい」
「わかるわ」
「……でも、さくTがあのモードに入ったら、そろそろ詰まるぞ」
「だな」
◇
広場のフィールド。
ラブマクスの周囲に、T字バリアの壁が3枚展開されていた。
左、右後方、右前方。動ける方向が、正面のみに絞り込まれている。
(……やるわね、この子。射撃で盤面を作ってくるタイプか。アタシの動きを見てるんじゃなくて、動く先に撃ってくる)
(でも、それで詰ませられるほど、単純じゃないわよ)
ラブマクスは、冷静に状況を分析していた。
デコ銃の弾は撃ち切っている。キスで補充する隙を作るには、相手の射線から一瞬でも外れる必要がある。だが、その「一瞬」すら、配置撃ちで潰されている。
(まいったわね。……でも)
ラブマクスの目が、正面を見据えた。
正面だけが、開いている。
(正面が開いてるってことは、そこから来るってことでしょ)
その読み通りだった。
さくせすTが、噴水の影から姿を現した。
ビームユニットを構えたまま、正面から、ラブマクスに向かって歩いてくる。
走るのではない。歩く。
一歩ごとに射線を調整し、逃げ場を完全に封じながら、確実に距離を詰めてくる。
焦りは一切ない。逃げられないと分かっている者の歩き方だった。
「追い込んじゃってごめんね、ラブマクスさん。でも、これが俺のやり方なんで」
さくせすTの声は、フランクだが、どこか申し訳なさそうだった。
ビームユニットの照準が、ラブマクスの胸部を捉えた。
中距離。もう逃げ場はない。
ラブマクスは、追い詰められた状態で、笑った。
「……あら。追い詰めたつもり?」
その瞬間、ティアラの宝石が、わずかに脈打った。




