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フリーダム・フロント 〜追放された裏方ビルダー、天才少女の機体を完成させて環境を破壊する〜  作者: ボナンザ・ソバイユ
最悪のバディ

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13/22

13話 狩人

第13話

 選ばれたフィールドは、視界を遮る深い木々と白銀に包まれた『雪の森林』だった。

 試合開始のカウントダウンがゼロになっても、フィールドにはただ、しんしんと雪の降る音だけが響いていた。

「……ねえ凪。敵、どこにいるの?」

 雪原の中央。漆黒の異形クリサリスの中で、しろっぷは退屈そうに周囲を見回していた。

 いつもなら、開始数秒で相手の座標を割り出し、最速で突っ込んでいく。だが、今回ばかりは勝手が違った。見渡す限りの銀世界に、敵の姿はおろか、駆動音や熱源の反応すら一切ない。

『警戒を解かないでください、しろっぷ。この《フリーダム・フロント》には、正面からの撃ち合いだけを是としないプレイヤーも多く存在します』

 インカム越しに、凪の静かな声が響く。

『広大なマップを逆手に取り、極限まで気配を殺して盤面を作る。徹底した【狩猟】と【待ち】の戦術です』

「ふーん。隠れんぼってこと?」

『ええ。不用意に動けば、相手の思う壺です』

 だが、待つことがしろっぷの性に合っているはずもない。

「……あー、イライラする。探して引きずり出してやる」

 クリサリスが、ズボッと深い雪を掻き分けて歩き出す。静寂に包まれた森の中で、その足音だけが異様に響き渡っていた。

 ――その様子を、数百メートル離れた大樹の枝から、スコープ越しに静かに見下ろしている隻眼のカメラがあった。

 対戦相手、プレイヤーネーム『真摯なキリン』。

 機体名《ガリュードF2》。量産型のロボット型フレームをベースに、装甲を削り落とし、ペイロードのすべてを特殊兵装に全振りした特化機体。

 彼はすでに数分間、雪に同化するように微動だにせず、ただ眼下の「獲物」を観察し続けていた。

「ロボ型はいい。こういう極寒の森で待ち伏せても、白い息一つ出ないからな」

 真摯なキリンは、機体のセンサー出力を最低限に絞りながら、ホログラムのコンソールで呟いた。

 身を屈め、ライフルを構え直す。だが、その動き出しにはロボット特有のモーター音や関節の駆動音が一切鳴らない。狩人のように静謐で滑らかなその挙動は、彼自身のプレイスキルのみならず、機体を組み上げたビルダーの尋常ではない技量を如実に示していた。

 彼が手にする長大なスナイパーライフル。

 一発撃てば、長い再装填リロードを余儀なくされる致命的な隙がある。

「込めれる弾は一度に一発、だから覚悟が決まる」

 システムに自ら課した、極端で過酷な制約。その代償としてこの一撃に宿るのは、絶対的な弾速と、掠っただけでも致命傷となる理不尽なまでの破壊力だ。

(動画は腐るほど見た。あいつの強みは、ラグのなさと、定型パターンを持たない自由な機動性。だが、どれだけ理不尽な動きができようが、見えない位置からの初弾は絶対に避けられない)

 フィールドの要所には、すでに彼がばら撒いた無数のトラップが雪の下に眠っている。

 自由を奪い、“通るべき正解の道”を一つに絞らせる。それが彼の『狩り』だった。

 クリサリスが、苛立ちに任せて樹木の幹を蹴り、空中に躍り出ようとした、その時。

 しろっぷの視界に、微かな違軽く違和感が走った。

 ――ピピッ。

 クリサリスの左脚が、空間に張り巡らされていた極細のワイヤーに触れる。

 ダメージはゼロ。だが、機体の関節部に強力な電磁ブレーキが掛かり、空中での推進力が強制的に相殺された。

「……あれ? なんか、重い」

 しろっぷが小さく首を傾げる。

 軌道がズレた。本来着地するはずだった枝から落下し、雪深い地表へと引きずり込まれる。

 その着地点には、あらかじめ三つの指向性地雷が配置されていた。

『そこだ』

 樹上から、ついにガリュードF2のスナイパーライフルが火を噴く。

 着地硬直を狙った、完璧なタイミングでの狙撃。回避は不可能。

 ――だが。

 しろっぷは、着地する直前に空中で右の片翼をパージ(切り離し)し、それを自らの盾とした。

 ドォォンッ!

 片翼が吹き飛び、地雷の爆風がクリサリスを包み込む。

 HPが一気に削られ50%を割り込んだが、致命傷は免れた。

「うわ、びっくりした。これ当たったら死ぬやつだね」

 ポッドの中で、しろっぷは目を丸くした。

 今までの相手とは違う。相手は自分を見ていない。「自分がどう動くか」を予測し、あらかじめそこに“死”を置いている。

(……チッ、片翼を犠牲にして凌いだか)

 真摯なキリンは舌打ちをしつつも、すぐに次のトラップを起動し、自身も気配を殺して素早く別の狙撃ポイントへと移動する。

「凪。なんかこれ、すっごくやりづらい」

『……相手は優秀なハンターです。あなたの自由を奪うことにおいて、完璧な盤面を構築している。左は遅延トラップ、上空にはワイヤー。後退すれば再び狙撃です』

 インカム越しに、凪の冷徹な分析が響く。

『残された右の獣道は、明らかに誘導するためのキルゾーンです。合理的に考えれば、ここは一度下がって盤面をリセットすべきですが』

「ふーん。でもさ、逃げるのは退屈じゃん」

 しろっぷの顔に、焦りはない。

 むしろ、不敵な笑みが広がっていた。

「相手が『ここを通れ』って言ってくれてるなら、逆にわかりやすいよ」

『……そう言うと思っていました』

 凪の口元にも、ビルダーとしての狂気を孕んだ笑みが浮かぶ。

『なら、私がリミッターをすべて外します。連中の用意した“最適解”の盤面ごと、喰らい尽くしてください』

 クリサリスが、右の獣道へと爆発的な速度で駆け出した。

『――かかったな』

 真摯なキリンの口角が上がる。

 クリサリスが獣道を抜け、開けた雪原に出た瞬間。

 周囲の雪中から複数のドローンが一斉に起動し、クリサリスに向かって高圧縮のレーザー網を展開する。

 逃げ場はない。回避ルートはゼロ。

 そして、その中心に向かって、ガリュードF2の銃口が火を噴いた。すべてを終わらせる、全身全霊を乗せた必殺の一撃。

(これで、終わりだ!)

 レーザー網と、致死の弾丸が迫る。

 しろっぷの純粋な突破の意志が、異常な入力負荷となってシステムに叩き込まれる。

 ――ギガッ。

 だがその瞬間。クリサリスの動きが、ピタリと“止まった”。

 完璧すぎる包囲網と、限界を超える入力負荷。同時に“避ける・壊す・突っ込む”という矛盾した命令が機体内で激突し、コンマ数秒の致命的な硬直を生んだのだ。

『止まった!』

『終わったな、完全に詰みだ』

 観戦ルームが、そして真摯なキリン自身が、完全なる勝利を確信した。

「うん、全部見えた」

 だが、しろっぷの瞳は全く死んでいない。

 彼女はまるで、パズルの最後のピースをはめる子供のように無邪気に呟いた。

「弾、まっすぐ来るなら――遮ればいいだけでしょ」

 凪が、静かにキーボードを叩き潰す。

『――過負荷オーバーロードを《臨界適応》へと強制変換します』

 次の瞬間。

 止まっていたクリサリスの長大な『尾』が、突如として禍々しく脈動を始めた。

 装甲が内側から弾け飛び、剥き出しになった赤黒い人工筋肉が異常増殖し、おぞましい太さの“肉の鞭”へと変態する。

 しろっぷは、その異形の尾を敵ではなく――自らを囲む『レーザードローン』へと全力で薙ぎ払った。

『なっ……!?』

 真摯なキリンが驚愕に目を見開く。

 弾き飛ばされた複数のドローンが、盾のようにスナイパーライフルの射線上に投げ出される。

 絶対の威力を持つはずの狙撃弾は、自らが配置したドローンたちを次々と紙屑のように粉砕していく。

 いかに必殺の弾丸といえど、複数の強固な金属フレームを連続で貫通する過程で、その“絶対の軌道”と“致死の速度”は致命的に削ぎ落とされていた。

 ズガァァンッ!!

 威力を殺された弾丸がクリサリスの肩を掠め、装甲を大きく吹き飛ばす。

 激しい火花が散り、HPゲージはついにレッドゾーンへ突入する。だが、コアへの直撃は完全に免れていた。

 爆煙の中から、漆黒のバケモノが一直線にガリュードF2の潜む大樹へと迫る。

『バカな……! 俺のドローンを、狙撃のデコイにしやがった!?』

 対策は完璧だった。選択肢も一つに絞った。

 だが、その唯一の選択肢の中に、相手は「盤面そのものを利用する」という異常な解答をねじ込んできたのだ。

「あははっ! これ、最高に気持ちいい!!」

 肉の鞭へと変態した尾が、一瞬で大樹をへし折り、ガリュードF2の眼前へと迫る。

 そのままの勢いで振り抜かれた異形の質量が、必殺のライフルごと、ロボットの胴体を両断した。

『――Winner, しろっぷ』

 爆散するガリュードF2。

 同時に、クリサリスの尾も蒸発するように熱を失い、元のスマートな漆黒の機体へと戻っていく。

「あー、面白かった! こういう遊び方もあるんだね!」

 しろっぷは、ケロリとした声で笑った。

 だが、その無邪気な声とは裏腹に、損壊した機体の内部ログには、通常のシステム環境ではあり得ない致死的な負荷の記録が黒々と残り続けていた。

 敗北した真摯なキリンは、ポッドの中で深く、重い息を吐き出していた。

「……あんなデタラメな突破力、計算できるわけがない。ゲームのセオリーで測れる相手じゃねえ」

 だが、震えていた彼の拳は、ゆっくりと、しかし力強く握り直された。

「……いや。俺の対策の方向性は間違っていない。次だ。次は、あのアノマリーごと、もう一段深く縛り上げてやる」

 そして。

 この一部始終をモニターしていた男、『周 李龍ショウ・リーロン』の目には、明らかな『確信』が宿っていた。

「盤面をコントロールして選択肢を削るメタ構築。その解答は、敵の盤面すら逆利用する局所的な『深化』か」

 ショウは、ふっ、と自嘲するように笑った。

「……やはり、生半可な対策はすべて“餌”にされるだけだな。あの機体とパイロット、まだ底が見えないぞ」

 ショウの瞳が、獲物を定める捕食者のように鋭く細められる。

「……なら、盤面ではなく、その“異常”ごと直接へし折るしかないか」

 対策すらも進化の糧にする。

 その事実が、上位勢の間に、さらなる重い絶望と同時に、次なる激闘への確かな火種を植え付けた。


機体名:ガリュードF2

タイプ:ロボット型

HP:90

攻撃:340

防御:80

スピード:140

メイン武装:超高出力スナイパーライフル(140)

サブ武装:トラップキット(270)

総コスト:940 / 1000

余剰コスト:60

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