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首だけヤンデレアンドロイドは没落令嬢に首ったけ!  作者: 潮騒めもそ
もう一つの世界線

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第五話 〇〇しないと出られない密室

カクヨム版の転載になります。

レインに手伝ってもらいながらワンピースに着替えると、鏡に映った自分がいつもより華やかに見えた。


「とてもお似合いです、ミント様」


 レインの褒め言葉に、頬が熱くなる。

 心躍っている自分がいた。

「……ありがとう」


 こうしてミントはアンドレにお休みをもらって、レインとお出かけすることになった。


「アンドレ様、お休みを頂いて申し訳ありません。では出かけてきます」

「ミントさま、やっぱり僕も行くよ」

 アンドレが言うと、ミントの前に立ってレインがにっこり笑う。


「ミント様のことは私におまかせください。本日アンドレ様には大事なお仕事がございます」

 アンドレに渋々な様子で見送られながら、屋敷を出た。

 目的地は、首都郊外にあるMEMOSO牧場。

 レインが事前に調べたらしい。

 動物たちと触れ合えて、名物のソフトクリームが美味しいという。


「わあ……!」


 牧場に着くと、のどかな風景と青空が広がっていた。

 牛や羊、ヤギたちがのんびりと草を食んでいる。


「ようこそお越しくださいました! 餌やり体験はいかがですか?」

 スタッフが明るく声をかけてきた。

「はい、お願いします!」

 ミントが即答する。

 餌の入ったバケツを受け取ると、早速柵の近くへ向かった。

「どうぞ食べてね」

 ミントが餌を差し出すと、茶色い大きな牛がのそのそと近づいてくる。

 舌を伸ばして餌を舐め取る感触に、ミントは思わず「きゃっ」と声を上げた。

「くすぐったい……! でも可愛いわね!」

 レインはその様子を優しい目で見守っている。

 柵の向こうから、仔牛がひょこひょこと近づいてきた。

「わあ、可愛い……おいで」

 ミントがしゃがんで手を差し出すと、小さな舌がぺろりと指先を舐める。

「なんて可愛いの……!」

 笑い声が弾ける。

 身を乗り出した仔牛は顔を近づけ――ぺろ。

 少しざらりとした感触。

「ひゃっ!」

 頬まで舐められてしまい、ミントは真っ赤になる。

「ふふっ、だめよ……!」

 その様子を、レインは無言で見つめていた。

 表情は穏やかなのに、なぜか周囲の空気がひやりと冷たい。

「……ミント様」

「な、なに?」

「今の行為は、衛生面および安全面において推奨されません」

「そうかもだけど、こんなに可愛いし……」

 レインは一瞬だけ沈黙した。

「――私にも同様の行為を許可していただけますか」

「えっ!?」

 思わず変な声が出る。

「冗談ですよ」

 淡々と言いながらも、視線はミントの頬から離れない。

 そして牛に舐められた箇所をレインに丁寧に拭き取られた。

 その手の温もりがいつもより熱く感じられた。


「……可愛いのは、ミント様のほうです」

 低く落ちた声に、胸がどきんと鳴った。

 餌やりを終えた後、ミントたちも昼食を食べることに。

 レインが牧場特製のサンドウィッチを買ってきてくれた。

 焼きたてのパンに挟まれたハムとチーズ。

 かじると、ふんわりとバターの香りが広がる。


「美味しい……」


 添えられたクリームスープは、驚くほど濃厚なのに優しい味で、体の奥まで温かくなっていく。


「ミント様、牧場のソフトクリームが名物だそうです。デザートにいかがですか?」

「頂きたいわ!」

 ミントは即答した。

 売店で注文すると、白くて美しい曲線のソフトクリームが渡された。

 ミルクの味が口いっぱいに広がる。

 後味はすっきりしているので、いくらでも食べられそうだ。

「美味しい……! 牧場のソフトクリームって、やっぱり違うのね」

 ミントが幸せそうに頬張る。

 夢中で食べていると、レインが静かに近づいた。

「ミント様、口元にクリームが」

 指先が触れようとするけれど拭い取らず、そのまま止まった。

「……レイン?」

 次の瞬間。

 レインの顔が近づいて、ぬるりとした感触が走る。

「――っ!?」

 レインの舌がほんの一瞬、唇の端に触れて離れる。

 ミントは凍りついた。

「取れました」

 何事もなかったかのような声音。

「い、いま……なにを……!?」

「先ほど動物が行っていた方法を参考にしました」

 真顔で言う。

「だめだよ!!」

 顔が一気に熱くなる。

 レインは首をわずかに傾げた。

「不快でしたか」

「そ、そういう問題じゃなくて……!」

 言葉にならない。

「……ですが、私は少し満足しました」

 その呟きが、やけに近くて低くて。

 心臓がうるさい。

 ベンチに座ってソフトクリームを食べながら、ミントはぼんやりと牧場の景色を眺めた。

 穏やかな風が吹いて、遠くで牛たちが鳴いている。

 こんな平和な時間が、今の自分にあっても良いのだろうか。

「レイン」

「はい」

「あなた、無理していない?」

 ミントが真剣な顔でレインを見つめる。

「こんなに優しくて……私のことばかり考えてくれて……」

「ミント様」

 レインが穏やかに微笑む。

「私のミント様を守りたい、喜ばせたいという気持ちは――私の中で最も優先度の高い使命です」

「……そんなのいいから、レイン自身も大事にしてほしいわ」

 ミントは俯いた。

 この優しさが、プログラムによるものなのか、それとも――。

「ミント様、次は近くの植物園に行きませんか? 温室で珍しい熱帯の花々が見頃だそうです」

「行きたい!」

 ミントの目が輝く。



 植物園に到着すると、広大な敷地に様々な花壇が広がっていた。

 温室の扉をくぐった瞬間、むっとした熱気が包み込んだ。

「わあ……南国みたい。でも誰もいないなんて。貸し切りみたいね」

 レインは作り物のような笑顔を崩さないまま黙っている。

 色とりどりの花々。

 濃い緑の葉。

 甘い香りと湿った空気。

「この花は『夜の女王』と呼ばれていて、夜に咲くと強い芳香を放つそうです」

「へえ……レイン、物知りね」

「今朝調べました。ミント様が喜んでくださるように」

 その言葉に、胸がきゅっとなる。

 不意に、レインの足がもたつき、身体がふらりと揺れた。

「レイン?」

「問題……ありません……」

 声が遅い。

 額に触れると――熱い。

「全然大丈夫じゃない!」

 ミントが支えると、レインの体重がぐっとかかる。

「深夜の肉体労働の……影響が……」

「肉体労働?」

「色々です……」

「やっぱり無理をしていたのね……?」

 その瞬間。

 温室の扉がガシャンと音を立てて閉まった。

 表示パネルが赤く点灯する。

《非常時ロック作動》

「えっ……?」

 空調の音が唸りを上げ、温度表示が上昇していく。

「なにこれ……」

「……私が……無意識に……」

「もしかしてハッキングしたの!?」

 レインは答えず、苦しそうに息を吐く。

 温室の温度が急激に上がっていく。

 空気が重い。

 ミントの頬にも汗が滲み、首筋をつたう。

「レイン、しっかりして!」

 首元のポートを開き、端末を接続する。

 警告がいくつも表示された。

《CPU過熱》

《冷却機構限界》

《緊急停止推奨》

「緊急停止なんてしたらどうなるのかしら……」

 そのとき、レインがかすれた声で言った。

「……ミント様……方法が一つ……」

「なに!?」

「キスを……していただければ……」

 思考が停止した。

「え……?」

「体表温度差による冷却……および……情動回路の安定化……」

「こんな時に何言っているの! そんなのでたらめよね? ほんとにそれでいいの!?」

「理論上は……」

 アメジストの吸い込まれそうな瞳で見つめられる。

 苦しそうなのに、どこか期待しているみたいな。

 ミントの心臓が暴れ出す。

「……わ、わかったわ」

 震える手で、レインの顔に触れる。

 距離が近づき、息がかかる。

 薄い桜色の唇まであと少しのところで、

 「ドガシャァーーン!!」

 温室のガラス壁が思い切り粉々に砕けた。

「きゃあああ!?」

 巨大な影が突っ込んでくる。

 雄牛だった。

「ンモォーー!!」

 柵を壊して脱走してきたらしい。

 悠々と温室を横切り、突進しながら一周して自ら開けた大穴から走り去って行った。


 防犯の非常システムが作動し、係員が駆けつける。

 ミントは呆然と立ち尽くした。

 レインも、目をぱちぱちさせている。

「一体何だったの……!?」

 涼しい外気が温室の温度を下げていく。

 レインの熱暴走もおさまっていった。

「ミント様、続きは?」

「もう必要ないわよね!」

 顔が真っ赤になったまま叫んだ。

 レインは少し残念そうに目を伏せた。

「……牛の存在は想定外でした」

「はぁ……驚いたわ」

 ミントが溜息をついて頭を抱える。

「もう大丈夫そうね? ……帰りましょうか」

「はい、ミント様」

 二人は並んで温室を出た。

 色々あったけど、とても楽しいひとときだった。

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