第四話 もうひとつの世界線(カクヨム版第四話 執事アンドロイドとデートしませんか)
第三話からの分岐の別ルートになります。カクヨムで掲載しているものです。
翌朝ミントは、ぱちっと目が覚めた。
いつもより身体が軽くてすっきりとしている。
昨晩「入浴介助」と称してレインに全身を丁寧に洗われた上に、思い出すのも恥ずかしいマッサージを施されてしまったところまでは覚えているけれど……その後の記憶がない。
いつの間に着替えて眠ったの……何という屈辱。
「ミント様おはようございます。よく眠れたようですね」
昨日は何もありませんでした、みたいな普通の笑顔で挨拶するから頭に来る。
つい身構えてレインを睨みつけながら、顔などを洗って素早く身支度を整えた。
「ミント様、朝食の準備が整っております」
怒ろうとしたのに――レインが差し出したのは、完璧なテーブルセッティング。
大好きな甘いスフレパンケーキの隣にはふわとろのスクランブルエッグと程よく焦げ目のついたベーコンが添えられて、新鮮なフルーツとサラダ、淹れたての紅茶が整然と並ぶ。
朝から私の好きなものを用意してくれたの?
しかも、部屋を見回すと――床はピカピカ、窓も磨かれ、洗濯物まで畳まれている。
「アンドレ様に先に朝食をお出ししてから頂くわ」
「いえ、アンドレ様にはすでにお出ししました。今、お忙しいということで書斎で召し上がるそうです」
「えっ……!? アンドレ様にご挨拶したの?」
「はい。アンドレ様は私のことを探してくださっていたようです。執事アンドロイドとして再び快く受け入れてくださいました」
アンドレにレインのことがばれても大丈夫なのかな。
でもアンドレにいつまでも隠し通せる自信もなかったしこれで良かったのかも。
そして遠慮なくスフレパンケーキを頬張る。
「朝食、とても美味しい。……あなたの味、懐かしいわ」
ここまでされたら怒ろうにも怒れなくなっちゃったじゃない。
朝食の支度や掃除に至るまで、全てレインが済ませてくれていた。
怒りの矛先を完全に失ってしまった。
「ミント様、家事仕事は全て終わらせておきました」
レインが、にこりと微笑む。
「本当にありがとう」
「それでは食後の片付けが終わったら私と遊びましょう」
「……え?」
また思考が停止した。
「デートです。二人きりで、外出しましょう」
「ちょっと待って! なんでそうなるの!?」
「仕事が終わったので時間がたっぷりあります」
レインは当然のように答える。
「それとデートに何の関係が!?」
「ミント様を喜ばせるのが私の仕事ですから」
レインが一歩近づく。
「デート以外に、何かしたいことがありますか?」
「あるわよ! たくさん! 例えば、早く両親の冤罪を晴らすこととか! あなたの自己修復機能の調査とか!」
「それは私に全ておまかせください。今日はミント様の気分転換をしましょう」
レインの圧が妙に強くなってきている。
「あ、それと倫理コードの復旧とか!」
「かまいませんけど……今、ですか?」
「今すぐ!」
ミントが叫ぶ。
「レイン、あなた――絶対におかしいわ! 普通の執事アンドロイドは、主人をデートに誘わないの」
「……仕方ありませんね」
レインがおもむろに服を脱ぎ始める。
「えっ? 何で服を脱ぐのよ!?」
「倫理コードを修復なさるんでしょう? 私の倫理コードの急所はここですよ」
レインが少し顔を赤らめて甘い声色になり、指で指し示す。
「ちょっと! こんなところに……!」
ミントが頭を抱える。
「もう! 分かった! お出かけすれば良いんでしょ」
レインは、服を整えてすぐさま優雅にクローゼットを開けた。
「さあ、お出かけの準備を。お召しものはこちらをどうぞ」
レインが取り出したのは――可愛らしいワンピース。
少し前にミントが端末でネットショップを眺めていた時に、欲しいと思ったけれど、高くて諦めた服。
「これ……どうして持ってるの……?」
「ミント様が欲しがっていたので、購入しておきまた」
「いつの間に!?」
「昨夜ミント様の端末に接続した時です。最新のオンラインショッピングはとても便利なのですね」
いつの間に端末の履歴まで全てチェックされているなんて!
「一体お金も無いのにどうやって買ったの!!」
「その辺はご安心ください。私がこの完璧な身体で深夜の肉体労働をしたんです」
「えっ? それどういう……」
ミントのツッコミを許すまいとするようにすかさずレインは続ける。
「ミント様の服のサイズも入浴介助の時に完璧に把握しました。試着の必要もありません」
「わあああ!! もう思い出させないで!」
しかし――そのワンピースを見て、少しだけ心が揺れる。
とても可愛い……。
一度諦めた服が手に入るなんて。
「ミント様、お似合いになると思います」
レインの優しい声が沁みてくる。
「……でも、デートって……」
「嫌ですか?」
レインが、少しだけ寂しそうな顔をする。
「七年間、ミント様とお出かけできませんでした。一度だけ――お願いできませんか?」
その表情に――ミントの心が、ぐらりと揺れた。
そんなに私とデートしたかったの……?
「……レイン、たくさん無理してない? それで、どこにお出かけしたいの?」
「ありがとうございます! ミント様のお好きそうなところを調べたんです。私はミント様の愛で二十四時間働けます」
レインの顔が、ぱっと輝く。
その笑顔は――幼い頃、一緒に遊んだ時のレインそのものだった。
「じゃあ、着替えるから……あっ」
ミントが服を受け取ろうとした瞬間――。
レインの手が、ミントの服に伸びる。
「お着替えをお手伝いします」
「自分で着られるから!!」
「でもこの服はお手伝いしないと着づらいですよ」
背中にファスナーがついているタイプのワンピース。
確かに手伝ってもらった方が良いかも……。
「お、お願いしますっ……!」
ミントは顔を赤くして渋々頼んだ。




