表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/23

第22話 新しい日常

教室のドアを開けた瞬間、

いつも聞こえたあの笑い声が――なかった。


ガヤガヤとうるさいのに、自分の周囲だけが空白みたいに静かだった。






いじめてきた女子たちは、

明らかに顔を強張らせ、視線を逸らし、

目が合わないようにしていた。


何かに怯えている。







「……何これ」


日向は思わずつぶやいた。


これまで、椅子に画鋲を置かれたり、

教科書を隠されたり、

トイレで水をかけられたり――

そんな毎日が、“なかったこと”のように、止まっていた。







授業中も、誰も彼女にメモを投げつけてこない。

昼休みに一人で弁当を食べていても、

誰も後ろから笑い声をぶつけてこなかった。


いじめっ子の一人が、ちらりとこちらを見た。

その目は、恐怖と後悔の混じったような――

人間としての感情が、ようやく戻ってきたようだった。







日向はその視線から目を逸らした。

怒っても、睨んでもいない。


ただ、関わらない。それだけ。


「……ふしぎだな」


あんなに苦しかったのに。


“いじめがない”というだけで、

こんなに違うものなんだ――と、戸惑っていた。







胸の中の苦しさが消えている。


でもそれは、喜びというより、空白だった。


長い間抱えていた痛みが突然消えると、

人は“どうやって笑えばいいのか”もわからなくなる。


日向はただ、教室の窓の外を眺めた。


「……あの人がいてくれたから、私はここにいる」


心の中で、そっと呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ