07.俺が後輩に絡まれる話
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「俺はお前を許さない!」
そいつはとある日の昼休み、唐突に俺のいる教室に現れた。
勢いよくドアを開けてずかずかと入ってきた彼に、クラス中が視線を向ける。
「ねぇ、あの子って」
「噂のイケメン新入生じゃない?」
「ほんとだ! 東條寛貴くんよ!」
「年下だけどかっこいいわねぇ」
「はぁ、まったく女子達はすぐ色めきやがって」
「小生の方がイケメンでござろうになぁ」
「お前は今すぐ眼科へ行け! もしくは美的センスを磨け!」
ふむ、しかし、彼は一体誰に用があるというのだろうか。
クラスの誰もが騒ぎ立てるだけで、彼に寄りつこうとはしていない。
それに東條と言ったか?
あいつなんかすごい怒ってね?
きっと、それなりに関係の濃い人物に会いにきたのだろう。
「おいっ! 何黙ってるんだ! 工藤将馬、俺はお前に言ってるんだぞ!」
はい?
あいつ、いま俺の名前を呼んだのか?
俺あんなやつ全然知らないんだけど、初対面だし。
どういうことだ?
「しょーま先輩っ! ご飯食べに行きましょっ!」
と、そのタイミングで可奈がお弁当を持ってくる。
いつも来てもらうのは悪いのでこちらから出向くこともあるのだが、今日は先に来てくれたようだ。
「お、行くか」
ちょうど腹が減ったと思っていたので、俺は可奈と一緒に屋上へ向かおうとする。
「おい、ちょっと待て!」
と、教室を出ようとしたところで、東條とやらに肩を掴まれてしまった。
「あれ、先輩、東條くんと知り合いだったんですか?」
意外、というような顔で可奈が聞く。
「いや、さっき初めて見た」
だが、ほんとに知らないので、俺はそう言うしかない。
なんでこいつ俺にかまってくるんだ?
まったく思い当たる節がない。
いや、そういえば一つだけあったな。
「可奈、もう無理してそいつと一緒にいなくていいんだぞ。俺が守ってやるから!」
東條がそう言ったことで、やっぱりかーと確信する。
ようは嫉妬だ。
きっとこいつは可奈のことが好きなのだろう。
で、彼氏として可奈の教室に顔を出したりしてる俺が妬ましいのだ。
しかしこいつ、俺が無理やり可奈を連れ回してると勘違いしてないか?
恋は盲目というが、あまりにも見えてなさすぎるだろ。
うん、無視一択だな。
「可奈、こんなやつ放っといて行くぞー」
「じゃ、またねっ! 東條くんっ!」
え? と惚けている東條を置いて俺らは今度こそ屋上へと向かった。
「じゃーん!」
そして、なんとなくいつも座っている位置に腰を下ろすと、可奈がお弁当箱の蓋を開ける。
「今日は生姜焼きか。相変わらず美味しそうだ」
「えへへっ、召し上がれっ」
それからいつものように談笑しながら、可奈の作ってくれた弁当を食していく。
「いや、毎日毎日ほんとに美味いな」
「嬉しいですっ! でもお料理の練習でもあるので、わたしのためでもあるんですよ」
「それでも嬉しいよ。ありがとな、可奈」
割と真剣に食費払うぞと言うと、いいですいいですっと可奈が首を振る。
そんなこんなで時間が過ぎていった時、屋上の入り口がドンっと開かれた。
「こんなとこにいたのかっ!」
そう叫んで勢いよく現れたのは東條であった。
まったく、カップル達が馴れ合いの場として使ってる空間に慌ただしく入ってくるなよな。
少しは空気読め、まったく。
「東條くんっ! この前も言ったけどわたしは好きで先輩と一緒にいるんだよ? じゃましないでっ」
と、可奈も我慢の限界がきたのか、やや強めの口調で咎める。
だが、その言葉を聞いても東條が引き下がることはなかった。
「可奈、そいつの隣にいて怖いのは分かる。きっとそう言わざるを得ないんだろう。でももう大丈夫だ。俺がいる、安心していいぞ」
こいつ何言ってんだ?
心からそう思った。
頭いかれちゃってんじゃん。
余りにもイケメンだと脳みそがお花畑になっちまうのか?
とにかく、話が通じる相手じゃないようだ。
ならば付き合う必要はない。
ちょうど飯も食べ終わったしな。
「ごちそうさま」
「は、はい。お粗末様ですっ」
うん、じゃあ教室に戻りますか。
俺らは1人で熱くなっている東條を無視して、屋上から去っていった。
「おい! ちょっと待て!」
慌てて東條が追いかけてくるが、もうすぐ次の授業始まるぞーと言うと、酷く悔しそうな顔をして自分の教室がある方へと消えていった。
しかし、東條寛貴か。
あんなんでも一年生の女子達の間では、それはもう絶大な人気があるらしい。
可奈が同級生の女子から妬まれてるのも、東條があからさまに可奈に惚れてるってのが1番の原因なんだろうな。
なんとかしなきゃ、かぁ。
まぁ、しばらく様子見てみてもいいけどな。
流石に自分がおかしいと気づくだろうし。
ただ、もしお花畑のまま治らなかったら、対話だけでは対処のしようがない。
俺は授業をよそに、今後起こりうる事態についてそれなりに想定しておくのだった。