08.俺と後輩と兄の話
「おいっ! 今日こそは俺の……ってちょっと待て!」
2年B組の教室では、もはや日常と化した、東條の登場。
だが、俺は可奈の教室へ行こうと思い、スルーして通り過ぎてしまった。
「東條くん、これで何回目よ?」
「さぁ、少なくとも1週間以上はあんな感じよね」
「工藤くんも一回くらい話聞いてあげれば良いのに……」
「もはや誰も驚かなくなったよな」
「小生の魅力に気づいて東條とやらに興味をなくしただけでござろう」
「お前まだ病院行ってなかったのかよ」
「それにしてもあいつ、可奈ちゃんどうこうより、工藤に相手してもらうことが目的になってきてないか?」
あの日以降、東條は毎日のように俺の教室へ来ては、「可奈と別れろ」的なことを言ってきたのだが、俺は話にならないと思い、全て無視していた。
そしたら、何故だろう。
クラスの誰かが言ったように、段々、東條も何のためにここに来ているのか分からなくなってきたらしい。
最近では、可奈のことではなく、ただ、「俺の話を聞け」と言ってくるのだ。
「熱い展開になってきたわね」
「執筆活動が捗って仕方ないわ」
なんか一部の女子達も盛り上がってるみたいだし。
そろそろ、無意味だと悟ってくれると嬉しいんだがな……。
「しょーま先輩、東條くんに変なことされてませんか……?」
「まぁ、変なことはされてるが……」
東條から逃げてきた俺は、可奈と昼食を食べていた。
今日は雨が降っているため、可奈の教室で席を借りている。
可奈のクラスメイトからの視線が痛いと言えば痛いのだが、東條の噂が良い意味で広まっているのだろう。
俺に突っかかってくる男子はいなかった。
「その、ごめんなさいっ。わたしのせいで迷惑かけちゃってっ」
「なに言ってんだ可奈のせいじゃないだろ。それにそもそも嫌なことはされてない。気にすんな」
「それなら、よかったですっ」
と、いつものような会話をしていると、女子の集団が
やってきて、可奈に話しかけてきた。
あれはたしか、井坂とかいう名前だったか。
可奈を体育倉庫に連れて行ったあの女子生徒だ。
「あら、相変わらず冴えない彼氏を連れてるのね」
「可奈だっさ〜い!」
「それな!」
なんなんだよこいつら。
嫌味を言うためだけに来たのかよ。
暇だなー。
俺は東條のように適当に流せば良いかと思ったのだが……
「れいかちゃん、わたしの悪口言うのは良いけど、先輩のこと悪く言うのはやめてっ!」
どうやら、可奈は耐えきれなかったようだ。
珍しく強い口調でそう言う。
「は? なにマジになってんのこっわーい!」
けれども、井坂達には響かなかったらしい。
謝ることもないまま、立ち去ってしまった。
「なんか、ごめんな」
俺は怒ってくれた可奈に謝る。
そんな俺に可奈は「わたしが許せなかっただけですからっ」と言っていたが、どことなく悲しそうな顔をしたままだった。
それにしても、冴えない彼氏、か。
琴瑚にも言われたし、髪、切ろうかな。
そしたら、少しは可奈の隣にいても恥ずかしくない見た目になるだろうか。
ふと、そんなことを考えた。
その時だった。
「ここにいたのか!」
俺を探していたのか、東條がやや息を荒げて教室に入ってきた。
「寛貴くん! どうしたの!」
「きゃ〜、相変わらずカッコいい〜!」
「ほんとね!」
と、腐ってもイケメン。
教室へ入るとともに、井坂達を含む女子達に囲まれていた。
「お、お前ら……!」
東條は群れる女子達に困惑しているものの、流石に強くは出られないらしい。
俺はこの隙にと、可奈に「ごちそうさま」だけ告げて2-Bの教室へと戻って行った。
なんか最近人との関わりが増えた気がするな。
1人、廊下を歩きながらそんなことを思う。
まぁ、悪いことでもないか。
とりあえず、髪を切ることだけは頭に留めておこう。
そう思い、俺は自分の教室へと入っていった。
そして授業も終わり放課後。
可奈と別れた後、俺は予定通り散髪を終えてから帰宅する。
「お、髪切ったんだ」
部屋に入ると、双子の兄からそう声をかけられた。
彼の名は工藤啓馬。
実家の同じ部屋で過ごしている、友達と兄弟の中間的な存在だ。
ちなみに、顔と背格好はほぼ同じ。
幼い頃は地域のお婆ちゃん達から双子の天使ちゃんなんて言われてたそうだ。
「まぁ、な」
返事だけして、ベッドに倒れ込む。
啓馬とは中学まで一緒だったのだが、高校は別のところに通っている。
共通の話題もそんなにないためか、最近では話す量も減っていた。
かといって、仲が悪いわけではないのだが。
「飯、作っといたから好きな時食えよ」
「ん、ありがと」
そういえば今日は母親の帰りが遅くなるって言ってたな。
啓馬が代わりに夕食を作ってくれたらしい。
まったく、できる兄だ。
前に自分のことを万能ではなく器用貧乏だと評価したが、啓馬はまさしく万能。
優秀な兄で鼻が高いが、その裏、劣等感を感じていることは否定できなかった。
まぁ、でも啓馬は何故か彼女できないからな。
その点だけは、例え偽物だとしても彼女のいる俺の方が勝っているかも、と思った。
可奈、髪切ったのカッコいいって言ってくれるといいな。
女々しくも、そんなことを考えながら俺は眠りにつくのだった。
「ええ! 工藤くんってこんな顔してたっけ?」
「髪切ったらイケメン、なんてほんとにあるんだ!」
「工藤、うそだろ……」
「小生に迫るくらいの男前でござるな」
「……もうツッコまないぞ俺は」
「しょーま先輩っ! 元からカッコいいとは思ってましたけど、その髪型も素敵ですっ!」
そして翌日、俺は予想以上の反響を浴びるのであった。




