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異世界からのスカウト ~光と闇の狭間に立つ英雄~  作者: 城下雪美
2章 下級貴族:アイリーシア家の過去 (18話~46話)
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姉妹の復讐劇3

城内への出入りを管理する大事な仕事、門番兵。

とはいえ平時にはそんなに緊迫するほどのことは起きないので意外と緩いものとして書いています。

(都市内の出入り口は常時厳しいですが)

クエスの一方的な復讐の前のちょっとした幕間といった感じの話です。


城内に単身で乗り込んでいく姉を見送った後、ミントはまず兵士の装備をすべて剥ぎ取り1セットだけ自分で装備して

残りは門の横にある監視所の裏に捨てておく。そして門を閉じ1人門番係の兵士として門の前に立っていた。


門兵としてここに残るのは、万が一ターゲットが逃げようとしたときここで仕留めるためだ。

もちろん裏門などもあるので完璧な策ではないが、姉を単独犯と判断して逃げるなら大勢で貴重品などを持って馬車で逃げることのできる正門からだろう。


それにクエスの行動に気づかないうちに偶然城を出るにしても、普通は一番大きい正門からしか出入りしないはずなのでここを押さえておけば漏れはほぼ無いと判断した。

ミントの本音ではクエスと共に行動し得意の幻術系でサポートしたかったのだが、他にこの重要な場所を任せられる仲間がいなかったのでこうするしかなかった。


兵士の死体に関しては、兵士が魔力体のためしばらくすれば死亡した肉体は魔力に変わり、大半は魔石に変化して残りは魔力となって霧散する。

そのため特別な処理は不要と判断して、死体は監視所の裏に適当に積んでおいた。



門の前に立ってからミントは詠唱を始める。姉の援護ということであらかじめ決めていた段取りだ。


詠唱がほぼ完了するとミントは門から城の入り口の庭まで走りその前方の城内に向かって300mの範囲を対象にし<認識阻害>の魔法を使う。

一定レベルの夢属性の魔法に対して認識を阻害する魔法だ。

そしてその後、追加の魔法を唱えようと詠唱していた時左の遠方から馬車の音が聞こえた。


ミントは冷静に魔法をストック(詠唱途中で保持)し急いで正門に戻ると門番兵の役割を演じるため門の前に立ったまま馬車を待つ。

立派な装飾を付けた馬が3頭、やけに大きな馬車を引いている。


馬車は外見がとても豪華で全く揺れずに近づいてくる。

馬車自体に振動を軽減する何らかの魔法か、車輪を少し浮かし空気の上を走らせる魔法でも使っているのだろう。


そもそもこの世界には馬を使わずとも魔力で自走できる車両が既にあるのだが、馬の装飾も含めた見た目の豪華さを自慢したい貴族が多いせいか、いまだに馬車がよく使われているのだ。



「その馬車を指揮されている方、申し訳ありませんが馬車をお止めください。この時間はもう閉門しております」

ミントは門番係として馬車を止め話を聞こうとする。


「この馬車は中級貴族の第4王子、ドルス・モントシアール様が乗っておられる。早く門を開けろ」

怒鳴るように馬車を操作している兵士が命令してくる。ミントは一瞬門兵役であることを忘れて少しイラっとした。


問題なければ部外者はさっさと退場してほしいのでこの馬車は素通りさせたいところだが

万が一今回の標的がこの馬車に乗っているとなると、ここで全員を倒さなければならない。


もちろんリスクは大きいが今回の標的だけは何が何でも一度に仕留めるつもりなので確認せざるを得ない。

いったん逃がしてしまうと、家の消滅を避けられるだけでなく警備が厳重になり手を出せなくなる可能性が高いからだ。


「失礼ですがその馬車には第4王子のドルス様だけが乗っておられるのでしょうか?」

ミントは怒鳴る兵士に向かってやや控えめに尋ねてみる。だが護衛の兵士たちはとても不満そうだ。


「貴様、たかが門兵の分際で我々を疑うとは…名を名乗れ!我らの王子の友人であるこの国の第4王子ルン様に報告してやるぞ」



怒鳴られているがミントも譲る気はない。だがすぐに暴れるわけにもいかないので丁寧に対応する。

まだ妨害工作もやっていないうちに彼らと戦うと、城内の大勢の兵士に知られてしまう可能性が高いからだ。

そうなれば今回の目的が失敗するどころか、姉のクエスの身に大きな危険が及んでしまう。


「申し訳ありません。ですが門兵は閉門後にどういった方が城門を出られたのか詳細に記録する役目があるのです。何卒ご理解願います」


「だから第4王子ドルス様だけだと言っているだろうが」

「それならば、誠に申し訳ないのですが馬車の中を確認させていただけないでしょうか?」


ミントもしつこく食い下がる。

はいわかりましたで、標的を逃がせばリスクを負って単身で乗り込んだ姉に申し訳が立たない。


その態度に腹を立てたのかドルスの馬車の外側にいた兵士が2名剣を手に取りミントに向けた。

「貴様、失礼にもほどがあるぞ」「ふざけているのならこの場で始末してやるぞ」

そう怒鳴ると、護衛の兵士が馬車を降りミントに近付いてくる。


(これは始末するしかないか……まいったなぁ)

部外者はできるだけ巻き込むまいと考えていたが仕方がないと思い、ミントが攻撃の姿勢を取ろうとしたとき馬車の扉が開いた。


「おいおい、何事だ?馬車が進まないと思ったら何をやっているんだ?」


ドルスと思しき人物が緊迫した状況の中を平然とした態度で割って入る。

馬車の周囲にいた兵士たちは威勢を崩されて少し困惑している。

だがミントには思ったより穏やかな人物が出てきたので、正直救われた形になった。


「あ、いえ、門を開けろと言ったところ、この衛兵が馬車の中を確認させろなどと失礼なことをことを言い出すもので…」

上司の突然の割り込みに護衛の兵士たちはさっきまでの威勢を隠し丁寧に説明しだした。


「なんだそんなことか。この間ここの女中を勝手に持って帰ったからな、警戒されていても無理はないさ」


平然とした態度で笑いながらとんでもないことを言いのける王子。

兵士は反論もできず何人かは口を開けっぱなしにしている。

ミントは顔では平静を装っていたが、内心侮蔑していた。


「構わないさ、どうぞ馬車の中を確認してくれ」


ドルスが馬車から降りてそう言うとミントは遠慮なく馬車の中を確認する。

外見がかなり大きい馬車だったためどういう内装なのかと気になっていたが、中を覗き込むとミントは驚いた。


誰もいない大きなベッドとその横に小さなテーブル。そこにはグラスが置かれて酒がグラスを満たしていた。

馬車内はすべて赤い絨毯が敷いてあり高級な一室といった感じだ。


(護衛の兵士が6人も外に配置できる構造になってて変だと思ったけど……何これ、すごい)

ミントは呆れつつも中に誰もいないことを確認してタラップを降りる。


「申し訳ありませんでした。中に誰もいないことを確認できましたので急ぎ開門いたします」

そういって開門作業に移ろうと背中を向け走ろうとするとドルス王子に呼び止められる。


「あぁ、待ってくれ」


「君は閉門後の警備よりもっといい仕事に付きたくないか?どうだね、私も近衛兵を務めるのは。君のようなお嬢さんならいつでも歓迎だよ」


(こいつは何を言っているんだ、今あんたは邪魔だから早く追い出したいんだけど)

ミントはそう思いながらも表情には出さない。


「申し訳ありません。私はこの仕事を大切にしておりますのでお気持ちだけ頂いておきます」


ミントは丁重にお断りすると、さっさとこの王子とやらを追い出すためにも門を開けた。

ドルスはなんで俺の誘いを断るのかね?と言わんばかりの不思議そうな呆れた表情をするがそれ以上は誘いをかけなかった。


「どうぞ、お通り下さい」

そう兵士に告げるころにはドルスはすでに馬車の中に入ったらしく、これ以上顔を合わすことなく去っていった。



正門を出て転移門に急ぐ馬車の中で護衛隊長の兵士がドルスに尋ねる。


「あの衛兵、今日は1人でしたな。普段は4~6人はいたかと思いますが」


「他のはさぼってあの子に押し付けているのだろう。なかなかの美貌だし俺の近衛兵として愛でたいところだ。

 今回は悪印象を避けるためにもすぐに引いたが、次はからめ手でも使って強く迫ってみるか」

「は、はぁ……」


ドルスが何も気にしていないので、護衛隊長もこれ以上は気にすることはやめた。

彼らは幸運にも、悲劇の前触れに何一つ気付くことなく立ち去ってしまった。



「少し予定より遅れたかな……まだ<認識阻害>の効果は残っているよね」

そうミントがつぶやきながら再び城の入り口まで向かい、先ほどストックした魔法の続きを詠唱し魔力を形作った。


10秒ほどして先ほど同じ城内に向けて再び300m範囲に<聴覚阻害>の魔法を使う。

クエスから聞いてはいたので城内には味方してくれる兵士もいることは知っているが、クエスもミントもあまり当てにしていない。

そのため遠慮なく情報伝達を遅らせる<聴覚阻害>を使ったのだった。


「クエスお姉ちゃん、無事でいてね……」

そう願いつつミントは再び門の正面に立ち門番のふりを続けた。


いつもいつも読んでくださる方々、本当にありがとうございます。

更新も可能な限り早くすることを意識して頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。

ブクマや評価も可能でしたらお願いします。とても励みになりますので~


魔法紹介

<認識阻害>夢:LV20以下の夢属性の魔法に対する感知を阻害する。この魔法も非常に感知しにくい。

<聴覚阻害>夢:聴覚のある生物は障害物の向こう側の音や不特定多数に向けた音が聞こえづらくなる。自分に向けた近くで話した声は普通に聞こえるため、魔法を受けたことに気付きにくい。


修正履歴

19/02/01 改行追加

20/07/19 タイトル変更・誤字修正

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