スーパーに芽吹く具材の話
月曜日のおでんパーティーに向けて、ちょっといいスーパーへ具材を買いに行った。
おでんの決め手は出汁。間違いない。
私にはお気に入りの出汁がある。
それは、ある製麺メーカーのおでん出汁だ。鍋焼きうどんなどで有名なメーカーなのだけど、そこの出汁は関西出汁特有のみりん風味な甘味とカツオの塩味が合わさって、絶品だ。
それのおでん出汁。不味いわけがない。
私はお気に入りのメーカーのおでん出汁を手に取った。私の手先の出汁を見たおばさんたちが、
「そうそう! おでんには練り物よね。かさ増しにもなるしいい出汁出るし!」
「大根も安いしねぇ」
「放り込むだけで楽だものね」
と、井戸端会議をしていた。
私はそれを少しだけ意識して聞いてしまった。練り物でかさ増ししたおでんは、手抜きなのだろうか。
(人を招くのだから、豪華なおでんを作りたいな)
しかも相手は外国人。
ここはメシのうまい国、ジャパンだぞ!
……という、謎の見栄もある。
(豪華なおでんとは)
考えてみると、出汁は良いものだけど、大根は1本150円で竹輪は高くても5本入りで170円。薩摩揚は1袋で500円もしない。卵だって高いので4個入りが300円程度。
いいスーパーって言っても、意外と野菜とか練り物とかは安く置いている。
唯一高いのはブランド物の牛すじだけ。でもユナ先輩は嫌いみたいだから入れないようにしよう。
あらら?
とても、リーズナブルになってしまった。
(そもそも、おでんを『ご馳走する』という発想がおかしかったのかな)
スーパー内でカートのタイヤと思考をグルグルさせていると、精肉コーナーに行き着いた。私はコンビニのおでんを思い出す。
(そうだ! ロールキャベツやウインナーも、おでんの具材なんだ!)
市販のロールキャベツもあったけど、私は一からつくることにした。
ミンチとキャベツ1玉とニンジンとタマネギとコンソメスープのもとと……気合を入れて材料をカゴに詰め込む。パンパンになった。
レジに並んで、精算ボタンを押し商品をスキャンしていく。出てきた金額に目が飛び出しそうになった。
(え、こんなするの!?)
手持ちのお金が足りなかったからクレジットで支払う。ごめん、来月の私。でも、ここは見栄を張らせてほしい。ユナ先輩とラヴィさんに美味しいおでんを食べてほしいから。
清水あいか。おもてなし精神で、ゆきます!
(へへ。いっぱい……買っちゃった)
暗い道を、レジ袋をガサガサ鳴らしながらアパートへ帰った。
「ぜんぶ入るかなぁ……コレ」
始まる冷蔵庫との格闘。おまけに買った3つのシュークリームも、まぁまぁ場所を取る。何とか全部入れられた。気付けば夜の9時になっていた。
そこで、少しだけ不安に思う。
「ホントに、来てくれるのかな」
今更なのだが、日本人の『行けたら行く』と同様に社交辞令として受け取られていただけかもしれない……。
(だとしたらとんだ勘違いだ)
ユナ先輩とラヴィさんの連絡先を携帯で確認した。ほんの少しの勇気。連絡をSMSで入れてみる。
〈あいかです。おでんパーティー、楽しみにしていてくださいね!〉
ジッと画面を眺めていると5分ほどで返信が1通だけ来た。ユナ先輩からだ。
〈もちろん! そっちこそ、楽しみにしていて!〉
短いけれど、期待してしまう文面が嬉しかった。ラヴィさんからの返信は来なかったけれど、既読はついていた。少なくとも、ユナ先輩は来てくれると思う。
(もしラヴィさんが来なかったらシュークリームは半分こしよう)
なんて。
ちょっと可愛いことを考えながら、化粧を落としてベットへ入り込む。ミノムシみたいに布団をかぶり、さまざまな感情を抱いた。
ひと言で表すなら、ドキドキする。
今日を眠れば、おでんパーティーまであと2日。楽しみだ。
「明日はお母さんに電話しよう」
人を招くときのマナーとか美味しいおでんの作り方を聞かなくちゃ!




