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第10話 建国祭(フィナーレ)

 建国祭のパーティーは王宮で最も格式高い広間で開催される。


 王宮は準備でごった返していることだろう。オリブリュス公爵家も例にもれずこの日は朝から屋敷中が忙しかった。リティアのドレスは決まっていた。アン女王から送られたものを披露も兼ねて着る予定にしていた。リティアの事はミリーがいつも以上に口うるさくが仕切っている。


 リティアは掛けられたドレスをぼんやりと眺めていた。ヴェルターがこちらに訪問した際に着るって言ってたのにそれも叶わなかった。ちょうど良かったのかもしれない。ヴェルターが来るとはいえ、自分の屋敷で着るのは大仰だったかもしれない。今日着るのが正解だ。アンがヴェルターの横に並ぶのを想定して贈ってくれたドレスは艶やかな真珠色。光の加減で黒味を帯びたり、白く輝いたりする。その色艶のあり様もヴェルターの髪と同じだった。


「そうなると、このドレスも二度と着られないのね……」


 リティアはしばらく自分の感情と向き合う人必要があった。


「リティア様! ぼーっとなさるならこちらでされていただけますか。ここ、この鏡の前の椅子にお座りになって」


 とりあえず、自分の感情と向き合うのは今では無いらしい。リティアはミリーに従って鏡の前でぼーっとすることにした。グイ、グイ頭が右へ左へ引っ張られたが、ぼーっとやり過ごした。


 完成した姿を映した鏡には何とも言えない顔のリティアが映ってた。

「どうですか、お嬢様。今日も完璧ですわね。ただラゥルウントの王女様より頂いたこのドレスは座るとしわになりやすいとても繊細な生地を使われています。更に皺が出来てしまえば目立つデザインです」


 リティアはミリーが何を言いたいか悟り

「わかったわ。なるべく立って過ごすか、座った後は壁際に立っていることにするわ」

 ミリーが満足そうに頷く。

「身体のラインが出やすくもあります」

「……はい。あまり食べないように気を付けるわね」


 リティアはコルセットのないドレスは着心地が良く浮かれていたが、結局食べられないのかとがっかりした。こんな心情でも食べることを考えている自分にもがっかりする。ミリーはまだ何か言いたそうだったが、誰かに呼ばれてバタバタとリティアの部屋を出て行った。かといって一人になれるわけでもなく、リティアはメイドたちに身を任せた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 

 広い会場に、多くの貴族が集っていた。各国の来賓が紹介とともに入場する。リティアはパートナーであるヴェルターと入場することになっている 。――少し前、打ち合わせのために二人は顔を合わせることになった。ヴェルターの衣装は濃紺で統一されていて、クラヴァットとチーフがリティアのドレスの色と合わせられていた。正確には、クラヴァットとチーフとヴェルターの髪、だ。


 ヴェルターは何も言わずリティアに慣れた微笑みを向けた。リティアも微笑み返した。色々な気持ちが交差する。二人にとってお互いは物心ついた時からパートナーだった。二人並ぶ姿を大人たちは微笑ましく見ていた。不安で繋いだ手はこの日のように温かかった。


 ドアが開け放たれ中からまばゆい光がヴェルターの髪を輝かせた。こうやって少し後ろからヴェルターの髪を眺めることもないのか、とリティアは胸に刻もうといつもよりしっかりと見つめた。


「リティ、行こう」

 ヴェルターは歩き始める時、リティアを気遣って必ず声を掛ける。ヴェルターもまた振り返ったリティアの光に照らされた顔がいつもより眩しく感じ目を細めた。

 二人が入るとざわざわとした会場に喝采が起こった。


 リティアは自分の状況を受け止め、軽々しく建国祭で婚約破棄をしてくれたらいいのになどと思ったことを恥じた。今、この人数の前でそんなことをされれば、政治的に正当な理由があろうとも笑ってはいられない状況になっただろう。それはリティアだけでなく父であるオリブリュス公爵も、王室も批判を受けるだろう。だが、ヴェルターはそれを汲んだのではなく、リティアの気持ちを一番に考えてくれたのだ。ヴェルターがこんな人だということ、どうして忘れていられたのか。浅はかさを心から恥じ、自己嫌悪に陥っていた。


「大丈夫? 」

 リティアはこんな時にまでいち早く自分の気分に気づき気遣うヴェルターに、胸が痛んだ。


「ごめんなさい。今までの事が思い出されて、……すこし浸ってしまったの」


 ヴェルターは少し上げていた口角を下げ真一文字に結んだ。ヴェルターも同じ気持ちだった。これが最後かと思うとこの時間が永遠に続けばいいとさえ思った。


「君を傷つける者は誰であっても許さない。誰にも何も言わせない。君は気にせず幸せになればいい。……もちろん、きっと、彼が守ってくれるだろうと思うから僕は出る幕がないのかもしれないけど」

 ヴェルターは力なく笑った。


「……彼って? 」


 リティアは父の公爵のことだろうかと思ったが、ヴェルターが父を“彼”などと呼ぶことがあっただろうか。わぁ、と歓声に顔を向けると、各国の来賓たちが順に登場した。特に、初めて姿を見せるラゥルウントの一行は圧巻の華やかさがあった。息を吞むほど美しい王と、たくさんの子どもたち、続いて先日アデルモが案内していた綺麗な女性たち。


 リティアは、その状況に疑問を感じた。……これは、どういうことだろうか。あの方は一体……。

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