おまけ 第七十三話 浄化の泉
ニコラス視点
リリアがどうしても浄化の泉に寄りたいというので、立ち寄ることにした。
浄化の泉は聖属性。正反対の闇属性のセノンにどんな影響があるかわからないので馬車で留守番させた。
神具を守る村の近くにあると言われているので、村の近くで馬車を止めさせた。
ふらふらと歩き出すリリアの後を追っていく。
人の気配もないし大丈夫だろう。
だんだん嫌な感じがしてきた。自分の体に風の結界をはる。浄化の泉があるなら聖属性の魔力が溢れているかもしれない。合わない魔力が体に注がれるのは不快感がでる。
リリアは何も違和感がなさそう。泉が見えてきたな。
リリアがローブを脱いでるけど、まさか、
「リリア、やめろ」
遅かった。あのバカは泉に飛び込んだ。
泳ぐの好きなんだよな。最近、不自由な生活させてたし少しだけならいいか。
しばらくしても、リリアは上がってこなかった。
まさか溺れてる?ローブを脱いで泉に飛び込んだ。
中を泳いで探すけどみつからない。
一度水面に上がって、思いっきり息を吸ってまた潜った。
丸まってる物体に嫌な予感がした。
案の定、意識を失ってるリリアを連れて泉からあがった。
草の上に寝かせると息はしていた。寝てるだけかと安堵した。
ただよく見るとリリアの体が光っていた。
昔、上皇様が魔力があふれると目に見えると言っていたことを思い出した。
リリアの手を握って魔力を放出させようにも意識がないから無理だった。
「リリア、起きて」
肩を揺すっても全然起きない。一つ方法はあるんだけど、さすがに躊躇った。でも過度な魔力は体に毒である。
周りには誰もいないことを確認した。
非常事態だから、そう、下心はない。
リリアの顔に手を当てて、深く口づけ魔力を同調させて吸い出す。
「んっつ」
まだ体の光は消えないか。上級魔法をいくつか使って魔力を消費する。またリリアに口づけて魔力を吸い出す。魔力にだけ集中しないと。わかってるけど、余計なことは考えるな。自制しないと。寝込みを襲うなんて騎士道に反する。
リリアからあふれ出る光がようやく消えて心底安堵のため息をこぼした。
さすがにこれ以上は俺がまずい。婚姻前に手を出すわけにはいかない。下心なんてない。俺は誰に言い訳してるんだよ。柔らかかったとか俺は変態かよ。切り替えないと。
「んぅ」
起きたらどんな反応するんだろうか。いや、これは墓まで持ってく。泣かれたら挫ける。拒絶されたら立ち直れる自信ない。
浄化の泉に飛び込んだけど煩悩や下心は浄化してくれないらしい。悶々としている場合じゃないな。泉からあがって、風魔法で服を乾かす。
「リリア、起きろ、リリア」
肩を揺らすとリリアがぼんやりと見つめてきた。煩悩退散。かわいい。
「ニコラス?」
リリアに負けないように真面目な顔を作る。
「泉に飛び込むな。そして寝るな」
「なんか気持ちが良くて、もう少しだけ」
えへへと笑うリリアが可愛いけど負けたら駄目だ。
「駄目だ。魔力が溢れてるから魔石を幾つか作って放出しろ。魔力酔いおこすよ」
「魔力あげます」
両手を伸ばすリリアを抱きたいのをぐっとこらえて首を横に振る。頼むから誘惑しないで・・。
「いらない。もう充分」
「なんでそんなに顔赤いんですか?治癒魔法かけますよ」
お前の所為だとは言えない。
「気にするな。純度の高い魔石をさっさと作れ」
リリアが起き上がって魔石を作り出した。
こんなもんで大丈夫かな。
「リリア、もういい。」
リリアが魔石を作るのをやめて見つめてきた。目をそらしたいけど、そらしたら誤解を招きそうで必死に平静を装う。
「ニコラスも泉に入りました?」
「どっかのバカが上がってこないからな。今度、水に飛び込んだら、レトラ侯爵夫人に言うからな」
「泉の中で息もできたし、気持ち良くて」
「俺がいなきゃ死んでいたからな。リリアの体が泉の魔力を吸って、魔力が膨れ上がって、体が弾けた」
「え?ニコラスは大丈夫ですか?」
軽いな・・。大げさに言ったけど、もう少し危機感持ってほしい。たぶん気になってることがあるな。リリアは気になることがあると他の言葉は全て聞き流す悪癖がある。
これは後で言い聞かす。説教は帰ってからでいいや。
「俺は聖属性持ってないから、普通の泉と変わらない」
「え?浄化の泉なのに?」
「どこまで本当かわからないけど、リリアには毒の泉だよ」
「ニコラス、何か変わりませんか?」
「リリアのバカに頭が痛いくらい。2回溺れたんだから泳ぐのもうやめろよ」
なぜかがっかりした顔をしたリリアを睨みつける。
「当分は控えます」
当分って。俺が見てればいいか・・。
「絶対に一人で飛び込むなよ。泳げても水の中で寝るのは溺れたというんだよ」
「ごめんなさい。」
「わかればいい。馬車に戻るよ」
「わかりました」
手を差し出すとためらうことなく手を重ねるリリアに安心する。
顔を見るとまた顔が赤くなるので、リリアの歩調に合わせて手を引きながら馬車を目指す。
ディーンに会う前に調子を戻さないと。
「お帰りなさい。どうでした?」
「ディーン、浄化の泉は偽物でした。泉は気持ちが良くてもなにも効果ありませんでした」
「お嬢様はなにを期待してたんですか」
「内緒です」
リリアが俺を見てるのって、あいつまたバカなこと考えてたんじゃ。
「リリア、何を隠した?」
「内緒。ニコラス、食事にしましょう。お腹へりました。それに眠いからはやく休みたい」
「もうすぐ村だけど」
「挨拶は明日にしたい。今日は体がつらい」
「野営でいい?」
「うん」
確かにあれだけ魔力使えば疲れるか。
きっとリリアは村に着いたら動き回るからな
「坊ちゃん、俺が準備するんでお嬢様お願いします。」
「わかった。頼むよ」
リリアを馬車に連れて、携帯食を渡す。食べ終わるとリリアがうとうとしはじめた。
「お兄様」
リリアが俺の膝の上に座って抱きついてきた。
「おかえりなさい」
リリアが頬に口づけてきたけど、ノエルと間違えられてる?
リリアを見るとスヤスヤと眠っている。
昔から思ってたけど、ノエル、リリアに何をやらせてんの?
もう抱っこする年じゃないだろう。
義姉上に相談したほうがいいだろうか・・。
「坊ちゃん、役得ですね。準備できましたがどうします?」
「うるさい」
眠っているリリアを抱き上げて移動する。セノンは勝手についてくる。
テントに入って寝かせようとすると俺の服を掴んでいる。
「おにいさま、リリーは・・」
ニヤニヤしているディーンと俺をノエルと間違えているリリアに頭が痛くなる。
結局リリアの手を振り解けずにそのままリリアと眠ろうとしたけど、全然寝付けなかった。
浄化の泉にいって俺はこんなに煩悩まみれになってるってどうなんだろう。
俺の気も知らないで無邪気に眠ってるリリアに悪戯でもしようかと思うけどやめた。
翌朝、目を醒ましたリリアに治癒魔法をかけられた。
目覚めた時に俺の服を握っていたことに気付いたリリアはお兄様と間違えましたとすがすがしい顔で言いやがった。
俺は全く男として意識されてないことに嘆けばいいんだろうか・・・。
まぁリリアの様子に気が抜けて、普通に顔が見れるし調子が戻ったからいいか。




