第三十七話 神獣2
目を開けると寝室でした。
私は、倒れたんだ。見るとセノンがどこにもいません。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「セノン、ディーン、セノンが」
「お嬢様、落ち着いてください」
「セノン、守れなかった。また痛い思いをしてる。あんなに怖がって、セノンが食べられちゃう」
「お嬢様、どうにもならないことがあるんです」
ベッドから立ち上がろうとするのをディーンに押さえつけられます。
「嫌です。セノンを助けないと」
「お嬢様」
「離してください。命令です」
ディーンが離してくれません。邪魔するなら、仕方ありません。
風に祈りを、
「痛っ!!」
「お嬢様!!」
右腕が痛い。魔法がつむげない。痛みをこらえても、魔力を纏えない、
「う、う、魔法が、なんで。セノン、」
詠唱なら
「わ、れねがう、か、ぜ、あぁぁ」
涙が止まらない。泣いてる場合じゃないのに、小さくて暖かくて可愛いセノンが食べられちゃう。
右腕に巻かれている包帯をとると黒く腫れあがってる。ベッドの横に置いてある回復薬をかける。
「うっ、あつ、い」
燃えるように痛い
「ニコラス、」
もういない。
いつも困った時に助けてくれるニコラスもいない。
「お嬢様、泣かないでください。こんなの知られたら俺の首がなくなる。絶対坊ちゃん達が乗り込む」
泣いてる場合じゃないのに涙が止まらない。魔法がつむげない。回復薬をかけても良くならないなら魔石を手にとろうとする手を抑えられる。ぼやけたディーンが首を振っている。
「お嬢様、」
「急がないと、食べられちゃう。離して、お願い」
「行かせません」
抑えつけられるディーンの手が解けない
「ディーン、お願い、はなしなさい、命令よ」
「お嬢様、困った時はどうするって教わりました」
「離して、お願い」
「お嬢様、いつもなんて言われました?」
リリア、忘れないで。困ったらちゃんと
「そう、だんする。」
「お嬢様、エクリ公爵令嬢に相談しましょう。第二王子殿下に」
「だめ、ディーン、離して、お願い、セノンが」
「リリア」
「セノンが食べられちゃう、お願い、命令」
「お嬢様、横をみてください」
横?ディーンから視線をはずすと、
「クレア、さま、が見えます。幻覚、でしょうか」
「お嬢様、泣き止んでください。お客様がきてます」
「お、きゃく、さま」
「いい。泣いてろ。状況はわかっている」
頭に重みを感じて見上げると、ぼやけた第二王子殿下も見えます。
「せのん、たべられちゃう」
「食べさせないから。義姉上も動いてくださっている」
「リリアをこんなに泣かせて。頭!?腕!?」
「この腕・・。リリ、命に関わるから魔法は使うな。なにがあった」
「まほう」
「お嬢様が第一王子殿下の命で剣を向けられるセノンに結界をはったら兵に攻撃されました。魔法攻撃を受けてもお嬢様がセノンの結界を解かないので峰打ちされて意識を失いました。俺もなぜか動けませんでした」
「嘘だろ!?これは、やりすぎだろ。兄上、」
やっぱり、連れていかれた。セノン、ごめん。
「セノン、ずっと泣いてたのに助けてあげられなかった。」
「クレア、リリを大神殿に連れていけるか」
「うん。治療させる。絶対に許さない」
「リリ、魔法を使うと命に関わるから絶対に使うなよ。セノンは絶対に食べさせたりしない。だからまずは体を治せ」
「だいじょうぶ」
「大丈夫じゃない。駄目だ。セノンは俺がなんとかするから。ちゃんと会わせてやるから」
「リリア、セノン様は貴方が大好きよ。その腕じゃ抱っこできないわ。先に治すの。元気になって迎えに行こう」
「お嬢様失礼しますよ」
ディーンに抱き上げられる。
「まきこめない」
「俺はリリに恩がある。兄上のしたことは許されない」
「私はリリアの友達だもの。リリア、殿下にお任せすればいいわ。」
今の私じゃ、だめ。魔法が使えないならセノンを取り返しにいけない。私はクレア様を利用したのに。
「リリ、気にするな。大人に任せて子供は休め」
「でんか、よろしくお願いします。」
「ああ。任せろ」
魔法を戻さないと。どうすれば
「お嬢様、眠ってください」
「そんな場合じゃ」
「今の、お嬢様は何もできません。泣く体力を休息にまわしてください。泣いてもなんにもなりません。」
「言い過ぎよ」
「いえ、この人は言い聞かせないと駄目なんです。落ち込む暇があるなら?」
「くんれんする」
「正解です。おやすみなさい」
ディーンの言葉に目を閉じました。眠って魔力を回復させないといけません。
リリア、無理するな。しっかり休んで。
でも、全然駄目。
やりすぎだよ。明日も練習付き合うから今日は終わりにしよう。出来るまで付き合うから。休んで魔力を回復させたらうまくいくよ。
わかった。
本当にリリアは俺がいないと駄目だな
「にこらす、」
懐かしい。これは魔法の練習していた頃だ。
最初は難しくて、全然うまくいかなくて、皆諦めなさいって。使えなくても困らないよって。でもニコラスだけは、できるようになるよって励まして側にいてくれた。
「熱っ!?」
起き上がろうとすると体が抑えられてます。腕が、
「熱いです、」
「お嬢様、耐えてください。魔詛は聖水でしか治りません。腕が治らないと魔法は使えません」
「魔詛?あつい、いたっ」
「神官様、気にせずやってください。黒魔法でできた傷は魔法を封じます。うちの国とは魔法の種類が違うんですって。黒魔術みたいなものです。」
「いたい、がまん、う、あぁぁぁ」
涙がでます。水がかけられるたびに腕が焼かれる気がします。本当に治療ですか!?
「でぃーん、どうすればいたい、の我慢できますか」
「集中してください」
「なにに?う、っつ、やっ、うぁぁ、」
「眠ってください」
「む、りです」
「やめますか?」
「だめ。いや、うっ、まほうを、戻さないと」
熱い。痛い。全然熱くて痛いのになれません。
「楽しいことでも考えてください」
熱い、痛い、もうなにもかんがえられません。楽しい、もうわかりません。
「セノン、シロ、おとうさま、おかあさま、おにいさま、あいたい」
「帰ったら会えますよ」
いたいよ、たすけて、でもセノンはもっといたい、ぼんやりしてきました、
「お嬢様、ニコラス様のこと嫌い?」
「ううん」
「好きですか?」
「うん」
「なんで婚約ことわったの」
「すてられる」
「捨てないなら?」
「すてられるの、あいたい どこ」
痛みが遠くなってきました。
目を開けると右腕には包帯が巻かれています。
起き上がろうとしても、起き上がれません。
「お嬢様、魔法は使ってはいけません」
「ディーン、体に力が入りません」
「治療のため体の魔力を空にしました。そして治療のせいで体力も消耗しています」
「セノン」
「リリア、大丈夫よ。第二王子殿下達が動いてくださっている。それにお客様よ」
「リリー」
聞き覚えぼある優しい声は、見なくてもわかります。
「お父様、お兄様」
「お前から全然手紙が来なくて心配してきてみれば」
「ごめんなさい。」
「リリー、事情は聞いたよ。後はお兄様に任せなさい」
「わたしのわがままだから」
「可愛い妹のわがままを叶えるのは兄の楽しみだ。いずれリリーも動かないといけない時が来るから今は休みなさい」
「ディーンから報告は聞いたよ。たくさんの人を救ったんだろ。頑張ったな。ご褒美にちゃんとリリーのお願いを叶えるよ」
「セノンに痛い思いをさせたくないの」
「ああ。お父様達に任せて休みなさい」
涙がまた出てきました。
「セノンを助けて」
「ああ。助けて家に帰ろう」
お父様の頭を撫でてくれる優しい手に負けて目を閉じました。
「さて、準備をしないと。念のため用意した親書を使うことになるかな」
「うちのリリーになんてことを。リリーの叫び声なんて初めて聞きました。」




