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ジーク出陣

本日二回目の更新です。

(クソッタレが!)

ジークは独立国家グレステレンのヴェスガンからの密使に大声で喚き散らしたくなった。

未踏破地域で静かすぎる場所は強大な力を持った魔物の支配下に入る事を意味している。

その相手が何なのか分からない。

相応の準備をしていない。

引き返すのが定石である。

もしその縄張りを無視して進めば相応の報いが待っている。

(ガリムス代表は生きているか?)

「スィーリア! 今から城に登り陛下に謁見する! 事は急ぐ! 蒼薔薇を集めておいてくれ!」

(もし伝聞通り性質<タチ>の悪い竜なら中央大陸の南部は地獄になる・・・!)

急がねばならなかった。



謁見の間には数人の重臣達が控えていた。

各地からの陳情だがそれらを無視してジークは君主ファザード王の前に来た。

普段とは違う様子に家臣一団何事かと思いジークを優先させる。

只ならぬ雰囲気にファザード王もジークを前に呼ぶ。

「ペンドラゴン卿、何事か?」

「グレステレンから密使が来ました。私の経験からですので確約はしかねますが恐らく中央大陸の南部が地獄となります。同盟を結んでいるグレステレンと妖精族領に危機が迫っておるやもしれませぬ。」

「!? 詳しく話せ。」

「グレステレンは南部未開拓地の開発に着手しておりますが、密使の話によると妖魔の姿はおろか獣の姿も見えないとか。未開拓地や未踏破地域でこのような現象に当たるのは力ある魔物の勢力下に入った事を意味します。古い伝聞や書物から考えるにかなり齢を重ねた成竜<レッサー・ドラゴン>がいると思われます。ただの竜ですら街一つを滅ぼす存在。それが長い時を生きた竜ならば魔法にも精通しております。国一つが滅びます。」

「な! 国が滅ぶだと!?」

「はい。だからと言って大軍を差し向ければ強力な炎の息<ブレス>でことごとく焼き殺されます。少数精鋭を以て臨みます。」

「・・・それは一冒険者として臨むという事か?」

「その為に蒼薔薇に招集をかけております。」

「少人数だから急ぐ旅が出来るか・・・。事はそれほど切迫しているのか?」

「南部未開拓地で広大な平原を発見したとの事です。ガリムス代表自らが視察に赴いたとの事。おそらくは竜と鉢合わせしたと思われます。」

「! では、ガリムス代表は!?」

「もう、この世にいないかと・・・。」

ファザード王はドッと背もたれに体を預ける。

「陛下、御下知を。このままでは大陸南部の無辜の民が死に絶えます。」

「判った。ジーク=ペンドラゴン侯爵、竜退治を命ずる。死ぬなよ・・・。」

「御意。」



グレステレンの数々の町は地獄となっていた。

赤茶色の竜が歩き回る。

その度に家屋は潰れ人が逃げ惑う。

それを巨大な咢<あぎと>が食らう。

その破滅の足音は東西南北あらゆる方向に向かっていた。

勿論妖精族領にも。



「お久しぶりです、エルミナ代表。」

ジークはまず、妖精族領に入った。力ある精霊魔法の使い手を借り受ける為である。

ジークの方も気合を入れている。

邪神討伐時の持ち得る最強の装備を以て臨んでいる。

蒼薔薇にも魔法の武具を下賜している。

手の空いていたミシェル=ファーツやユノ=フローロも協力を申し出てきている。

流石に女神の雫はアクアーリィやファニスを始め妊婦が多いため留守番となった。

このジーク一行の到着に妖精族領は大いに湧いた。

「ペンドラゴン卿! よくぞ来てくださいました!」

妖精族の代表を務めるエルミナは感涙した。

絶望の中に光が差したのだ。

「時が惜しい。すぐに対策の話し合いをしたい。」

エルミナに否など無かった。



「グレステレンは壊滅だな・・・。」

その言をエルミナが引き継ぐ。

「それどころかジルベルク帝国の南部にまで竜の被害が広がっているわ。南の要害が完全に焼き払われたそうよ。この妖精族領もいくつもの村が焼き払われたわ・・・。」

泣きそうになるのを必死になってエルミナは堪える。

ジークはしばし目を閉じ考えに耽る。

「ジーク?」

怪訝に思い眷属でもある蒼薔薇の代表ヴィッシュが声をかける。

黙ったままのジークが何か知恵を出すのだと思い皆静まり返る。

だが、出て来たのは逆の言葉だった。

「拙いかもしれねぇ。・・・確認したい。南部未開拓地の竜は今まで活動していたか?」

「今回の騒ぎで最年長の長老が少しだけ竜の存在を知っていたわ。」

「その長老って何歳だ?」

「? エルフで三百歳を超えてるけど・・・?」

「!? 拙い! 今回の竜は老竜<エルダー・ドラゴン>かもしれねぇ! 被害地域がもっと広がるぞ!」

「それ程違うものなの!?」

エルミナは問わずにはいられなかった。

今ですら尋常ならざる被害が出ているのだ。

にもかかわらず被害がまだ広がるというのだ。

「老竜<エルダー・ドラゴン>とはそれ程危険なものなの!?」

「危険なんてモンじゃあねぇよ! 古代竜<エンシェント・ドラゴン>に次ぐ実力を持ってるんだぞ! 国どころか大陸が滅びるぞ! 何でそんな物騒なのが人知れず南部の未開拓地で生息してるんだよ!」

その場に居た全員が息をのむ。

「大陸が・・・。」

「・・・滅びる。」

現実味が無かった。

だが、ジークの表情から嘘は無いと判断できる。

「エルミナ代表! 数に者を言わせても無駄な犠牲が出るだけだ! 力のある精霊使いの協力を借り受けたい! 紹介してくれ!」

「・・・なら私が行くわ。こう見えて妖精族領で一番の自負があるわ。」

「!? あんた自らかよ! もし何かあったら・・・。」

「もしももクソも無いわよ! 貴方の言い分が正しければこの大陸が滅びるんでしょ! 是非など無いわ!」

エルミナの決意が固いと分かりジークの方が折れる。

「・・・分かった。魔法の援護を頼む・・・。」

瞳に強い意志を宿しエルミナは頷く。

ジーク一行はその日のうちにグレステレンに出立した。



ジルベルク帝国は恐慌状態に陥っていた。

東西南北を守る天然の要害を利用して作られた要塞の一つを空からの強力な炎の息<ブレス>で焼き滅ぼされたのだ。

特に南はグレステレンに対応するため精鋭の兵を三千詰めさせていた。

それが一瞬で焼き滅ぼされた。

周囲の砦も同様に次々と焼かれてジルベルク帝国の南部に存在した軍は壊滅した。



「何故あんな化け物がいる!」

南軍全滅の知らせはジルベルク帝国の宮殿にまで当然届けられた。

メルキアは玉座の肘掛を力任せに叩く。

並み居る重臣たちは最初は信じなかったが、竜の存在を知らされ納得せざるおえなかった。

当然、竜退治の勇者を募った。

名だたる戦士、高名な魔術師、徳の高い神官、残った各要塞からも兵を寄せた。

だが、無駄に終わった。

兵は一瞬で炎の息<ブレス>で焼き払われ、冒険者たちも次々と犠牲になる。

壊走するところを巨大な咢が開き貪るように食われる。

最早手の打ちようが無かった。

そんな所に吉報が届く。

邪神討伐の英雄、ジーク=ペンドラゴン侯爵が竜退治に乗り出す。



「これこそ地獄絵図だ・・・。」

妖精族領を出立してから五日。

グレステレンの街があった場所に来ていた。

建物は崩壊。

焼け焦げた人の成れの果て。

食われたのだろう。臓腑がこぼれている。

竜がもたらした凶行に吐き気を覚える。

ようやく避難所らしきものを見つけ声をかける。

「誰でもいい。グレステレンの政務に携わるヴェスガン殿を知らないか? スイストリアのジークが来たと伝えたいのだ。」

このジークの言葉にすぐに答える者がいた。

「ペンドラゴン卿!」

片足を引きずり左手の肘から先を無くした壮年の男性が声をかけて来る。

「私がヴェスガンです! 手遅れでございました! 密使を出してすぐに竜がグレステレンを襲いに来ました! ガリムス代表は竜に食われたとの事。スイストリアの、いえ、ペンドラゴン卿の再三にわたる忠告を無視したがために招いた結果です。グレステレンは終わりました・・・。恥を忍んでお願いします。このままでは何ら罪のない民が竜の餌食になります。どうか悪竜の退治をお願いしたい!」



その日の内にジークは南部未開拓地に向け出陣した。

誤字脱字、話の矛盾、おかしなところがありましたらご報告お願いします。

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