密書
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ジルベルク帝国は厳しい政治状況を強いられている。
先の同盟同時侵攻、ファーナリスの誘拐事件解決などが大きな事柄だ。
あらゆる策が講じられまたは阻まれた。
その為やるべきことが限られてくる。
「冬期に出来る事なぞ内政と外交ぐらいしかないのに・・・。」
ジルベルク帝国宮殿内にあるメルキア=ジルベルクの私室で一人うなだれる。
今では外交は断たれている。
ジークの策でジルベルク包囲同盟が結成されたためだ。
シーディッシュ中央大陸における国家群は全て合わせて七か国。スイストリア王国、ファーナリス法王国内、アーメリアス王国、ジルベルク帝国、独立国家グレステレン、妖精族領、クアート自治領である。その内五か国がジルベルク帝国の敵になっている。
唯一中立の立場を取っていたクアート自治領は担当官の横暴とメルキア自身の意志での侵攻で自治権を放棄。スイストリアの保護下に入った。中立国すら無くなったのだ。
外交問題は内政問題まで引き起こす。
現に穀物が手に入りにくい。
アーメリアス王国を下せばそれも解決できるがジルベルク包囲同盟がそれを許さないだろう。
問題が次から次へと湧き出してくる。
その山積みとなった問題が記された羊皮紙を一つ取り出すと溜息をつく。
(何故こうも上手くいかぬ!)
それほどジークが打った同盟は妙手であった。
(この状況を打破できるのはジークしかおらん・・・。)
メルキア=ジルベルクはジークを幕僚下に加える事をまだ諦めていなかった。
「ふん。」
ジークの元の届けられた密書を読み鼻を鳴らす。
(一応親父殿と陛下にも知らせておくか・・・。)
「いまさらだね・・・。」
「本当に今更だ・・・。」
「・・・・・・・・・。」
ジークの元に届けられた密書にはフブカ、ベリガン、ガンド、アモンデスの身柄を引き渡すので同盟による包囲を解除してもらうよう尽力していただきたと記されてあった。
「どうするんだい? 婿殿。彼らの首級を誰よりも欲しがっていたのは君だよ?」
「後顧の憂いを断つという意味ではこやつらを生かしたままにしておけん。」
本家の当主ソルバテス公と主君ファザード王に言われてジークは答えを述べる。
「・・・今回の取引は無しだな。」
二人は意外という顔をする。
「この包囲網にはそれをはるかに超える価値がある。今更フブカと三バカの首で手打ちなぞ出来るか。冗談ではない。」
「では、使者には私から返事をしよう。」
「お願いします。」
こうして届けられた密書はあっさり返事をもらう事になった。
だが、それでもジークの中には不安もあった。
(同盟発足時でなく何故今なんだ? また何か策を巡らせてるんだろう・・・。)
「やはり無理だったか・・・。」
メルキア=ジルベルクは落胆の色も見せずに使者からの返答を聞いていた。
(今更奴らに価値なぞ無いか・・・。)
メルキアは世間から後ろ指を指される事なく「役が終わった」穀潰し共を始末する方法を既に考えていた。
「メルキア殿何用か?」
元スイストリア王フブカはメルキア=ジルベルクの呼び出しでジルベルク帝国の宮殿に呼び出された。
未だ自分を王だと思い込みそれを態度で表す。
ここまで来ると喜劇として面白いとメルキアは思っていた。
だが、その面白い喜劇に幕を引くために呼びつけたのだ。
「とんでもない事をしてくれたな、フブカ殿。」
自分でも分かるほど冷酷な笑みを浮かべる。
この冷笑にフブカは凍り付く。
「そこに控えている御令嬢を覚えているか?」
壁の華となっている女性三名を指し示す。美しく着飾っている。
フブカには見覚えが無かった。
だが、知っていなければいけない女性たちだ。
フブカ付きの女中達である。
「貴様はこの者達を手付にしたろう!」
「!!」
フブカはやっと自分の凶行を思い出した。
「し、しかしたかが・・・。」
「たかがだと!」
メルキアは芝居がかっている自分のしぐさに笑いが込み上げてきたが必死に堪える。
「この者達は貴殿の子を宿したのだぞ!」
嘘八百である。
宿っているのはメルキアの子である。
フブカの御手つきを何度も貰いながら子を宿すことが出来なかった。
そしてフブカの子としてメルキアの胤を仕込んだのだ。
そんな事など知らないフブカは戸惑うばかりだった。
女中たちがなぜこのように着飾っているのか。
己が胤無しでない事を喜んでいいのか、子が出来たことを喜んでいいのか。
フブカが混乱している所にさらにメルキアは追撃をかける。
「彼女たちは行儀見習いとして貴様に付けた帝国貴族の御令嬢たちだ!」
「!」
流石に厚顔無恥のフブカも慌てた。
下賤の身を漁ったと思ったらそれが貴種だと言われたのだ。それも三人とも。
「貴様は謂わば居候の身だ! にもかかわらず帝国貴族の名家の家々を傷つけたのだぞ! 分かっておるのか!」
「いや! これは、その!」
しどろもどろになるフブカをメルキアは冷酷に舌で切りつける。
「責任を取ってもらう。」
「せ、責任?」
「そうだ。今のお前は禄を食みながら何一つ働かない。そこで大手柄を得れば今までの怠けたことを不問にしこの三人を正式に妃にするように取り計らってやる。」
甘美な言葉が並ぶ。
後ろ指を指される事なく過ごせる。
フブカは一も二も無くメルキアの出した条件に乗った。
「な! フブカ様はその条件をお飲みになったのですか!?」
「あぁ、こんな厳しい条件を出せば諦めるかと思ったのだが逆に乗り気の成ってな。困っておる。お前たちは共にここジルベルクまで一緒に落ち延びて来た仲。フブカ王を助けてくれないか?」
「・・・分かりました。」
「お任せ下さい!」
「・・・やってみましょう。」
メルキアの寝室では例の御令嬢たちが乱交を繰り広げていた。
彼女たちの正体は色事を仕掛けて情報を引き出す密偵である。
ただし今はただの女としてメルキア=ジルベルク一人を相手にしている。
「陛下は本当に悪いお方・・・。愚劣極まるフブカにあのような大任を仰せ付けスイストリアに討ち取らせるおつもりでしょ? さらに例の三バカ、元宰相のベリガンに元宮廷魔術師のガンドそして元騎士団長のアモンデス、これら三名を加えて一緒に始末する。私たちは悲劇の女として大義名分を掲げる。フブカ王の子を宿しスイストリアの嫡流を受け継いでいると宣伝するのでしょ? 素敵な筋書きですわ。」
「実際は俺の子だがな。」
「では我らはいずれは国母と?」
「そうだ。今後はフブカの妃として振る舞え。色事担当の密偵は別な者にする。」
「畏まりました。」
三人を代表者して一人が答え頭を下げる。残りの二人もこれに倣う。
フブカと三バカが受けた仕事は北部に対する築城である。
メルキア=ジルベルクの筋書きはスイストリアへの密書から始まっている。
もしこれをスイストリアが万が一に受ければ大儲けである。
穀潰しを一掃し尚且つ包囲網がなくなるのだから。
だがこれは虫が良すぎる。
案の定この取引は蹴られた。
そこで第二段階に進んだ。
フブカの子をでっち上げたのだ。
そして穀潰し共をスイストリアで討ち取って貰う。
逃げ道も当然潰している。
逃げ帰ってこられると困るためスイストリア軍で討ち取られるように手の者を潜ませてもいる。
こうして死んでもらう事で悲劇の未亡人を作り上げる。
この子たちは当然嫡流として生きてもらう事になる。
例え胤がメルキア=ジルベルクでも表沙汰ではフブカの子として扱う。
こうしてスイストリアとジルベルク帝国のお家騒動にすることで他国からの干渉を受けない様にするための策を練ったのだ。
この密書にはそこまでに計略が込められていたのだ。
(ジークよ! さぁ、どうする!)
メルキア=ジルベルクの目に狂気が宿る。
いつも推敲はしているのですが思い込むとなかなか気づけません。
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