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冬が来る前に

ジークは歯を噛み締めていた。

(地図で見て知ってはいたがここまで天然の要害となると落とせん・・・。)

山、川、谷、色々な地形が複雑に絡み合った地形の真中にジルベルク帝国の帝都が築かれている。

手を出しにくいなどという生易しものではない。

(手を出さずに手に入れる、か・・・。)

冬が近づいてる今、決断が迫られた。



「理由を聞かせて貰えぬか?」

独立国家グレステレンの代表ガリムス=グリズラーがジーク=ペンドラゴン侯爵に問う。

「いくつも要因はある。」

ジークはこの戦をここまでとする宣言をしたのだ。

なお、此処まで肩を並べ戦った仲という事で言葉遣いを畏まったものではなくいつも通りの言い方にしようと話し合って決めている。

「一つ目、この天然の要害を落とすには時間も準備も足りな過ぎる。」

ジークは地図を広げて説明を始める。

「東西南北に堅牢な要塞がある。その隙間を縫うように深い河が流れている。流れも急だ。渡る事は不可能だ。」

「・・・・・・。」

「家の空軍で攻めれば良いと思うが数が少ない。弓矢の的になって終わりだ。」

「なら、囲んで兵糧攻めはいかがですか? 帝国は農耕地が少ないのです。すぐに根を上げるのでは?」

アーメリアス王国王子プリス=アーメリアスが質問するが、ジークはそれを首を振り否定する。

「それは逆にこちらの首を絞める事になる。忘れてないか? あと三月もすれば冬が来る。」

「!」

「帝国は雪害はそうでもないが周りが山々に囲まれた盆地に帝都がある。冬の寒さは厳しいなんてもんじゃあないだろう。越冬のための小屋をいくつも作ることになる。それでも凍死するものが出てくるはずだ。何より越冬の出費が痛い過ぎる。試算したがこの同盟が越冬する場合国が一つ傾くぞ?」

「がばばばばばばばばぁぁぁ! 童<わっぱ>が言うんじゃぁぁぁ! 仕方があるまいぃぃぃ! ジルベルク帝国の中央は来年の春以降に預けようぞぉぉぉ!」

ファーナリス法王国ヒョードル将軍がジークの支援に回る。

「ジークさん、本当にどうにもならないの?」

妖精族領の代表エルミナも聞いてくる。後顧の憂いを断ちたいのだろう。

これらを聞いてジークはもう一つの理由を明かす。

「一番怖いのは曇天が出て来る事だ。」

「どんてん?」

プリスが問いかけてくる。

「あぁ、曇天だ。出陣する時、晴れた日に当たった事がない為に付けられた字だ。本名はルーフェン=ウェイン。神に祝福された神格位を持つ勇者だ。」

「「「!!!」」」

一同驚く。

神格の位にもよるがほとんどが一騎当千の化け物なのだ。

「何の神かは知らねえがとにかく神格を持つ勇者様だ。連れの者達もかなり腕が立つって聞いてる。ヒョードル将軍、打ち合えるか?」

「この中で神格持ちの勇者と互角以上にやり合えるのは童<わっぱ>だけじゃぁぁぁ! ワシでは数合打ち合っただけで首が飛ぶじゃろうぉぉぉ!」

「と、言う訳だ。準備も足りない、時間も足りない、兵も足りない、ナイナイ尽くしだ。」

それでもガリムスが言い募る。

「さっきヒョードルがジークなら打ち合えると言ったではないか?」

「戦役大陸でも神格位を持つ奴らと何度もやった。俺が生きている以上結果は話さなくてもいいだろ? 仮に曇天と俺がやり合う事になったら全体の指揮を誰が執る?」

「ぐっ!」

ガリムスは言葉を詰まらせる。

五か国が上手く連携を取れるのは戦役大陸で「不敗の将」などと呼ばれるジークが総指揮を執っているからである。そうでなければ烏合の衆としてとっくに帝国に引導を渡されている。

「向こうから出張って来てくれるなら助かるがそんなことは無い。断言しよう。いまのジルベルク帝国で籠城以外の最上策は無い。・・・あ、もう一つ可能性がある。」

「! それは何ですか!?」

帝国がこの状況をひっくり返す策である。みんな興味を示す。

「・・・曇天を単独こちらに乗り込ませて俺の首を取る事だ。曇天にとっちゃあ千も二千も数じゃねぇだろう。」

「・・・・・・。」

一同何も言えなくなる。千や二千を物ともしないなど、どれ程の化け物か想像が出来ないからだ。

だが、そんな事を言ったが為かは分からないが事が起きようとしていた。



「ルーフェンよ。頼めるか?」

「お任せ下さい!」



ジークは朝早くに目が覚めた。

いつもより若干早い。

妙な胸騒ぎがする。

ファザード王から下賜された白の装備を身に纏い始める。

スイストリアの総指揮官として参陣してるためスイストリアの家宝を纏って来たのだ。綿入れを着込みその上に純白の板金鎧<プレート・アーマー>を纏う。腰には長剣<ロング・ソード>、盾は今回は持ってこなかった。代わりに別の手柄で下賜された長柄戦斧<ポール・アックス>を持ってきている。どれもこれもが真の銀<ミスリル>で出来た強力な魔法の武器だ。

(悪い予感ほど当たるんだよな・・・。)

空は曇っていた。



引き上げを決めた翌日、いつ引き上げるかという事を話し合っているところに急報が届く。

「ルーフェン=ウェインと名乗る者がジーク様に一騎打ちを申し出ております。」

そこに大音声で声が響く。



「邪神討伐の英雄ジーク=ペンドラゴン侯爵! 私の名はルーフェン=ウェイン! 神格位を持つ勇者だ! 我が名が怖くなければ我が目の前に現れよ! 武勇の誉れを決めるべく一騎打ちを所望する!」



「どうしてこう馬鹿しかいないんだ・・・。」

そう言いつつも席を立つ。横に置いておいた長柄戦斧<ポール・アックス>を片手に持ち本陣を出る。

クローゼとクローディアがそれぞれスイストリア王国の国旗とペンドラゴン侯爵の旗を持ちジークの後に続く。

各国の代表もその後に続く。

大声のした場所はすぐに分かった。

ジルベルク帝国の国旗がはためいている。



そこには四人の人物がいた。

(ルーフェン=ウェイン・・・。)

すぐに分かった。身に纏う気配が尋常ではない。ジークは気配を消す様に心がけているが目の前の神格位持ちはまき散らしている。

いけ好かない。

そう思った。

(と、いう事はその隣にいる女戦士がミシェル=ハーツで女神官がユノ=フローロ。残りの爺様がブレミース=イモスか・・・。)



「ようやく会えたな! 邪神殺し!」

「初めましてだな。勇者様。」

ルーフェンは敵意をまき散らしながら。

ジークは子供の相手をするような気軽さで。

それぞれ応じる。



「クローゼ、クローディア、後ろへ下がってろ。」

「御意。」

「はい。」

「みんな! 後ろへ! この鼻持ちならない英雄の首を獲る!!」

「分かったわ!」

「頑張って!」

「気を付けよ・・・。」



ルーフェン=ウェインの装備はジークに比べて軽装な物だった。革鎧<レザー・アーマー>に長剣<ロング・ソード>。そして長柄斧槍<ハルバード>。

このうち長柄斧槍<ハルバード>だけが魔法の武器だ。先ほどから魔法のオーラを放っている。

どちらからともなく互いの竿状武器<ポール・ウェポン>を振りかぶりぶつけ合う。辺りには耳をつんざく様な音が響き渡る。



「クローディア殿、いつでも動けるようにしておいて下さい。」

クローゼは配下の者にペンドラゴン侯爵の旗を預けてクローディアに話しかける。

「! ジークが負けるとでも!?」

クローゼに習いクローディアもスイストリアの国旗を兵に預ける。

「ジーク様は負けません。それどころか完勝するでしょう。」

「なら、なぜ?」

「ルーフェン=ウェインの一行で大剣を使う女戦士、ミシェル=ハーツはルーフェン=ウェインの為ならば後先考えずに行動することで有名なのです。ルーフェン=ウェインの首級を我が君が取ろうとすれば必ず邪魔をします。」



「ルーフェン! そんな聖騎士まがいの奴なんか瞬殺しちゃえ!」

「ルーフェン様! 頑張ってください!」

「気を付けよ、ルーフェン! 相手は只者ではないぞ!」



互いの武器が弾きあった後、先手を取ったのはジークだ。

ジークの長柄戦斧<ポール・アックス>が空を裂くが如く唸る。

それを捌けないと察したルーフェンはとっさに回避する。

が、間に合わない。

僅かに掠る。

その瞬間内臓が飛び出るのではないかと思うぐらいの衝撃が走る。

(嘘だろ!?)

その一撃の重さにルーフェンは驚きを隠せない。

すぐさま距離を取る。が、逃してくれない。

続けざまにもう一撃を貰う。

今度は回避が間に合わない。

長柄斧槍<ハルバード>で受け止める。が、受けきれない。

体ごと浮き上がり二、三歩後退する。

(化け物かよ!?)

ルーフェンは未だ攻撃できていない。



「ちょっと・・・。嘘でしょ・・・。」

ミシェル=ハーツは目の前の光景が信じられなかった。

今までどんな敵でも数合打ち合えばその首が宙に飛んだ。

だが、今度の敵はそれが無い。

それどころかルーフェンが攻撃に転じる事を許さないと言わんばかりに猛攻をかける。防戦一方の相方に冷汗が流れる。

(嘘よね? 場を盛り上げるための余興よね?)



(何なんだよ!? こいつは!?)

ルーフェンは必死に防御と回避に専念した。下手な攻撃が出来ない。

した瞬間に自分の首が飛ぶような気がしてならない。

その猛攻に隙が出来た。

(今だ!)



(簡単に引っかかる・・・。)

ルーフェンの長柄斧槍<ハルバード>の突きを余裕を持って躱す。

その回避時の力を利用しくるりと回転する。

そうするとどうだろう。

ジークの長柄戦斧<ポール・アックス>がしなりながらルーフェンにせまる。

回転による遠心力が加わった必殺の一撃が炸裂した。



「ルーフェン!」

ミシェル=ハーツが悲鳴の如き声で自分の相方を呼ぶ。

回転攻撃と言う回避から攻撃と言う一種の虚を突く攻撃にルーフェンは対応できずにいた。だが、腐っても神格位を持つ勇者だ。

長柄斧槍<ハルバード>を自身と迫る長柄戦斧<ポール・アックス>の間に咄嗟にねじ込む。直撃は避けた。だが、十分重症になる一撃だ。

現にどこかしらの骨の折れる音が聞こえた。

もう、勝負はついていた。



「戦役大陸にもお前みたいに神格位を持つ奴はいるがここまで弱い奴は初めてだな。正直拍子抜けだ。」

ジークは素直な感想を述べる。

それもルーフェンにとっての侮蔑の言葉となる。

怒りを露わに武器を構える。

それを見てジークは盛大なため息をつく。

「・・・飽きたからそろそろ本気でケリを付けてもいいか?」



(今まで本気じゃなかったのかよ!?)

ジークのこの言葉にルーフェンは明らかに動揺する。

構える自慢の武器、長柄斧槍<ハルバード>がカタカタ震える。

「いくぞ。」

ジークの本気が始まった。



腐っても神格位を持つ勇者だ。ジークの本気の攻撃を何とか凌ぐ。

それでも全ては凌ぎ切れない。

左の耳が削がれた。

右の頬に深い傷が出来る。

手足には無数の裂傷が走る。

ジークの猛攻はどんどん速度を上げていく。

今度は左の薬指と小指が切り落とされる。

ルーフェンは最早限界だった。



「ルーフェン!」

我慢できずにミシェル=ハーツは一騎打ちに割って入ろうとする。

だが、それを許さない者達がいた。

「させん!」

僅かに反りがある細い曲刀を構える。

(だったら切り捨ていくまでよ! そんな細い剣叩き折ってやる!)

だが、受け流される。

(嘘! 受け流された!)

「切先は中切先、切先刃文は中丸帽子、鎬地は狭く鎬筋は低くし平地の肉は薄い。棟は庵棟、反りは物打で強くなる先反り。地鉄は板目肌、刃文は丁子、地肌は映り、茎は普通形、茎尻は栗尻、茎鑢は切鑢、樋は棒樋、無銘なれども彫物は旗鉾。我が君ジーク=ペンドラゴン侯爵より賜った魔剣。この様な時に使わねばいつ使う! 一騎打ちの邪魔などさせん! 貴公の相手は私が務める! さあ! 参れ!」

ミシェル=ハーツは歯軋りをする。



「貴方達の相手は私がします。」

ユノ=フローロとブレミース=イモスの前にはクローディアが現れた。

手には魔法のオーラを放つ一振りの魔剣。

それを構える。

「切先は中切先、切先刃文は中丸帽子、鎬地は狭く鎬筋は高くした。平地の肉は厚くし棟は庵棟、反りは無反りの地鉄は板目肌、刃文は丁子、地肌は映り、茎は普通形、茎尻は栗尻、茎鑢は切鑢、樋は棒樋、無銘なれど彫物は旗鉾、クローゼ様の持つ魔剣とは兄弟剣。自分達から持ち掛けた一騎打ちを自分たちで邪魔するなんて許されると思ってるの? 邪魔なんかさせないわ!」

クローディアが気迫の声を上げる。



(何なんだよ・・・!? こいつ・・・!?)

ルーフェンは限界にきていた。

一撃を捌く度に魂を削られるような思いがする。

神格位の権能を全開にしているのに太刀打ちできない。

相手がいくら邪神討伐の英雄だからと言ってここまで一方的にやられるとは思っていなかった。

とうとう捌ききれなくなりルーフェンの左腕が斬り飛ばされた。



「がああああああ!!」

左の肘から先を無くしたルーフェンが大地でもんどりうって転げまわる。

おびただしい血が左肘から流れる。

それを非常に冷めた目でジークは見下ろした。

「お前、ほんとに神格位を持った勇者か?」

傷の痛みが消えるほど底冷えのするゾッとする声がジークからかけられる。

ルーフェンはジークを見上げる。

「神格位を持った存在はそれに見合った敵と戦い続けるもんだ。だが、お前からはその戦いの重みが感じられねぇ。粋がったガキを相手してるみてぇだ。もう一度確認するぞ? お前ホントに神格位を持った勇者か? 今まで御同類と戦ったことはねぇのか? もしそうなら今までただの人相手に威張り腐っていたことになるよな?」

ルーフェンの体が恐怖で震える。

股間が濡れる。

失禁したのだ。

「自分より弱い奴しか相手にして来なかったんだろ、お前。だから御同類と戦うとこんなに弱いんだよ。」

「!! お前、神格位を持っているのか!?」

ルーフェンは驚きに目を丸くする。

「勘違いするなよ? 俺は権能なんざ使っちゃいねえ。ただの人として戦っているんだからな。神格位を持つならそれ位分かるだろ。」

「・・・・・・。」

「え? ひょっとして分からねえの? ・・・カス。」

ジークはゴミを見る様に罵る。

「折角ここまで来たんだその首置いてけ。」

ジークは長柄戦斧<ポール・アックス>を大きく振りかぶる。



「ルーフェン!」

ミシェルは焦った。このままではルーフェンの首が宙を舞う事になる。

それを阻止しようとしたいが目の前のダークエルフが許してくれない。

「余所見とは余裕だな。」

この一言と共に凄まじい連撃を食らう。

(くぅ! ルーフェンより重いし早い! 何なのよこいつ!)



「呪文の詠唱などさせると思うか!」

必殺の一撃を何とか躱す。

ユノ=フローロは癒しの呪文を唱える事が出来ずにいた。

ブレミース=イモスも同様だ。

魔法の援護をしたくても隙を見せたとたんに必殺の突きが来る。

二人がかりでクローディアを押さえている。

そうしなければ自分たちの喉笛に魔剣が突き刺さる。

(忌々しい! ワシの魔法の援護があれば形成を逆転できるものを!)

(早く癒しの魔法をかけないと!)



「あばよ。」

この言葉と共に長柄戦斧<ポール・アックス>が振り切られる。

狙いは首。

ルーフェンは今までの事が頭の中を駆け巡る。

(嫌だ! 嫌だ! 死にたくない! 死にたくない!)

咄嗟に右腕を突き出す。

ジークの長柄戦斧<ポール・アックス>を掴むように。



ずしゅぅぅぅぅ。

そんな音と共にルーフェンの右腕が「割れる」。

肩まですっぱり裂ける。

「があぁぁぁぁああああ!?」

悲鳴を上げながら一騎打ちの場から逃げ出す。



「ルーフェン!」

逃げるルーフェンに追いつく為自分の相手をしているダークエルフから逃亡を図る。

「させると思うか!」

(逃がしてくれないわよね! そりゃあ!)



(最早これまでか・・・。)

ブレミース=イモスはここを死地と決めた。



「ミシェル! ユノ! ここはワシが抑える! ルーフェンの後を追うんじゃ!」

「! でも!」

「長くは持たん! 早く行け!」

「・・・分かった。アリガト。・・・サヨナラ・・・。」

「・・・ブレミース=イモスの魂にやすらぎ有れ。」

「さらばじゃ。楽しかったぞ。」



(面倒くせぇ! 頭かち割って終わりにしてやる)

ジークはルーフェンの脳天に長柄戦斧<ポール・アックス>を叩きつけるが躱される。

(何!?)

だが、ルーフェンもその代償を払う。

完全には躱しきれなかったのだ。右の耳が削がれ、二枚におろされた右腕が肩からなくなる。

(えぇい! 往生際が悪い!)

その時光が奔った。



(なんだ?)

目を凝らすとブレミース=イモスが輝きながらそこにいた。

ジークは知っている。この現象を。

「あんな粋がったガキ助けるより長生きする選択があったはずだぞ爺さん。」

「目の前で若者が死ぬのは堪えるのでな。禁じ手を使わせてもらった。これは・・・。」

「一時的に神格位を取得する邪法だろ。」

「! 知っておったか!」

「戦役大陸で俺の首を取ろうとした奴らが同じ事したから知ってる。それ使うと魂が砕けるから邪神信仰する奴らぐらいしか使わないのにようやるわ。」

だがブレミース=イモスのこの邪法も一瞬で終わる。

ジークが首を刎ねたのだ。

(ルーフェンは? あの体で逃げ切れるとは思えねえ・・・。)

ジークは声を張る。

「ジルベルク帝国の勇者の首を上げよ! 自分で一騎打ちを仕掛けておいてそれを穢し逃亡する恥さらしだ! この期に及んで作法礼儀など要らん! 見つけ次第首を刎ねろ!」

こうして満身創痍のジルベルク帝国の神格位の勇者は追撃される。



「見つからない?」

兵達からの報告を訝しむ。

(こんだけ兵がいて見つけられねぇってことは逃げられたか・・・。でもどうやって? ・・・獲得した獲物は爺様の首とガキが使っていた長柄斧槍<ハルバード>。割に合わねぇ。)

ジークは一日を無駄にした気分になった。



「ルーフェン! 気をしっかり持つのよ! ユノ! 傷の具合は!?」

「傷を塞ぐ事は出来ましたけど欠損部分は・・・。」

「!! じゃあ両腕はこのままなの!?」

ブレミース=イモスが脱出させるため瞬間移動の魔法<テレポート>を使い三人を隠れ家に飛ばしたのだ。

一時的に神格を宿したができる荒業である。

こうしてジルベルク帝国に激震が走る。

虎の子の勇者が一方的にやられたのだ。

帝都は同盟軍の侵攻に今か今かと脅える様になった。



(がばばばばばばばばぁぁぁ! 流石は童<わっぱ>じゃぁぁぁ! こうも簡単にあしらうとはぁぁぁ! これからも安心できるぞぉぉぉl)

ファーナリス法王国のヒョードル将軍は盟友の手柄に喜んだ。



(あれが邪神討伐の英雄の実力・・・。圧倒的じゃないか! 攻防が何なのか見えもしなかった! 僕があの領域に辿り着くにはいったい何年かかるだろうか・・・。)

アーメリアス王国王子プリスは憧れと恐怖と絶望が混ぜこぜになった気持ちに支配された。



(ヴェスガンよ! 凄まじいものを見たぞ!)

独立国家グレステレンの代表ガリムス=グリズラーは狂喜した。

(あれが敵でなくて本当に助かる。)と。



(・・・本気で人質を考えないといけないわ。神格位の化け物をあそこまで一方的に痛めつけるなんて・・・。)

妖精族領の代表エルミナは苦悩を重ねる。



「我が君、そろそろ就寝せねば明日に障ります。」

「そうね、いっぱい可愛がってもらったし明日も頑張るわ。」

ジークは天幕にクローゼとクローディアを呼んで閨の相手をさせた。

天幕の外は暗い。もう夜が更けている。

そんな中、季節外れの雪がチラホラ降る。

まるでこれで終わりと言わんばかりに。



五日後各軍は国に帰っていく。

冬が来る前の一連の出来事である。

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