新体制
本日二話目です
ファザード=リレファンド=スイストリアが王の位についたことで国の体制がガラリと変わった。
民を慈しむ体制になったのだ。
今までのような無茶な納税義務はない。
東部から食料が流れてくる事で子供に空腹を我慢させないで済む。
無体な兵役も無い。
中でも民の関心を引いたのがジーク=ペンドラゴン士爵による改革だ。
正式名称ではないが東部七領と呼ばれる、ロッツフォード、グリズール、スハイル、プラディアム、ドノレケイス、ベルテガル、ザフル、特にロッツフォード領はこの数年で各産業の中心地となり繁栄の極みにいる。この近隣の領も合わせて繁栄している。よって俗に東部七領と呼ばれるようになった。
その東部七領を改革した中心人物こそ邪神討伐の英雄ジーク=ペンドラゴン士爵なのだ。注視するなと言う方が無理である。
(まいったなぁ・・・。)
個人年齢だけを問うならジークは断トツで年寄である。
だが、人生の中身を問われれば「スカスカ」と答えている。
故に今目の前にいる人生の酸いも辛いも味わった老齢な貴族や責務を全うしようとする威厳を携えた貴族が平身低頭で自分を迎え入れられてる事が逆に恐縮してしまっているのだ。
「ペンドラゴン士爵、何とぞお知恵をお貸しください。」
「東部七領の改革は見事でした。その辣腕を中央でも振るって欲しいのです。」
「西部はより酷いと聞きます。我らだけではどうしようもないのです。」
(なんで俺ばっかり!?)
こうしてジークはより一層自分の時間を削り旧体制からの脱却のために頑張らねばならなくなった。
「・・・死ぬ・・・。」
王領スイストリアの新しい城にあてがわれた私室でジークはベットに倒れこんでいた。
連日連夜、相談を受けているのだ。
旧法王国派の貴族で一枚岩となったが所領はまだ決まっていない。
所領を決める時間があるなら国力の回復を先にしなければ民が苦しむという事で国土全土と言う大掛かりな改革になったのだ。
冷害に強い作物はロッツフォードで作られているので取り寄せることになった。
水害に対しては金を惜しまずに使い流れを変えるほどの大掛かりな事業を提案したりもした。
それが出来そうにない場所は作り方も含めて堤防を作るように進言した。
他にも西部の飢餓状態にある人々の介護のために対応する術を授けもした。
こうしてジークの博覧強記が分かると一人残らずことごとくジークに相談者が来るようになった。
それはもう時も場所もわきまえずに。
食事中などまだいい方である。
深夜になってから来る者までいる。
とにかく自分の時間がないのだ。
正直に言えばフェルアノとアクアーリィ、能吏の両看板を連れてきたかった。だがそうなると東部七領を長期に渡り取り仕切れる者がいなくなる。
(瞬間移動の魔法<テレポート>でロッツフォードに逃げよっかなぁ。)
寝る間を惜しんでるのはジークだけでは無いのに非常に不届きな考えである。
「・・・随分とお疲れのようですが大丈夫ですか?」
マリアンヌがジークの様子を見かねて尋ねに来た。
正直声を掛けるのも躊躇われた。
目の下に隈が出来ている。
(少し寝させた方が良いのでは?)
そう思いながら声を掛けた。
声を掛けられた瞬間ビクリとジークの体が震える。
そして恐る恐る顔を上げて相手がマリアンヌと知りほぉ、とため息をつく。
「・・・正直今、誰の相手もしたくねぇ・・・。」
(これは重症だわ・・・。)
深夜まで話し合いをして何名かがさらにジークと話をしていると聞いていた。かなり睡眠時間を削られているのだろう。
抱える案件が他の貴族の三倍と聞いている。そこに東部七領からの報告が来るのだ。
マリアンヌは気分転換も兼ねてジークを王妃セラフィアとのお茶会に誘った。
「・・・随分とお疲れのようですが大丈夫ですか?」
(どっかで聞いた台詞だな。そんなにやつれてるか? 俺?)
王妃セラフィアがマリアンヌと同じセリフで気遣う。
「疲れていようがいまいが誰かがやらねばならない案件ですので・・・。」
(これは重症だわ・・・。)
奇しくもマリアンヌと同じ感想を持った。
「バカ者! 人の限界を考えろ!」
とうとうファザード=リレファンド=スイストリア王の雷が落ちた。
登ってくる案件全てにジークの手が入っていると知り流石に締めねばと思ったのだ。
「お前たちはペンドラゴン士爵に甘え過ぎだ! 自分たちでも調べるなり、考えるなりしろ! とにかくペンドラゴン士爵には三日間の休暇を与える。これは王命だ! その間はお前たちで何とかせよ!」
ジークに倒れられる方が困るのだ。
「と、いうわけで逃げてきた。」
ロッツフォード伯爵宅にジークは逃げ込んだ。
これを聞いて伯爵の頬が引きつる。
(あの忍耐力のあるジーク君が逃げ出すなんてどんな状況なの!?)
「・・・こっちはフェルアノさんとアクアーリィさんがいるからどうとでもなるけど、二人王都の方に派遣した方が良い?」
これを聞いてジークは頭を振る。
「東部七領はファーナリス法王国と連動してマテリア平原を割譲統治している。これはジルベルク帝国に対する要石だ。それを取り仕切れるのはフェルアノとアクアだ。この二入がいるから俺もロッツフォードを安心して留守にできる。それに今、あの地獄に二人を連れて行きたくねぇ。」
そういって入れられたお茶を一口飲む。
「・・・お茶の開発も軌道に乗りつつあるなぁ。」
結局どこにも逃げ場がない事を思い知らされた。
愛する妻のところに行く事にした。
「連絡だけでなかなか帰ってこないから何があったかと思えば・・・。」
スィーリアは呆れた。
(ふつう人の三倍以上仕事をこなす!?)
ジークが文官能吏としても優秀だとは知っていたがここまでできるとはしらなかったのだ。
とにかく今は心身ともに疲れ切っていいる。
心行くまで休ませようと思った。
それなのに・・・
「スィーリア、ベットに行こう。」
昼もまだなのにお誘いを受けた。
スィーリア自身も久方ぶりで欲していた。
この日は存分に乱れたが、翌日のスィーリアの充実ぶりに他の女性陣が不平等を訴えてきた。
休日二日目はさらに初日よりより一層淫らな一日となった。
休日三日目。
ジークは戦々恐々としていた。
(一日でも「アレ」なんだぞ!? 三日も休んだらどんだけ溜まってんだ!? 王都に行きたくねぇ!!)
仕事したくない病が発病していた。
(あれ? 思ったより少ねぇ・・・。)
結局はスィーリアに尻を叩かれ王都に来た。
来たのだが、羊皮紙の山が想像よりも少ない。
そこに元側室のヴィヴィアンが訪ねてきた。
「御加減はいかがですか? ペンドラゴン士爵?」
「この忙しい時期に休ませて頂いたのです。気力体力ともに充実しております。」
このセリフを聞いてヴィヴィアンは微笑む。
(良かった、いつもの士爵様だわ。)
実はマリアンヌに様子を見て来て欲しいと頼まれたのだ。
三日前の様子を伝え聞いていたヴィヴィアンは安心する。
「私ができるのはお茶を入れる事ぐらいです。政務のお仕事は大変ですが頑張ってください。」
この言葉を聞きジークは荷物から袋を取り出す。
「もしよければこのお茶をお使い下さい。王妃様とマリアンヌ様にもよろしくとお伝えください。」
「! わかりました。お体を大事にしてください。」
(やはりいつもの士爵様ですね。私がマリアンヌ様だけではなく王妃様にも頼まれたと見抜くのですから。)
「そうでしたか。完全に復調なされたようですね。マリアンヌに相談してよかったわ。」
王妃セラフィアと教育係のマリアンヌ、ヴィヴィアンはお茶会を開いていた。
「それで貰って来た新しいお茶をさっそく入れてみたのですが・・・。」
ヴィヴィアンが二人に配膳する。
「あら、豊かな香り・・・。」
「本当に・・・。」
「色も鮮やかです・・・。」
三人して口に含む。
「「「美味しい!」」」
ロッツフォードのお茶産業が生まれた瞬間だった。
四度の冬を何とか乗り越えスイストリアはようやく落ち着きを取り戻した。
西部の飢餓状態が無くなったのだ。
他にもジークの指示の元で河川の護岸工事や流れを変えるほどの大規模な工事も行い完了した。
これで水害も激減するだろう。
作物の品種改良はまだまだ先だが土壌の改良は進んでおり収穫量が年々増加傾向にある。
新生スイストリア王国になってから五年目の春を迎えることで民が安心して暮らせるようになった。
これが早いのか遅いのかはのちの歴史家たちが判断することになるだろう。