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王弟 立つ

スイストリア王家には一振りの剣が伝わっていた。

真の銀<ミスリル>で作られた豪奢な魔剣。

歴代の王が腰にさげた由緒ある剣である。

その魔剣は先王が病気により崩御された時に失われている。

正確には崩御される十年前から城の中から消えた。

フブカは権威の象徴たるこの魔剣を探さなかった。

剣術に興味も才も無かったからだ。

だが、今、世にその魔剣は出ようとしている。

ファザード=リレファンド=スイストリア。

元騎士の腰に下がりながら。



「ロッツフォード伯爵・・・。」

ファザードはソルバテス=ロッツフォード伯爵の手を取り涙を流した。

ジーク=ペンドラゴン卿から今までの経緯は聞いていた。

自分の体に流れる同じ血を持つ異母兄が粉骨砕身で国に尽くしてくれた忠臣に策謀のために拷問を行い杖なくして歩けぬ体にしたこと。

顔や体の傷が膿、酷い痣になってしまったこと。

己が身を隠したがためにその代価を払わせてしまったことを悔やんだ。

「許してくれ! どうか許してくれ! 私の臆病さでこのような体にしてしまったこと! この通り! 許してくれ!」

ファザードは頭を下げ、己の額にロッツフォード伯爵の手をつけて泣き謝り続けた。

ソルバテス=ロッツフォード伯爵の手にはファザードの涙が流れ落ちる。

「ソルバテス=ロッツフォード伯爵様、私からも謝ります。どうか夫を許してください。」

ファザードの妻、セラフィアも涙ながらに膝をつき頭を下げる。

この姿を見てソルバテスは覚悟を決めた。

「陛下、どうぞ面をお上げください。」



王弟、ファザード=リレファンド=スイストリア、ロッツフォードにて立つ。

この知らせはスイストリア王国中のみならず近隣国、ファーナリス法王国、ジルベルク帝国にまで及ぶ激震となった。

今のフブカ=スイストリアは一粒種だった為、政争が起こることなくあっさりと王位についた。だが、就いただけだった。男としても、政治家としても、何より王として器が足りな過ぎた。

今までの政治の腐敗のせいで側近にも恵まれなかった。

その証拠にスイストリア王国はフブカ王の御代になってから国の疲弊が加速された。

余りにも愚か過ぎたのだ。

そこに王家の象徴たる一振りの豪奢な剣を持って王弟が己こそが正当な王位を継ぐ者であるとして国を治めるために名乗り出てきたのだ。

ファーナリス法王国は民を思う王弟の出現に喜びスイストリアとの、厳密にはロッツフォードとの友誼をより強固にしようとした。

ジルベルク帝国はフブカを傀儡にしようとしていた。だが王弟、ファザード=リレファンド=スイストリアの出現でこの計画も潰えることになるだろう。賢王の出現に苦虫を噛み潰す。ロッツフォードが邪魔で政治的にも軍事的にも手を出したくても出せない状況であった。



「知らんぞ! ワシに弟がいたなんて! しかも下賤な民の血を引くというではないか! 認めん! そのような者を弟などとは認めんぞ!」

ファザード=リレファンド=スイストリアの出現でスイストリア王城は混乱の極みに陥っていた。

フブカのみならず、宰相のベリガン、側近のガンドやアモンデス、甘い汁を吸うためにおべっかを使っていた貴族たち。全てが混乱の中にいた。

否、正確には冷静な人物が一人いる。

王妃マリアンヌ=スイストリアである。

(これでスイストリア「王国」の滅亡だけは防げますね・・・。後は幕引きのために今、王城にいる貴族たちをロッツフォードに殲滅してもらい、フブカと私の首を晒すだけで決着となるでしょう・・・。)

穏やかな表情で空を見上げていた。

この期に及んで民を「下賤」と呼ぶフブカにせめて妻として付き合うことを決めていた。

「スイストリアの生きた宝石」と謳われたマリアンヌはこの時に死す覚悟を決めていた。



ファザード=リレファンド=スイストリアという錦の御旗の元ロッツフォード軍は現王権の元で圧政をしく貴族の討伐に乗り出した。特にスイストリア王国の西部は酷い状況だった。

食うに困り子供までもが餓死している事を知ったのだ。

ファザードを始めとするソルバテス、ジークはこれに怒り狂った。

「ここまで民を蔑ろにするとはもはや貴族とは言わん!」

ファザードの指示の元、西部の貴族の討伐が許可された。

「酷い・・・。」

ソルバテスの指示の元、民の救済が始まった。

「ガキにまでひもじい思いさせるなよ!」

ジークの指示の元、成敗が行われた。

ロッツフォードは兵農分離により職業軍人を育成してきた。

だが、元をただせばただの一般市民だ。

このような姿を見せられてロッツフォード軍に所属する兵たちも怒りに打ち震えた。

最早人とは思わない。

大領を持つ西部の貴族に対しこれが共通認識になった。

始めにスハイル領に隣接する領地から西部へ抜けるように征伐が行われた。

あえて中央の領地と王領は避けた。

危機感を煽らせてフブカを逃亡させないためである。こうして中央の領地と王都がある王領を避けて囲うように西部と南部を征伐していった。



スイストリアの貴族たちは次々と討伐、もしくは捕縛され続けた。



二年後。

ロッツフォード軍は王都がある王領スイストリアに来ていた。

そう、わずか二年でスイストリアの西部、南部、中央部の征伐が終わったのだ。

ロッツフォード軍がファザード=リレファンド=スイストリアの元、民の救済のために立ち上がったと知らされると義勇兵がどんどん集まってきたのだ。

統治に関しても民が積極的に協力してくれた。

ごねるものなどいなかった。

子供が餓死するような状況から民を救うべく活動してきたことが幸いした。



残すは王領ただ一つ。


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